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第四話 作者

 昼食を終えた僕は再び部屋に戻った。時刻は午後二時ぐらい。午後になっても僕ら四歳児にはやることはない。

七歳になる頃に貴族同士でのお披露目会が行われる。その時までに礼儀作法なんかを覚えなければならないようだが、リーベルト家ではその勉強は五歳からの様だ。


あと一年程は時間に余裕があるだろう。その間に魔法の一つでも覚えたいけど……。


僕は昼食前に読んでいた本を持ち父の書斎へ向かった。残すは作者のあとがきだけだし、次の巻に行ってもいいだろう。あとがきなら魔法の知識に関係ないだろうしね。


父さんの書斎にたどり着いた僕は次の巻を探した。入門編なんて書いてあるんだ。きっと次の巻もあるだろう。

とりあえずまず最初に探したのは前にこの本を見つけた棚。まぁ同じシリーズは同じところに置くよね……。上の方は背伸びしてもよく見えないが、今持ってる本と似た背表紙はない。恐らくないだろう。



手の届く範囲の棚を全部探してみたがどこにも見当たらない。あれ? まさかの入門編でおわりか? いやいや、そんなはずはない。入門編で終わりの参考書なんて役に立たないじゃないか。前世で使った参考書だって大体は入門編、基礎編、応用編の三段階構成だった。


一度探した棚をもう一度探そうとしたときこちらに向かってくる足音がした。この部屋は屋敷の中でも端の方に位置していて、この部屋以外近くに部屋はない。つまりこちらに足音が向かってくるという事はこの部屋に用事がある者が向かってきているという事だ。


まずいな。入ってくるのがアンネローゼの手の者ならきっと僕が父さんの書斎に忍び込んだ事を報告し、それをあたかも悪い事のように言いふらすだろう。そのせいでただでさえ少ない味方の使用人を減らしたくない。

 

 とにかく僕は近くの本棚に隠れる事にした。

 この部屋はでてすぐ真っすぐな廊下が続いている。今部屋の外に出てもきっと鉢合わせしてしまうだけだろう。


 足音が近づくにつれ僕の心臓の音が早くなっていく。喉がカラカラに乾き、手には汗がにじんでくる。

 足音が止まった。そのあとすぐに扉の開く音が聞こえる。


「クリス。重ね重ねすまないな。あいつには今夜強く言っておく」

「いや、構わんよ。あの女は学院時代からそうだった。君が何か言ったところで変わるような性格でもない」


 どうやら入ってきたのは父さんとクリスティアンさんの様だ。とりあえず最悪のパターンはなくなった。このままやり過ごせればいいが……


「ヘロルド。どうやらこの部屋には大きなネズミがいるらしいな」

「うわわああああ」

「アルノルト!」

「ふむ、やはり君か」


 僕の体が突如空中に浮かび、父さんとクリスティアンさんの前に放りだされた。クリスティアンさんの手には指揮棒のようなものが握られている。杖……だろうか。僕が宙に浮かんだのは彼の魔法なのだろうか……。


「アルノルト、どうしてここに」

「その、実は本を借りたくて……」


 僕は正直に言うことにした。ばれてしまったのだから下手にごまかすより父さんに許可をもらった方が後々動きやすいと考えたからだ。今まで隠そうとしていたのは、ここに父さんの官能小説があったから許可されにくいかと思っていたからだ。やっぱり男としてはエロ本はいくつになっても人に見られたくない物だろうからね。……前世では十八歳になる前に死んでしまったから読む機会はなかったけど。


「本? 前に買ったのがあるだろう」

「あれくらいすぐに読み終わってしまいます」

「そうか……。わかった、この部屋の本は好きにしてよい。ただし今後はあそこにある本棚だけは探してはいかん」


 父さんの指差した先は例の官能小説があった本棚だ。まぁそうだよね。


「早速なのですが、父さま、実は見つからない本がありまして……。これの続きなのですが」


 僕は「初めての魔術~入門編~」を見せた。すると父さんとクリスティアンさんは驚いた様な顔をした。


「アルノルト、それは」

「アルノルトはその本を理解できたのか?」


 クリスティアンさんは僕を疑うような目で見る。


「一応……はい。実際に魔術を使った事はないですが、この本に書いてある魔術理論は理解できたつもりです」

「ならば、問おう。身体強化という魔術があるが、これは魔術体系の分類としては魔法ではない。それはなぜか」

「そもそも魔法は魔力を何か別の物に変換……例えば魔力を炎や水といった魔力とは別の物に変換し、操作する技術だからです。それに対して身体強化は魔力その物を扱うからです。身体強化なら魔力を変換せず、圧縮して、体内を巡らせる事で肉体の活性化が行わる事で肉体の強度や運動量を上げるからです」


 あってるよな?


「いい答えだ。ヘロルド、アルノルトは君よりも随分優秀なようだ」

「いっただろう、アルノルトは優秀だと。……私だって七歳になる頃にはこの本を読めたさ」「理解はしていなかっただろう。それに私が君にこの本を書いたのは君が五歳の頃だ。この本を読むのに二年もかかったではないか」


 クリスティアンさんは目を細め、嘲る様に父さんを笑う。父さんはいつもの事の様に軽く流す。優秀か……まぁ僕は高校生――この世界では成人――の魂だからな、七歳の父さんと張り合ってもね……。

 てか、この本クリスティアンさんが書いたのか。となると父さんとクリスティアンさんの関係は教師と生徒……?


「あの、父さんとクリスティアンさんはどのような関係なのですか?」

「あぁ、私とクリスは師弟関係のようなものだよ。クリスは私の祖父の頃から我が家と懇意の関係にあってね、私も幼い頃クリスに指導してもらったものだよ。残念ながら今はとある学園の教師になったので我が家専属とはいかなくなったがね」


 なるほど、じゃあ今日は恩師が家に尋ねてきたって感じなのかな?


「アルノルト」

「は、はい」

「この本の続きだが、この世に存在しない。このヘロルドが入門編で躓いてしまったからな。ただ、君が望むというのならこの続き、中級編の本を君の為に書いてやろう」

「いいんですか!?」

「あぁ。とはいっても今行っている研究も同時進行で進めなければならないので……そうだな、君の下に届くのは一年程先になるだろう」

「それでも! ありがとうございます」


 クリスティアンさんは中級編を書くことを約束してくれた。入門編だけでも基礎的な知識は随分と身に着いた様な気がしたけれど、これが中級編になったらどうなるんだ。


「この入門編を読めた君だ。きっと一年もあれば魔術の練習を始めたくなるだろう。しかし生半可な知識での魔術の訓練は危険だ、だから今回に限り私が君に課題兼練習法を授けよう」

「おい、クリスあんまり勝手に話を進めるな」

「才能を伸ばすためだ。それにアルノルトなら大丈夫だ」

「しかしなぁ」


 父さんは反対なのかな? ていうか魔術の訓練に危険が伴うの?


「あの、父さん。僕は魔術の事もっと知りたいです。だから、その、クリスティアンさんの話を聞きたいです」

「だ、そうだ」

「……わかった。許可しよう」


 やった! 魔術に関しては正直独力で身に着けようとしてたけど、ちゃんとした指導者が付くのならそれに越したことはない!


「ここでは狭いな、ヘロルド、確か修練場があっただろう」

「ああ、案内しよう。アルノルトついてきなさい」


 僕はクリスティアンさんと父さんの後ろをついていった。


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