第三十八話 復讐・2
今回は短めです。
次話を長めにして、話のまとまりをよくするつもりです。
僕は今シモンさんの背中にしがみ付き、自宅へと向かっている。自宅へ向かう理由は父さんから兵隊を借りるためだ。
自分の復讐だなんて言っておいてすぐに親に頼るのは情けない話でもあるが、そんな情けなさなど僕は気にしない。復讐の為なら手段を選ぶつもりはない。
門の前でシモンさんに卸してもらい、ここで待っていてもらうように伝えた。僕は脚力強化を使い急いで屋敷の中へと向かった。館の中に入っても僕は脚力強化を使ったまま父さんの執務室まで走る。途中メイドとぶつかりそうになったが、そんなこと気にしていられない。
僕は執務室の扉を開いた。中では父さんがお茶を飲んでいるところだった。
「アルノルト、どうしたそんなに慌てて」
「父さん、どうしても頼みたいお願いがあるんだ。僕に兵士を何人か貸してほしい」
「……何があった」
僕はグレイが僕を誘拐した事を隠し、スラムの少年が悪徳商人に騙され殺されかけた、その少年を助けたいと、悪徳商人を倒す為に僕だけでは力が足りないと説明した。
話を聞いた父さんは椅子から立ち上がり僕の方に歩いてくる。
「……アルノルト、その少年の事は残念に思うよ」
「何を言っているんですか」
「あきらめろという事だ」
父さんの顔は無表情そのものだ。
「お前がどこでスラムの少年と出会ったのかは聞かない。が、まだ七歳のお前にそんな危ない事をさせるわけにはいかない。それにここは王都だ、我々他所の町の者がこの町の住民――たとえ悪徳商人であろうと気軽に手を出すわけにはいかないんだ。それに私たちは明日には王都を離れる。あまり騒ぎを起こすのは得策ではないんだよ」
待って、今なんていった。明日帰る?
「明日帰るってどういう事ですか」
「忘れていたのか。朝から殿下に会いに行っていたのは別れまでの時間を惜しんでの事だと思っていたが、どうやらそうではないようだね」
ああ、そうだ。僕らはパーティーに呼ばれ、ここに来た。そしてその後の大人の会議が終わればここからまた帰らねばならなかったのだ。
ああ、オルソさんが言っていた期日は貴族がこの町からいなくなる前に商談をしたかったからの期日だったのだ。
セレスとの日々やグレイとの一件があって忘れていた。
「どうせ、ここを離れたらその少年と出会う事もなくなるだろう。ならば今日ここで別れても問題はないだろう」
どうしてこんな事を言うんだ。僕に友達を見殺しにしろと言っているのかこの男は! いつも優しくしてくれていた父親だと思っていた。でも、やはりこの世界の貴族なんだ。スラムの人間を人としてなんて思ってないんだ。
「なら、父さんに用はありません、失礼します」
「待ちなさい」
僕は部屋から出ようと足を出そうとした。しかし僕の足が一歩を踏み出すことは無かった。僕の足に氷がまとわりついている。その氷は床とくっついているようで、僕の足を床に固定する。
「アルノルト、お前はこれから単身少年の敵を討つに行こうとしていただろう。そんなことは許さん」
「僕に友達を見殺しにしろというのか!」
「そうだ!」
父さんが怒鳴る。いつもの僕を叱るときの様な怒り方ではなく、怒りの感情をあらわにした怒り方。僕はその声に委縮してしまいそうになる。駄目だ、僕はグレイの敵を討つんだ。
「父さんがそんな人でなしだとは思いませんでした」
「ああ、私は人でなしさ、貴族だからな。当然だろう」
僕の心に怒りがわく。こいつは本心から僕に友達を見殺しにしろと言っているのだろうか。グレイは敵に狙われたんだ。相手を潰さなきゃまたグレイは襲われる。もはやグレイにこの王都での居場所はないんだ。なら、助けるしかないだろう!
僕は足にまとわりつく謎の氷を取り払おうと魔力を練る。魔力を口から足に向かって吹きかけ、魔法の名を叫ぶ。
「ファイア」
氷が少しだけ溶ける。だがその少しで僕の足は自由が利くようになった。僕は脚力強化を使い全力でこの部屋から逃げ出す。父さんは僕に向かって水を打ち出している。その水は床にぶつかると氷になっている。僕は先ほどあの水をぶつけられ、足元を凍らされたんだ。
扉を開け、僕は廊下に出た。そのまま玄関へと全速力で走る。しかし、すぐに父さんはその後を追いかけてきた。僕は捕まらない様に走る。廊下の角を曲がろうとしたとき、先ほどぶつかりそうになったメイドが曲がり角の先から歩いてきていた。
僕はギリギリのところで回避した。しかしメイドは僕を避けようとしたせいでバランスを崩し転びそうになる。それを父さんが抱きかかえて助ける。
メイドには悪いが、逃げる猶予が生まれた。僕はそのまま玄関を出て門の外まで出た。
門の前にはシモンさんが待機していた。僕はシモンさんに、今すぐ逃げるように頼んだ。あてが外れたのでもうこのままニクラウスの元へ向かうしかない。とりあえず、シモンさんには東地区へ向かってもらうように頼んだ。
シモンさんがスラムまで走っている間、僕は背中の上でグレイを襲った人物を考えていた。グレイの変装は完璧だった。たとえスラムでグレイを見かけた事のある人間でも一目でグレイとわかるような見た目ではなかった。
『後頭部には横から金属で強く叩いた様な痕があり、背中と腹部にナイフで切り裂いた様な傷がありました。出血がひどく、治癒をした後でもまだ目を覚まさない状態です』
シモンさんの診断したグレイの状態を思い出す。そこで僕はある事に気が付いた。後頭部を横から殴る。つまり、相手はグレイを後ろから殴っている。それはグレイの顔を見ていないという事だ。その場合考えられる可能性は二つ。
一つは標的が灰色の髪をしているとしか教えられていない場合、二つ目は後ろ姿を見ただけでグレイと判別できるくらい付き合いのある人間。
もう一つ気になる点がある。頭を横殴りにされた。この怪我だ。グレイは僕と同じくらいの背で、かなり小さい。大人が後頭部を殴る際にわざわざ、横に凶器を振るだろうか。普通、大人と子供程の身長差があれば上から下に向かっての攻撃になるだろう。
しかし今回の攻撃は横向きだ。ならば、相手の身長はグレイと同じか、それより少し高い位だろう。
こじつけの推理だが、相手はグレイの事をよく知る同世代の子供である可能性がある。そして僕はそのような人間を知っている。グレイの取り巻きの二人だ。それなら打撃痕と裂傷の二つがあるのも納得のいく話だ。二人の人間が二つの凶器で襲ったのだ。
僕は捕まっていた時に見た二人の顔を思い出す。そして脳に刻みつける。
そして僕らは東地区へとたどり着いた。
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