第三十六話 変装
セレスには僕らが昨日話していた事、ニクラウスへの復讐を行う事を話した。復讐という単語に嫌な表情をしていたが、概ね僕らの計画の後押しをすることを承認してくれた。ただ、やはり地盤の弱い王族という立ち位置のせいで、僕らを直接的に支援する事は政治的な観点から難しいらしく、何か周りの人間を使って支援をできるほどの人望もないらしく、ほとんどセレス個人の裁量で何とかできる事しか支援できないといった。
もっともこのシモンさんの店を紹介してもらっているだけで十分な支援と言えるが。そこで、計画の実行は僕とグレイ。この拠点での連絡係としてロシェルさんやセレスに居座ってもらう事になった。
そこから具体的にニクラウスへの復讐計画を進めるかについて話し合いがなされた。この復讐の根幹はグレイが担っているので、グレイの意見を軸に会議は進む。
「とりあえずの方針として、昔起きたグレイの所属していたグループの殺し合い、その事件とニクラウスの関係を奴の口から吐かせる。それと、今回の件で君の仲間を唆した事を白状させる。その上で金品をいくらか押収してから兵士に引き渡すってことでいいかな?」
「そうだね」
「……わかった」
復讐の方針を決める際に一番もめたのは僕らとグレイ――こちらの世界の人間――との価値観の相違だ。つまり、ニクラウスを捕らえた後の処遇についてだった。ニクラウスを捕らえ、奴に罪を吐かせることまではすんなり決まったのだが、その後の対応に僕ら転生者とグレイで意見が分かれた。
僕らは警察の役割を果たしている街の兵士に引き渡す。グレイは拷問の末に殺す。当然僕らはグレイの意見に反対した。やはりこちらの世界の価値観に染まり切れず、犯罪者や悪人だからと言って殺すのはどうなのだろうかと考えてしまう。
二対一、それも大人の頭脳を持つ二人と聡いといっても少年一人。口論の末に僕らの意見が通り、生け捕りにする事に決まった。
グレイの案であっても拷問する為に生け捕りにする必要があるので計画の難易度自体も変わらない。
方針が決まったことで僕らは計画の中身について話し合う事ができるようになった。ニクラウスを生け捕りにするためには何が必要か。僕らはニクラウスについて知らない事が多すぎる。まずはニクラウスについて知ることが重要だろうと考え、ニクラウスの一日を観察する事になった。
まずは今日の昼間から僕がニクラウスとの取引に使う店を張り、グレイがスラムで張る。この振り分けは自然とそうなった。まずスラムの地形は入り組んでいて、僕では上手く追跡できず、相手に逃げられる恐れがあったからだ。
また、店というわかりやすい目印のあるところを張るのではなく、スラムでは歩き回って、ニクラウスの痕跡を探さなければならない。そうなってくると土地勘が重要になってくる為、僕ではスラムの張り込みは適さないのだ。
既に昼間という事もあり、手遅れかもしれないが、時間を無駄にすることは出来ない。期日として僕の本が担保に出されているのだから。できる事なら二日以内にニクラウスへの襲撃を終えて、金銭を入手したいところである。
ちなみに先ほどの計画方針のニクラウスの金品押収はセレスの反対があったが、僕の本の事は伏せ――理由としてあまりにも私利的だからであるからなのだが――グレイをスラム街から解放する為に必要なお金と言って何とか説得した。セレスは終始不満げな顔をしていたが。
「さて、それじゃあ早速行動に移そうか」
まずは情報収集からという事で僕とグレイは外套を手に持ち部屋から出て行こうとする。それを止めたのはセレスだった。
「二人ともニクラウスに顔を見られているんでしょ? ましてやグレイはかなり前から狙われていたらしいし、そのまま張り込みに行っても相手に見つけられちゃうんじゃないかな?」
「それもそうかもね。そしたら何か軽く変装でもした方がいいかな?」
「必要かそれ?」
グレイはそういうが、僕はセレスのいう事は一理あると思う。僕は昨日のグレイの拠点でしかスラムの人間に見られていないが、グレイはスラムでは住民の多くに顔が割れているだろう。昨日の様にニクラウスに雇われたスラムの人間がいるかもしれない。
そうなればグレイはスラムでは目立つことになる。なにせ昨日の捕獲対象なのだから、ニクラウスへと何か情報を持っていくだけでお金になるかもしれないと動く者も出てくるだろう。
「うん、やっぱり必要だと思うよ。ここはセレスの案に乗ろう」
さて、変装なんてしたことがないから、わからないがセレスなら化粧の経験もあるかもしてないし、何か知っているかな?
「セレスは何かいい変装方法知ってる?」
「一応あるにはあるかな? ……うん、ちょっと待ってて」
そういうとセレスは部屋から出ていった。何をするつもりなのだろうと僕とグレイは目を合わせ、首をかしげる。
それから数分が立ち、セレスが戻ってきた。
「お待たせ二人とも、さぁ、これに着替えて」
セレスと一緒に入ってきたロシェルさんとアニの手に持たれていたのは大量の女の子用の服だった。これはまさか……。
「えっと、セレス。これは何かな?」
「女の子用の服だよ。昔ロシェルが使っていたのを持ってきたんだよ」
いや、待て。ロシェルさんの服は今ジギスが来ている男女共に使えるような物ではなかったのか!?
「ロシェルさんの服って男の子っぽいものじゃなかったんですか!?」
「それはたまたま残っていた私の稽古着です。そのほとんどがボロボロになってしまっていた為捨ててしまっていたのですが。その様な服ばかりを持っていたのなら昨日の時点でアルノルト様に服をお渡ししています。私の好みはこのような女の子然とした服装です」
「今と全然違うじゃないですか!」
今のロシェルさんの服装はパンツルックで、とても今手に持っているフリフリした服装とは正反対だ。初めて見た時からこの人は凄く強いんだろうなと思わせるような凛とした恰好をしていたのに!
「私はセレスティーナ様の護衛兼側使いです。……私の好みの服ではとても護衛としての役目を果たせません。護衛は一目で相手に強さを誇示できなければなりません。私の好みの服ではそのような効果は期待できませんので」
悲しそうな顔をするロシェルさん。何だこの人、ギャップ萌えが過ぎるだろう。
僕は再びセレスの方を見る。そこにはにっこりとした笑顔があった。
「えっと……それでセレスさん、どうして、今……これを持ってきたのかな?」
「勿論変装用だよ」
外れていて欲しかった予想が当たってしまった。
「これから二人には女の子に変装してもらいます!」
セレスは先ほどから寸分たがわず変わらない、にっこりとした笑顔でそう告げるのだった。
「アル君は髪が結べる程長くないから、髪留めで女の子に見せるのがいいと思うんだよね」「そうなると、こちらの服はどうでしょうか。アルノルト様の鮮やかな赤い髪にも似合うと思うのですが」
「それならこちらも素敵ではないですか?」
女性陣が僕に似合う服をキャッキャしながら選んでいる。僕は心を無にして時間が経つのをひたすらに待った。
その後僕は女の子にされた。それはもう。近くに鏡がなかったので魔法で水を張って、その中を覗き込んだが、確かに女の子になっていた。服装も僕の華奢な体が女の子の服とマッチしてしまっている。その事にかなり大きなショックを受ける。僕はそんなに男らしくないだろうか。
心の奥でまだ子供だからと囁く自分がいる。そうだ、別に父さんもイケメンではあるけれど、それはあまり中性的な顔ではない。ならば、きっと僕だって成長したらきっと。
僕が自分の男らしさのなさに打ちひしがれている間に、横ではグレイが着せ替え人形にされていた。グレイの抵抗するような声が聞こえる。ふふふ、グレイよ。お前も僕と同じ目にあうがいい。
「え……」
僕がグレイを呪っているとセレスやアニ、ロシェルさんの驚くような声がした。三人同時に、僕は何事かと振り返ろとしたとき、セレスに目を塞がれる。
「ちょっと、セレス! いきなり何をするの!」
「今は見ちゃダメ! それから、今すぐこの部屋から出て行って!」
セレスの突然の退出命令に僕は戸惑いながらも、ロシェルさんやアニの力もあり、僕は部屋の外に追放された。わけもわからず呆けていると、背後からシモンさんが寄ってくる。
「おやおや、どうも騒がしいと思っていましたら、このような事を。ロシェルの悪癖が出ていますね。あの子はピッシリとした服の方が似合っているというのに」
部屋の前で座り込んでいた僕に手を差し伸べてくれるシモンさん。僕はその手をつかまり立ち上がる。
「おそらく長くなるでしょう。ここでは何ですからあちらのカウンター席にでも。今はお客が引いて、席に余裕もありますので」
僕はシモンさんの後についていき、カウンターでホットミルクを飲んで彼女たちの着せ替えが終わるのを待った。
よく考えれば、一刻も早く行動しようとしていたのに、かなり遅れちゃってるよね。
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