第三十五話 お金がない
活動報告でも報告させてもらいましたが、ブックマーク百件を超えました。ありがとうございます。
オルソさんが奥の部屋から戻ってきた。その手に持っている本は紛れもなく、僕の持っていた本であった。遠くから見た限り、本に焼けた様な痕はない。本当にクリスティアンさんが防火の魔術でもかけてくれていたのだろうか?
「これです! 僕が持っていた本と同じ本です! おいくらですか!?」
僕はオルソさんがカウンターに本を置くやいなやすぐに商談を申し込む。今は手持ちがないが、ある程度の金額までならお小遣いから捻出できる。
「そうさのぉ……グレイの紹介という事で端数をまけて金貨五枚といったところかのぉ?」
五十万! 本一冊の値段じゃない。
「いくらなんでも高すぎませんか!?」
「そんなことはない。この本は随分と魔術に詳しい人間が書いた物なのじゃろう。最新の魔術の情報が載っておる。これと同じ事を学ぼうとすればこの著者自身から講義を受けるほかなかろうて」
「でも」
「貴族様なら出せるじゃろう? 元々貴族様の元に売りに行こうと思っておったのだからこの値も正統というもの」
本の値に抗議しようとする僕の言葉を遮りオルソさんが喋る。確かに、貴族にとって金貨五枚というのは大した金額じゃない。勿論僕のポケットマネーで払える金額ではないが、親が子供の教育用に買うのなら惜しくない金額だ。
僕はそもそも今回のスラムでの一件を父さんには話していない。この本だって当然紛失したことにはなっていないのだ。なので僕は父さんに金銭的援助をしてもらえない。
どうしたものか。貴族という立場を利用して本を献上させるのは僕自身の権力不足と、何より好みの手段ではない為却下。大銅貨五枚――五万円程――枚程までなら父さんから渡されたお小遣いと僕自身の持ってきた貯金で何とかなる。それでも金貨五枚には足りない。となると正攻法で買い取る事も難しそうである。
「何とか割引とかなりませんかね?」
「駄目じゃ」
「そこをなんとか」
「駄目じゃ。おぬしは王城での集まりによって来ただけじゃろ? ならばやはり値引きなぞ駄目じゃ」
値引き失敗。僕は今後ここの上客になれるわけでもないし、縁があるわけでもない。オルソさんとしても値引きする必要もないのだから当然と言えば当然だ。
僕がどうしたものかと考えていると隣にいるグレイがオルソさんに話しかける。
「とりあえず今日は帰る。ただ、後数日の間そいつを売り払うのを待ってもらうわけにはいかねぇか?」
「……そうじゃのぉ、二日ならば待っても良い。それ以上は駄目じゃ」
「わかったそれでいい。二日後にまた来る、それまでその本は売るんじゃねぇぞ」
「ほっほっほ、待っておるよ」
グレイは僕に向けて顔で入口の方に出て行くように指示を出し店から出て行く。僕もその後についていき外に出た。
「グレイ、どういうつもり?」
「今あそこで話し合ってもオルソは値引きなんてしねぇし、金が増えるわけでもねぇ。一度シモンさんの所に戻って立て直すぞ」
グレイのいう事はもっともなことだった。僕も少し焦っていたのかもしれない。本をなくした事、そして本が見つかった事。落胆からの希望が見えたせいで僕自身が冷静で亡くなっていた。
僕は頬を手でぱちんと叩き、気を引き締めなおす。
「ごめん、ちょっと冷静じゃなかった」
「ほんとな、朝の時点からかなり冷静じゃなかったからな」
根に持つなぁ。
僕らはシモンさんの店に戻った。
「あーどうしよ。金貨五枚なんて用意できないよ」
僕はシモンさんの店に戻り、グレイの部屋のベッドにうつ伏せで寝転がる。顔を枕にうずめて、項垂れる。
「貴族でも無理なのか?」
グレイが僕の嘆きにたいしてそう聞き返す。
「貴族と言っても子供だからね、それに僕はわけあって親に頼れないから。親に頼れるなら金貨五枚なんてすぐに支払われるだろうね」
「そうか……、俺らは金貨二枚手に入れるのだって数年かかったんだけどな」
市民権獲得のための費用か。グレイの前であんまりお金の話はしない方がいいかな? グレイはお金がないせいで市民権が獲得できなくて、それが原因で仲間に裏切られたんだ。
というか仮に金貨五枚集められたとしても、僕はどんな顔をしてたかが本に金貨五枚を払えばいいんだ!? グレイをスラムから出す事の出来る金があるのに僕が本を買うのをグレイはどんな顔をしてみなきゃいけないんだよ!
ああ、困った。本当に困った。グレイをスラムから出すためにも追加で金貨一枚を稼がなくちゃいけない。ああ、本当にどうすればいいんだろう。
この事をグレイも気づいているのだろうか。ああ、なんか貴族として生まれたのにこんなお金の事で困る事になるなて思わなかった。貧乏貴族というわけでもないのに。
「お前、大丈夫か?」
グレイが僕の横に座る。
「ごめんね、グレイ。僕君の事全然考えてなかった」
「は? どういうことだよ」
「僕は本を買うために金貨を五枚集めようとしてたけど、その前にグレイの市民権を獲得する方が先だったよね」
「……っ!」
僕は体を起こし、ベッドに座る。
「金策どうしよっか。今までグレイはどうやってお金を稼いでいたの?」
僕はグレイに今までどんな風に稼いでいたのか聞いた。恥ずかしながらこちらの世界に来てから僕はお金を稼いでいなかった。
「グレイ?」
僕が質問したのにグレイは何も答えなかった。疑問に思いグレイの方を見るが、グレイはこちらから顔をそらしていたので顔色をうかがう事が出来ない。
「ねぇ、グレイってば」
「え、ああ、そうだな稼ぎ方な。俺は物を盗んで売ってたぜ」
グレイは慌てたように喋った。だが、グレイの言った稼ぎ方はとるべき方法ではなかった。そうだよね。よく考えたらグレイ達は金貨二枚に数年かかっていたわけだし、そんないい稼ぎ方を知っているわけないか。
僕はベッドに横になり、金策を考えるにふけった。
「アルノルト様、起きてください」
アニが僕の肩を軽く叩く。考え事をしているうちに寝てしまっていたようだ。本の事が気になって夜はよく眠れなかったからな。
僕は目をこすりながら体を起こした。自然とあくびが出てしまう。目から出た涙を拭おうとしたとき、僕の右手が何者かに掴まれている事に気が付いた。そちらに目をやるとグレイが僕の手を握っていた。
グレイも寝てしまっていたのか。彼も昨日の夜はよく眠れなかったのだろうか。
「アルノルト様、既にセレスティーナ殿下がお見えです。こちらにお通ししますのでグレイの事も起こしておいてもらってもよろしいでしょうか?」
ああ、そうか。そういえば元々今日はセレス達とニクラウスへの復讐計画を離す予定もあったんだ。本の事に夢中で頭から離れていた。
「うん、わかった。それじゃあセレス達を呼んできて」
アニは部屋から出て行った。僕はグレイの体を揺さぶる。
「グレイ、起きて。もうセレスたちが来るから起きなきゃいけないよ」
「ん、うん。あれ? 俺寝てたのか?」
「僕ら二人そろって寝てたみたいだよ」
「そっか……」
何やらグレイは複雑な顔をした。嬉しそうな、でも悲しそうな、そんな表情だった。
「アル君寝てたんだってね。女の子との待ち合わせに寝坊なんて駄目だよ?」
部屋に入ってきたのはセレス一人だった。アニはセレスを部屋まで連れてきてすぐに店のフロアの方に戻っていった。ロシェルさんも店を手伝っているのだろうか。
「ロシェルは久しぶりにこっちに顔を出したみたいだから昔馴染みの人と話してもらう為にフロアに残ってもらったの。ふふ、私の知らないロシェルの話が聞けて楽しかったよ」
セレスは嬉しそうに笑う。
「それじゃあ昨日君たちが何を離してたのか教えてもらおうかな? そこの子の処遇についてもね」
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