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第三十三話 小休止

「アルノルト様、失礼します」


 魔術について無知なグレイにたいして一説ぶってた僕の言葉を止めたのは扉をノックした後に部屋の中に入ってきたアニの言葉だった。


「アルノルト様、彼への処罰を決める為とは言え、既に時間も遅くなっております。本日は一度お屋敷にお戻りになられてはいかがでしょうか? セレスティーナ殿下をいつまでもお待たせさせるわけにもいきませんし」

「それもそうだね。セレスには僕から軽く説明しておくよ。……この子屋敷に連れていってもいいかな?」

「難しいと思われます。旦那様はアルノルト様が危険な事をする事に反対なされるでしょうし、アンネローゼ様はスラムの人間というだけで屋敷に入れる事を嫌がるでしょう」

「そしたら、シモンさんにここで預かってもらえないか聞くしかないか」


 少々厚かましいお願いだと思うが、それしかないのだからお願いするほかないだろう。今グレイをスラムに戻したらどんな目に会うのかわからない。


 あの時ニクラウスは僕らを指して商品と呼んでいた。僕だけでなく、グレイまで商品と呼んだのだ。つまりニクラウスはまだグレイを手に入れる為に動いているかもしれない。だからグレイをスラムに戻す事は出来ない。






「随分と時間がかかったのですねアルノルトさん」

「すみません殿下。しかしそのおかげでしっかりとこの後の方針が決まりました」

「それは良かったです。それでその方針とは?」

「それはまた明日という事でどうでしょうか? 今日はもう遅くなってしまっているので、一度王城へと戻られた方が良いかと」

「わかりました」


 僕の意見をすぐに取り入れてくれたセレス。よく見るとセレスは大分眠そうな顔をしている。実際に眠いために早く帰りたいのだろうか。僕らは心は大人でも、体は子供。今日だって魔法の訓練を行ったため疲れているのだろう。


 そう思うと、僕も全身に疲労感がどっと押し寄せてきた。よく考えれば今日は僕自身も大分動いたな。疲れて当然だ。


 僕は押し寄せる疲れを何とか受け流し、シモンさんに声をかける。


「シモンさん、今日はお世話になりました。その上で更に申し訳ないと思っているのですが、彼を今晩預かってもらえないでしょうか? 僕の家に連れて帰ると少し面倒な事になるので」

「そうですか。わかりました、あの子供は私が責任を持ってお預かりします」


 シモンさんは笑顔で了承してくれた。


「ありがとうございます」


 僕は奥の部屋に戻り、アニとグレイにこちらで預かってもらえると了承を得た事を伝えた。そのまま今日はみんなこの場で解散した。








 とはいえ、僕は帰るにも服がなかったので近所の家にお金を払い、少年服を買い取った。それは当然一般市民の服なので貴族の着るような服とは素材も質も全てが雲泥の差だ。


 なので家の中に入る際にはコソコソと誰にも見つからない様に入った。


 一直線に自室まで向かい、すぐに怪しまれないような服装に着替えた。僕が着替えを終え、部屋から出ると、ドタドタと走る足音がこちらに向かってきた。


「アルノルト! こんな時間までどこに行っていた!」

「勿論、魔法の訓練です。以前そうお話したではないですか」

「ならばなぜ隠れるように屋敷に入った。カルステンがコソコソと忍ぶように屋敷を徘徊するお前らを見たと言っていたぞ!」


 どうやら執事長であるカルステンさんに見つかっていたようだ。僕らの隠密行動は失敗していたようだ。


「何かやましい事があるのだろう。今度はどんな事をやらかした」


 どうすればよいだろうか。父さんを騙す事ができるとは思わないが、正直に話せば反対されるのは必至だろう。


「申し訳ございません。アルノルト様は魔法の訓練の際に服に火が移ってしまい、代わりの服を市民の方々より譲り受けたのです。そのような服装で屋敷をうろつけば屋敷の者からアルノルト様が侮られてしまう恐れがありました。なので私がアルノルト様にご提案させていただきました。旦那様に余計なご心配をおかけしたころ心よりお詫び申し上げます」


 僕の背後からアニが父さんへと即席の言い訳を述べる。父さんはどうもアニに甘い気がする。そのおかげか父さんは不服といった顔をしながらもアニの説明に納得したといい、その場を去った。


 しっかりと僕らの声が届かない距離まで父さんが離れたのを確認し、僕らは厨房へ向かいながら話をした。


「それにしてもよくあんなに咄嗟に言い訳を思いついたね」

「実はアルノルト様が魔法の訓練を始めてからこのような言い訳はいつも考えていたのですよ。アルノルト様は王都に着かれてから随分とやんちゃをなさるようになったので」

「僕、そんなにアニに迷惑かけてた?」

「いえ……確かにアルノルト様の事を考えると心がいっぱいいっぱいになる事がございますが、それでも年頃の子供の様な無邪気な一面を見られた事を嬉しく思います」


 そう言ったアニの顔には満面の笑みが浮かべられていた。





 

厨房へついた僕らはコックへと何か食事を作ってもらえる様に頼んだ。最初は夕食の残りをもらうつもりであったが、僕にその様に冷めた料理を出すことのできないというコックの主張により料理が出来次第僕の部屋へ運んでもらう事になった。


 再び自室に戻った僕はアニにお湯の準備をしてもらい、体を拭いた。当然ながら、いつもよりも汚れがひどかった。


 体を拭き終わった僕はベッドに横になり、今日一日の事を振り返る。



 魔法を習得したことやグレイとの出会い。今日起きた出来事が頭の中を駆け巡る。


 拷問なんて受けたのは初めてだし、同年代に出し抜かれたのは初めてだ。そもそも今まであった事のある同年代はパーティー会場にいた子供達だけだったが。


 そんな風に、いろいろな事を考えているうちにふとある事に気が付いた。僕が先ほどコソコソと屋敷の中を移動したのはなぜか。それは僕が市民の服を着ていたからだ。なぜ市民の服を着た。それは僕が身包みを剥がされパンツ一丁になっていたからだ。


 ではその剥がされた身包みとは何だったか。僕の身に着けていた服とは別に鞄もあったはずだ。そしてその中には何が入っていたか。あああああ。そうだ。僕が奪われた鞄の中にはクリスティアンさんから貰った魔術についての教本もあったのだ。





 ああああもう! なんでも僕はそんな事を忘れていた。あれは僕の大事な物の中でも上位に入る物じゃないか! あああくそ! そういえば僕が捉えられている時、グレイ達が僕の身に着けていた物をどこかに売りに行くとか言っていた気がする! 


 すぐにでも確認に行きたい。しかし、この時間の外出など父さんから許しが出るわけもない。ならば明日朝早くにグレイに確認に行こう。


 ああでも無事かなぁ? クリスティアンさんの教本なんて凄く高価な物のはずだ。きっとすぐに買い手がついて……ああああ。


 僕は頭を抱えながら枕に顔をうずめた。


お読みいただきありがとうございます。

ご指摘ご感想などいただけたら幸いです。

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