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第三十二話 僕とグレイの対話

「ニクラウス」


 その名前にグレイは先ほどまでの反応が嘘のように取り乱している。目は大きく開かれ、体が震えだし、歯がカチカチとなっている。


「グレイ、大丈夫?」


 僕はあからさまにおかしな様子になったグレイへと声をかけた。少しでも彼の感情を揺さぶるような事を言えたらこちらとの会話もできるようになると思い、この名前を出したが、逆効果だったのだろうか。


 グレイはぶつぶつと言葉をつぶやいている。


「ニクラウス……ニクラウス……ニクラウス……」


 僕の言った名前と同じ名前を繰り返すグレイ。その様子から僕は彼のトラウマを刺激してしまったのかと推測する。僕は急いでベッドに駆け寄り、詳細な彼の様子を探る。


「グレイ、グレイ、グレイ!」


 彼がニクラウスの名前を呼ぶより多く彼の名前を呼ぶ。


「……あれ? ここは?」


 僕の言葉に反応してくれたのか、グレイの目に光が宿る。良かった、何とかなったみたいだ。


「僕はアルノルトだ。君はグレイ、わかるか?」

「……ああ、お前は俺が捕まえた奴……か。そうか、俺は捕まったのか……」


 瞳に光は戻ったが、すぐに寂しげな顔をするグレイ。そして彼は自分の体をチェックしている。するとすぐに何かに気付いた様子を見せる。


「もしかして俺の事治療したのか?」

「すごいね、よくわかったね」

「自分の体なんだからわかるに決まっているだろ」

 グレイはそういって体のストレッチを始める。肩や首、手首を動かしている。


「よし、いつも通りだ。で、何で俺がここにいるのか説明してくれよ。拘束もしてないってことは何か用があるんだろ?」


 この一瞬で状況を察したのだろうか。スラムでの交渉は随分と杜撰であったが、あれはスラムからの脱出がかかっていたから焦った結果だったのだろうか。本来は聡明な性格なのかもしてない。


「そのとおりだよ。僕は君と話がしたいんだ」

「話だって?」

「そう。君の事が気になっているんだよ。あの時、君は自分の過去を離してくれたよね? それに同情したんだよ」

「はっ、貴族様にとっちゃ俺たちスラムの住人の生い立ちは随分と物珍しいだろうよ」

「まぁ、そう思うよね。でも僕が同情したのは君の生い立ちを嘲笑ったわけじゃなくて、君の仲間への思い、そしてその裏切りに同情したんだよ」


 苦虫をかみつぶしたように顔をしかめて僕を睨む。


「お前になにがわかる! 俺たちの事なんて何も知らないくせに」

「だから、知りたいんだよ。それに、僕は君の手助けをするつもりだ。例えばニクラウスへの復讐……とかね」

「ニクラウスに復讐だと!? そんなことしてお前に何の特になる」

「特にはならないけど、損にもならないからね。既に僕は君に同情してしまっているんだ、ここで僕が君を見過ごしたら僕の心に罪悪感が残るからね。損をしない為に君を助けるんだ」

「……傲慢だな」

「知ってる」


 呆れたような顔をして、僕を睨むグレイ。僕はその視線を軽く流した。そして大きくため息を吐いた。


「わかった。元々俺はお前に捕らわれた身の上だ。話してやるよ」


 そういってグレイは以前聞いた時よりも更に詳しい過去の話をした。かつて彼が所属していたグループの事、その崩壊。その崩壊にニクラウスが関わっていた可能性。そしてニクラウスへの恨みを……。



「これが俺の全部だよ。もう、話すことは無い」

「そうか……。それじゃあ改めて聞くよ、僕に何か手助けできることはない?」

「……本気か? 本気で俺に付き合ってくれるのか?」

「その通りだよ。それに言っただろ? あの時、君は僕に助けてって」

「……ニクラウスを倒したい。あいつに復讐したい」


 それは僕の望んだ彼の言葉だった。







「で、ニクラウスにたいして復讐をするわけだけど、僕はニクラウスの事全然知らないんだよね。だからグレイの知っているニクラウスについての情報を教えて欲しいな」


 僕らはベッドに座り、今後の予定について話し合う事になった。ニクラウスへの復讐計画。そのはじめとして僕はニクラウスについての情報収集を提案した。ニクラウスに復讐をすると言っても、僕らが真っ向から向かってもおそらく復讐は成功しないだろう。


 スラムであれだけの人数をお金を払うと言って集めたのだ。それに僕をリーベルト家に人質として取引しようとしていたと聞く。金はあるのだろう。それに僕が部屋の中に魔力を満たした時、ニクラウスは僕のやる事を察して逃げ出そうとしていた。つまり、魔術を使う事ができるという事だろう。


 金があり、魔術も使える。ならば子供が二人正面から向かっても返り討ちになる可能性がある。


 だからこそ僕はニクラウスに近づく糸口をつかむためにグレイから話を聞く。


「俺もそんなに詳しく知っているわけじゃない。グループの崩壊の時の事だって、そんな気がするってくらいのもんだ。あいつは金の払いがいいから取り引きをすることは多かったけど、深く付き合っていたわけじゃないからなぁ」

「それでもどんな仕事をしているとか、どんなところに住んでいるとか、そういうのはわかるでしょ?」

「あいつは貴族や商人の子供を捕まえてその家の者に対して子供の安全と引き換えに金銭を要求していたな」


 なるほど、予想通りか。


「住んでる場所はわからねぇ。いつも取引するのは東地区の商店、その裏口だ」

「東地区……か」


 つまり商業区画。ニクラウスは誘拐犯とは別に商人としての側面も持っているのだろうか? 少なくとも店を取引の場所として使えるという事からその店はニクラウスの所有する店なのだろう。


「他にはあいつは俺の力について何か知ってる風だったことだな。お前もそうだけど、俺らって足が速いだろ? その事について何か知ってるみたいだった」

「ああ、それはニクラウスも魔術を使えるから……ってグレイは魔術って知ってる?」

「あーなんか聞いたことあるかもしれないってくらいだな」

「そしたらその事についても話す事になるかもね。魔術についての知識がないのにそれだけ魔力を操れているんだ。ちゃんとした知識を身に付けたらグレイはもっと強くなるかもしれないからね」

「俺が強くなるならその方がいいな! それ教えてくれ」


 こうして僕らの話題はニクラウスについてから魔術についてとそれていった。


お読みいただきありがとうございます。

ご指摘ご感想などいただけたら幸いです。


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