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第三十一話 キーワード

投稿日時を間違えていました。

明日も投稿します。

「そういえばロシェルさんは?」


 僕は話を変え、セレスの指摘から逃れる。


「アル君の捜索をお願いしてる。ロシェルならスラムでも安全って言える位強いから」


 確かに初めて会った時、ベネディクトゥスの剣を切っていたっけ。いくら身体強化があるとはいえ、流石にこの世界でも斬鉄は容易なものではない。すなわち強者の証なのだろう。


「でもそれじゃあセレス自身の護衛はどうするの? まさかロシェルさんも僕の捜索の為に護衛の仕事を放りだすわけにはいかないだろうし……」

「だからこそのここなの。ここはロシェルのお爺さんの家で、お爺さんは元冒険者だって」


 あのお爺さんがロシェルさんのお爺さん!? 


「だから私はここでアル君が見つかるまで待ってたの。まさかアル君が一人で、それも大怪我をして戻ってくるとは思わなかったけど」


 再び僕の怪我の話に戻りそうだ。しかしそこの救いの女神が現れる。


「すみません、ただいま戻りました。どうもスラムでは火災が起きた様で人が溢れています。そのせいでアルノルト様の捜索は難しくなったと思われます」

「ロシェルさん!」

「おや、アルノルト様ではないですか。ご無事だったのですね」

「ええ、おかげさまで」

「全然無事じゃなかったよ!」


 僕の言葉にかぶせるようにセレスが僕の言葉を否定する。


「本当に大怪我してたんだよ……。最初にアル君を見た時心臓が止まるかと思った」


 セレスは悲しそうな顔をする。随分と心配をかけたんだなぁ。いままで屋敷ではアニと父さん位しか僕の心配をしてくれる人がいなかったから新鮮な感じがする。



「ロシェルが帰ってきたようですね」

 

 部屋の奥からシモンさんが出てくる。


「シモンさん! あの子の容体はどうですか?」

「怪我は完治しています。しかし心の方の傷が深刻ですね」


 僕はグレイの容体について聞く。どうも外傷の方は軽い火傷と、腹部の内出血程度でヒールで問題なく治る程度だという。

 心の傷……やはりあの時の取り巻きの少年たちの裏切りが原因だろう。あの時からグレイは魂が抜けたように動かなくなった。


「その少年の事だけれど、彼の処遇はどうしますか?」


 セレスはお姫様口調に戻り、僕にそう問う。


「私たちの中で彼から被害を受けたのはアルノルトさんだけです。ですから彼への処罰はアルノルトさんに一任したいと思いますがよろしいでしょうか?」


 次に周囲の人間に確認を取る。といってもこの場の貴族は僕とセレスだけ、更に最も位の高いのもセレスだ。信頼関係を抜きに考えても反論できる人間はいない。


「それじゃあ、僕が責任を持って彼への処罰を決めさてもらいます」



 そうは言っても僕としてもあの少年にたいしてどのような感情を持っているのかはっきりできない。自身が拷問を受けた事から恨みの感情も当然ある。しかし仲間への思い、その裏切りを目の当たりにしてしまうと同情の気持ちも出てきてしまう。それゆえ復讐心からひどい処罰をする気にもなれない。



 それに彼の話を聞いて、何か手助けをしたいと思う自分がいる。この世界、スラムの状況などどこも一緒で、僕のこの気持ちもきっと自分の目の前にいるから生まれた物で、このスラムの少年達の事を知らなかったら何も思う事なんてなかったのだろう。


 それはきっと目の前に苦しい境遇の人がいて、それを見過ごすような人間になりたくないという僕のエゴなのだろう。それでも僕は彼の境遇をなんとかしたいと思う。



「彼と話してみてもいいですか?」

「勿論です。しかし現状で話が通じるとは思えないのですが」

「構いません、案内してもらってもいいですか?」


 僕はグレイとの対話を望んだ。シモンさんにグレイのいる部屋まで案内してもらう。


「こちらになります」

 僕は扉を開け、部屋の中に入る。部屋には小さな机と椅子、そしてベッドが一つだけあった。そのベッドの上にグレイがいる。スラムに居た時のボロ布を纏っていた時とは違い、普通の市民の人と同じ格好をしている。


 一目見てわかる怪我はない。先ほどシモンさんが言ったように火傷は完治しているようだ。

 ベッドの上で上体を起こし、膝から下は布団がかぶせられている。その目は虚ろでどこを見ているのかわからない。


「グレイ」


 僕は彼の名前を呼ぶ。しかしまるで反応がない。それと一緒に背後の扉が閉まる。シモンさんが気を聞かせてくれたのだろう。


 僕はベッドに近づく。彼はピクリとも動かない。


「ねぇ、グレイ、僕は君と話をしたいんだ。君の手助けをしたいと思っているんだ」


 やはりグレイは動かない。僕はなんとか彼と話をできないものかと考え、一つの言葉を思いつく。僕はその言葉――名前を口にする。








 俺は何をやっていたんだろう。スラムに生まれて、スラムで育った。クソみたいな環境を仲間と共に泥をすすりながら生きてきた。

 市民の奴らから物を盗み、闇商人に売り、時には恐喝まがいの事もした。俺は周りの奴らと違い特別な力があった。その力は俺の走る速度や、腕力を上げてくれる。そのおかげで俺はいくつもの仕事や食料調達を任された。俺がみんなの生命線になっていた。


 俺のいたグループは全員がスラム生れで、俺は物心ついた時にはそのグループにいた。俺の記憶の中で一番古い記憶は大きな木造の家に二十人近くの子供がいた。最年長の者は十五歳位だったか。


 それからいくらか時間が経ち、仲間は十人まで減った。スラムで十歳を超える者は多くない。ほとんどが病気や怪我、市民からスラムに落ちたゴロツキに殺されたりしてその数を減らす。


残った十人のうち十歳以下の子供は俺とハコモ、ウィンの三人だけだった。残りの七人は全員十歳を超えていて、スラム生れとしてはそれなりに長く生きている部類に入る。全員が俺には及ばないまでも、逞しい人間だった。


俺たちは減った仲間の事を悲しみながら、日々を生きた。



 更にいくらか時間が経ち、人数が二人減った。その二人は俺たちのグループのリーダーとその補佐だった。


 きっとその時点で俺たちのグループは崩壊寸前だったんだ。でもまだ何とか形を保ちながらグループは残っていたんだ。あの日までは……。



 ある日俺とハコモ、ウィンが食料の調達から帰ると、拠点は崩壊していた。家の中の物は全て壊されていた。ボロボロとなった部屋の中には四人の人間が地に伏していた。その四人はグループのメンバーだった人間だった。その四人に囲まれる様に一人だけ、立っている人間がいる。そいつも当然メンバーの一員だった奴だ。


 そいつは俺たちに気づくと血まみれの手を俺たちに向け、ボソボソと何かを呟いていた。俺は助かるんだ、俺は助かるんだ、そう……は約束してくれた。確か、そう呟いていた。


 立ち尽くす俺たちに近づいてきたそいつは左手で一番近くにいたハコモの首を掴む。右手には刃こぼれしたナイフが握られている。それを高く振りかざし、ハコモに向かって振り下ろす。


 俺はナイフが握られた右手を強く蹴り、ナイフを落とす。そのまま男の腹に蹴りを食らわせ、壁まで吹き飛ばす。ハコモやウィンを後ろに下がらせ、俺はナイフを掴み、男と相対する。


 壊れた椅子の脚、先の尖った木片を手に取り再び立ち上がり、俺たちに向かってくる。俺はそいつと戦った。力のおかげで、俺が有利に戦えた。それでも、スラムで生き延びてきた男だ。それに何が何でも俺たちを殺すという意思を強く感じる。俺は手加減する余裕なんてなかった、その結果――男は死んだ。俺が殺した。


 初めて人を殺した。スラムの生活で悪い事はたくさんしてきた。でも人殺しだけはしたことがなかった。初めての殺人……それも仲間だった奴を殺した。


 手が震える。自分のしでかした事の大きさに恐怖する。震えながら振り返る。おびえるような目で俺を見るハコモとウィン。


 俺はナイフを放り投げ、仲間だった人間から目を背けるようにかつての拠点から逃げ出した。


 


 それから更にいくらかの時間が経った。三人だけになった俺たちはこの人数ではこれ以上スラムでやっていけないと考え、どうにか市民権を獲得する為に動く様になった。三人でこのスラムから脱出する事が目標となった。



 そして――――


「リーダー、俺たちを裏切ろうと……」

「そんな……あんまりっす!」


――――俺は裏切られた。仲間だと思ってた二人に疑われの言葉に誘導される様に二人は俺の元から去っていった。


 二人は俺たちの隠し金庫に向かっていったのだろう。そこには俺たちが必死になって貯めていたお金が蓄えられている。その金額はの指定した市民権を得る為の価格二人分とちょっとだ。


 ああああ、が憎い。ハコモもウィンもに誑かされたんだ。



 ああ、思い出した。そうだグループの年長者達に殺し合いをさせたのもだった。俺の殺したメンバーが呟いた名前、それもの名前だった。



 そうだだ。が元凶だ。の名前は――


お読みいただきありがとうございます。

ご指摘ご感想などいただけたら幸いです。

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