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第二十七話 進歩

投稿時間が遅れました

 アニから聞いた話を要約すると、孤児として孤児院に居たアニを少女時代の僕の母親が召し抱えて、メイドとしての教育を施したのだという。将来自分の子供を任せられるように……と。


 アニとしても、経営難に陥っていた孤児院に援助してくれたエルネスト家への恩返しにもなる。更に給料もしっかり払ってくれたので、その孤児院に仕送りもできる。アニが母さんを慕っていた理由は分かった。


 アニが僕の母親について語る時、普段は見せないような笑顔で話していた。……それだけ大事な人だったのだろう。


 僕はアニを連れて食堂へ向かった。







「アルノルト、今日もセレスティーナ殿下と会うのか?」


 昼食を取っている時、父さんはそう僕に尋ねた。


「そうですね。一応、王都にいる間は毎日会う予定です」

「……そうか。騒ぎは起こさないように」



 父さんは呆れたような顔をして僕から目をそらした。僕の行動のしわ寄せがくることを恐れているのだろう。


「アルノルト! 殿下と会うとはどういう事だ!」


 ジギスが僕に怒鳴る。


「お前はあのパーティーの時エルネスト家の奴意外と全く交流していなかったじゃないか! そんなお前がどうやって殿下と知り合ったんだ!」


「えっと……成り行き?」

「ちゃんと説明しろぉ!」


 ジギスは身を乗り出し、怒鳴る。なんかジギスの怒り方父さんと似てるなぁ、親子って感じがする。


「何を笑っているアルノルト」

「いや、なんだかジギスと父さんが――


「皆さん、食事中にうるさいですよ」


 僕の言葉はアンネローゼの言葉にかき消される。机に身を乗り出し、僕と話していたジギスも委縮して椅子にきちんと座っている。


「ヘロルド様もアルノルトにしっかりと言いつけてください。私は食事中の談笑は好みでないと」


 嘘つけ、いつもはジギスの話を父さんとしているくせに。大方話の話題が僕についてだったから話を打ち切ったんだろう。


 それからの食事は粛々と進んだ。










「それじゃあアニ、行こうか」


 僕はアニと共に歩きで修練場へ向かう。父さんは馬車を手配しようとしたが、僕が歩いていきたいと望んだのでしぶしぶ引き下がってくれた。


 昨日は万引き犯と遭遇したりと物騒だったが、やっぱりこちらの世界の街並みを歩いて、人々の生活を見たかったのだ。


 勿論、一筋縄でいったわけではない。父さんからの信頼も厚いアニがお供に付くこともあり、さらに僕が身体強化をそれなりの練度で使える事も説明し、いざという時は逃げられることを訴え、何とか父さんから譲歩を引き出したのだ。


 



 そんなわけで僕は今南地区にいる。修練場へ向かう途中、昨日の八百屋の前を通った。


「あ、ガレスさんこんにちは」

「おう、坊主よく来たな、買い物か?」


 商品の品出しを行っていたガレスさんがこちらを振りかえる。


「あ? メイド……だと。ってことは」

「ああ、気にしなくていいですよ。言葉遣いも直さなくて構いません」

「そ、そうか」


 メイドを側に置いている事から僕が金持ちの息子、貴族の子供だと考えたのだろう。それで僕に対しての言葉遣いに思うことがあったのだろう。


 まぁ普通の貴族なら初日の言動の時点でアウトだが。



「それで、今日はどうしたんだ?」

「昨日の林檎がおいしかったのでまた買っていこうかと」

「そうか、んじゃあ二個で大銅貨三枚だ」


 大銅貨三枚、日本円換算で三百円程だ。銅貨一枚十円程。十枚で大銅貨一枚、それがさらに十枚で銀貨、十枚ごとに大銀貨、金貨、大金貨と値が上がっていく。


 アニが僕の代わりに財布からお金を出す。

 僕はガレスさんから林檎を受け取り鞄にしまう。


 僕は再び修練場へ向かった。



 セレスとの修行を行い、途中で先ほどガレスさんの所で買った林檎をセレス、ロシェルさん、僕、アニで分けて食べた。


 魔力放出は一メートルまで伸びた。




 翌日もガレスさんの店で林檎を買い、セレスとの修行に臨む。魔力放出は五メートルまで伸びた。




 さらに翌日。


「それじゃあ、今日は魔法を撃ってみようか」

「……できるかな?」

「昨日の時点で魔力は送れてたでしょ? 大丈夫だって!」




 僕は手の平に魔力を集中する。手の平にある血管の中から滲み出るように手の表面に魔力が溢れる。それを正面に向け、僕は魔法の名前を唱える。


「ウォーターショット」


 手の平の前に水球が出現し、それが勢いよく真っすぐ飛んでいく。僕の放った水球は丸太の脇を抜け、壁に激突する。水が破裂する。


「っ――――!」

「撃てたよアル君!」


 セレスが僕に飛びついて抱き着く。



 う、撃てた。今までいろいろやってきたけど、一向に改善しなかった問題がたったの五日でできた。



「セレス」


 僕はセレスを抱きしめ返す。


「あ、アル君!?」

「ありがとう、ありがとう。本当にありがとう!」


 本当に、本当に。ああ、感謝の念が溢れてくる。それに従いセレスを抱きしめる力も強くなる。


「アル……君?」


「ごめん、ちょっとだけこのままでいさせて」













「ごめん、ちょっと嬉しくて……なんか気持ちが昂っちゃって」

「いいよ」


 僕らは休憩を取り、みんなで林檎を頬張る。


「僕が三年かけてできなかったことをセレスは五日で可能にしちゃうんだもん。すごいよ」

「ううん。そうじゃないよ。元々アル君は凄く基礎がしっかりしてたの、だからだよ。私はちょっとアル君の魔力の感覚を調節しただけ」

「でも、僕はセレスのおかげだと思うよ」

「……もう」


その後僕らは少しだけ魔法を試し打ちしてから、いつもより早い時間に解散した。










 僕らは夕暮れの中、南地区を歩いていた。



 人々が行き交う中、ふと僕の目に一人の子供が映る。



「あれは」

「どうしました?」




 以前見かけた万引き犯の子供だ。あの時と同じ、灰色のローブを纏っている。


 その子供は人ごみに紛れ、肉屋に近づいている。


「アニ、ちょっとここで待ってて」


 僕はゆっくりと子供に近づく。大丈夫、気づかれていない。その子供の背後に立つ。



 ローブの隙間から小さな手が商品に伸びる。僕はその手を掴み、引き寄せる。

「っ!」


 灰色ローブは僕の手を振りほどき人ごみから抜け、走り出す。僕はその後を追う。



「アニ、この子を追うよ!」


 アニが慌てて、僕らの後をついて来ようとする。


「くそ」


 灰色ローブがこちらを振り返る。そして走る速度を上げた。


 身体強化を使ったのだろう。僕が奴を追うのはそれが理由だ。この世界では魔術は多くの者がつかえる。しかし戦闘を行う者でなければ使える魔術はクリエイト系位のものだ。その出力もライターの様な火力だったり、机の上の埃を掃う程度だ。


 身体強化の魔術は本来ならば訓練の末に身に着ける技術だ。僕やセレスは一応転生者として幼い頃より魔力の扱いを学んでいた為、簡単に成功させている。



 だからこのローブの者が身体強化を使えるのはおかしいのだ。子供にして盗みを働くなど、きっとスラムの様なところに住んでいるからなのだろう。


 その様な場所に身体強化を教える指導者の様な存在はいないだろう。ならばなぜ身体強化をできるのか。


 僕は灰色ローブが転生者なんじゃないかと疑っている。転生者なら子供でも身体強化を使えるのも納得だ。



 僕は灰色ローブの後を追うために身体強化を使った。



「あ、アルノルト様」「


 背後からアニの声が聞こえる。


 ごめん、アニ。僕は転生者がいるのならその人と交流を持ちたいって思っているんだ。だから、今は置いていくね。



 僕とローブの追いかけっこが始まった。


お読みいただきありがとうございます。

ご指摘ご感想などいただけたら幸いです。


明日の投稿はお休みさせていただく可能性があります。


私の体調しだいという事になる為、投稿を約束する事は出来ません。

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