第二十三話 決闘・4
舞台は爆炎に包まれた。舞台の周りで決闘を観戦していた兵士達の間に戦慄が走る。目の前で行われていた決闘。それは嫌われ者のベネディクトゥスと最近王城で噂になっていた第一王子の長女、そしてとある伯爵家の子供。
兵士たちはこの決闘、ベネディクトゥスの圧勝に終わると考えていた。ベネディクトゥスは兵士達から嫌われていたが、それは実力がないからではなくただ性格の悪さから嫌われていたのだ。
ベネディクトゥスの実力は一般的な兵士と比べて少し強い位だ。当然七歳を迎えたばかりの子供に勝てる相手ではない。そう思われていた。
こんな決闘を行うなど、王は乱心なされたかと囁かれるほどに兵士たちの間での下馬評は固まっていた。
しかし試合の終わった今。そんな事を心配する兵士はこの場に居なかった。初撃は子供達が優り、中盤ベネディクトゥスが子供たちを蹂躙した。セレスティーナが倒れた時点で勝敗は決した。そう思う者は多かった。しかし、アルノルトが最後に放った魔法はこの決闘を見ていた者達を驚嘆させた。
フレイムブラスト。それは学院に入学する前の子供に使う事等できるような魔法ではない。その魔法は学院の生徒でも中学年の優秀な生徒が扱うような魔法だ。その威力は至近距離で人間に放つようなものではない。
ベネディクトゥスは剣を盾にしたため、かろうじて生きているが、全身は大火傷を負い、地面に突っ伏している。革の鎧など、何の役にも立たず、当然、胸の魔石も粉々に割れている。
審判を受け持った者がベネディクトゥスに近づき、生死を確認する。生きていることの確認と魔石の粉砕を確認した審判はアルノルトとセレスティーナの勝利を告げる。
一瞬の静寂の後、決闘場に歓声が飛び交う。
歓声にあふれる兵士達、その間をすり抜け、何人かの人間が舞台上に上がる。
「セレスティーナ様!」
ロシェルがセレスティーナの元に駆け寄る。髪をかき分けて傷の具合を確認する。セレスティーナの頭は大きく腫れあがり、そこにある細かい裂傷を確認する。
ロシェルはセレスティーナの傷口から髪飾りの破片を取り除く、そして患部に手を当てて治癒魔術を発動する。ぼんやりと光るロシェルの手。その光に触れたセレスティーナの患部は腫れが引き、出血も収まり、裂傷も綺麗になくなっていた。
しかしセレスティーナは目を覚まさない。殴りつけられた衝撃で意識を失っているようだ。治癒魔術は傷を治す事は出来るが、意識を戻すことまでは出来ない。
ロシェルは意識を失ったままのセレスティーナを背負い、決闘場を抜け医務室へと向かった。
他の医務室より来た医者たちはアルノルトとベネディクトゥスの二人を担架に乗せて医務室へと運び出した。
決闘者達のいなくなった決闘場では王による勝敗が決したことの報告、それによるそれぞれの報酬や罰について説明がなされ、この場を解散するように命じられた。
その後王は急ぎ足で医務室へと向かった。
何やら話し声が聞こえる。僕は顔を声のする方へ向ける。しかし目の前はカーテンで遮られていてシルエットしか見えなかった。
僕は手を伸ばした。しかし上手く手に力が入らない。僕の伸ばした手はカーテンに軽く触れるだけでめくるまでには至らなかった。
えっと、何があったんだっけ。確か、修練場に向かって、セレスに会って……!
そうだセレス、彼女は無事!? それに決闘の勝敗は!?
僕は飛び起きようとした。しかし全身に力が入らず、起き上がる事が出来ない。
動くことのできない僕は仕方なく、声を出した。
「すみません。誰かいませんか」
「っ! 起きたのね!」
先ほどの声がした方向からセレスの声が聞こえた。
「セレス! 無事なの」
僕がそう言うのと同時にカーテンが開かれる。その向こうにはセレスが大きな瞳に大粒の涙を浮かべて立っていた。
「アル君!」
セレスは僕に飛びついた。力を入れる事の出来ない僕はセレスを受け止める事も出来ず、ベッドに強く押し付けられた。
セレスはそのまま僕に馬乗りになり、首に手をまわし、思いっきり抱きしめてくる。
「セ、セレス?」
「あああ、よかった、本当に良かったよぉ。私、アル君が死んじゃったんじゃないかって心配で心配で……」
僕は力を振り絞り、セレスを体から引き離す。セレスの顔をよく見ると目元が真っ赤に腫れている。
「セレス、その目」
「あ、大丈夫、さっきまで泣いてただけだから」
そういって目に溜まった涙を指ではらうセレス。僕は上体をすこし起こしセレスの髪を撫でる。そして僕は精いっぱいの笑顔を向ける。
「……ごめんね、心配かけたみたいだね」
「……うん」
セレスは僕の胸元に顔をグリグリと押し付ける。そんな時ではないとわかっているが、セレスの仕草に僕は少しときめいてしまった。彼女の事を……可愛いと思った。
「おほん」
その声を聞くやいなや僕とセレスはお互いにお互いの体を離し合う。僕は声のする方に顔を向けた。
「仲が良いのはいいと思うがの、そういうのは、その、もう少し歳をとってから人目のない所での」
目の前の人物はパーティー会場、そして先ほどの決闘場で見た人物。この国の王様だった。
「これは、その……失礼しました」
僕はすぐさま王様に謝った。王様の前でその孫娘とイチャイチャしてるなんて不敬もいいとこだ。今度は僕がベネディクトゥスと同じ目にあってしまう。
「お爺様、アルノルトさんを怒らないでください! すべてはお爺様のたくらみのせいで私たちがこんな目にあっているのですから」
セレスは王様から庇うように僕を抱きしめる。
「別に怒らんよ。それに二人とも口調を戻してもよい。アル君にセレスだったか……。お互いに呼びやすいように呼べばよい」
王様は朗らかに笑いながら僕らにそう告げた。
「さて、まずは何から話したもんかのう。そうじゃの、先ほどの決闘の勝敗からかの。……結論から言うと、勝者は君とセレスじゃよ」
そっか……。僕らは勝ったんだ。
「見事な戦いじゃったよ。小さな力を振り絞って戦う姿は見ていて胸が熱くなるものがあったもじゃ」
「……私たちは凄く痛かったのですけど」
「……すまなかったのう」
「あの、さっきから気になっていたのですが、その、王様のたくらみとは……一体?」
話を聞いているとどうも今回の決闘は王様が何かを企んでいるらしいが……。
「お爺様、アル君に話してあげてください。彼は本来無関係なはずだったのですから。なのに結果的に一番被害を負ってしまったですから、我々には説明責任があります」
「そうじゃの」
王様はそう言って話を切り出した。




