第一話 転生
拙い作品ですがお読みいただけると幸いです。
体の感覚がなくなっていく。もう手足は動かないし、目も見えない。瞼が開かないのだ。体には生暖かいぬるっとした液体がまとわりついている。右耳は鼓膜が破れてしまったのか音がまるで聞こえない。残った左耳には片方の耳でしか音が聞こえない為かいつもと違ったサイレンの音が聞こえる。少し離れた所では僕に罵詈雑言を浴びせる男の声と騒めく野次馬、そして僕の名前を叫び続ける女の子の声が聞こえる。
あぁそうか。僕は死ぬのか。
全身が血だらけになりズタボロになった段階でようやく自分に死が近づいてきている事を実感した。
あぁ、さっきの女の子の声は真希か……。無事だったんだな。そしたら男の声は僕を刺した真希のストーカーか。ちゃんと警察に捕まったようだ。
生まれてきてから初めての感覚。全身の力がだんだんと抜けていき、自分の体が自分のものではなくなっていく感覚。体中の熱が外に放り出される感覚。
そして魂が身体から離れる感覚。
あぁ僕は死ぬんだ。でも、幼馴染の女の子を暴漢から守って死んだんだ。ちょっとはかっこいいかな?
ああああああ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!
どうして僕が死ぬんだ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 今僕にある全ての感覚が怖い。自分の体が死に向かっていくのが怖い。もう家族に会えなくなるのが怖い。友達ともっと遊びたかった。真希に気持ちを伝えたかった。まだまだまだまだしたい事なんて山ほどあった! 幼馴染を守ったかっこいい死に方? ふざけるな! 死んで何になるんだよ! 守って、それから一緒に居られなかったら意味がないだろ!
――僕の意識はそこで途絶えた。
誰かに体を持ち上げられた。それと同時に回りから嬉しそうな声が聞こえる。
ここは病院? 僕は助かったのか……? 目を開けて周りを見ようとするが視界がぼやけてよく見えない。
唯一見えるのは僕を抱えている白髪交じりのお婆ちゃんだけだった。看護師の人かな?
なんだかあたりが騒がしい。けど、助かったのなら何でもいいや。
今はひとまず、もうひと眠りし――
「リア様、おめでとうございます。男の子です」
「ありがとう、ゼルマ。それにしても、この子泣いていないのだけれど大丈夫なのかしら。赤子は生まれてすぐに泣くものだと聞いていたのだけれど」
「ええ、私もその事は心配だったのですが、泣かずとも呼吸をしているのです。赤子が泣くのは呼吸をするためと言われていますが、何とも不思議な子です」
「問題がないなら構わないわ。……ヘロルド様にこの子を会わせてあげたいのだけれどいいかしら?」
「ええ、わかりました。すぐにヘロルド様へお知らせに参ります」
「生まれたとは誠か!」
「ええ、元気な男の子ですよあなた」
「おお、そうかそうか。リア、大儀であった。よく頑張ったな」
「ヘロルド様、一応手の消毒をお願いいたします」
「む、わかった。ゼルマもよくやった。また、すぐにアンネローゼも産気づくと思うがその時もよろしく頼む」
「アンネローゼ様はご自身の実家から産婆を連れてくるとの事なので、私が出る幕はありません」
「そうであったか」
「それではヘロルド様、この子を抱いてあげて下さい」
「うむ。……我が子、アルノルトよ。よくぞこの世に生まれてきてくれた。これからこのリーベルト家の者として成長し、この家を盛り上げてくれることを期待する」
――抱き上げられた僕は思った。僕今赤ちゃんになってね?
数日後、冷静になった僕は気づく。あ、これ転生してるわ……と。
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