ワラの人形
体育の授業のための移動中、体育館へとつながる渡り廊下に人形が落ちていた。
人形とは言っても、ワラを束ねて人の形にした、俗に言う『ワラ人形』だ。
ワラ人形は通路のド真ん中で大の字に寝そべっている。
にもかかわらず、私以外ダレも気に留めていなかった。
ダレもが、避けて通るかまたいで通るかをして、何事もないように歩き去った。
色のキレイなワラだけを使用し、太さも均一で、断面もキッチリとそろえられている。
遠めに見てわかるほど恐ろしく出来がいい。
――手にとってじっくり見てみたい。
しかし、となりを歩く友人はそれをあまり好ましくは思わないだろう。
残念だが、私も気づかぬフリをして大きくまたいで通り過ぎる。
約一時間後、授業を終えてそこを通るとワラ人形の姿はなかった。
ダレかが拾っていったのか、それとも自分で歩いていったのか。
給食を終え、お昼休みになる。
私は職員室へと向かった。
提出し忘れていたノートを気づかれないようにまぎれ込ませるためだ。
たいした用事ではない。
階段を下り、廊下を歩き、職員室の前の落とし物を陳列する棚の前を通る。
そちらを見ながら歩いていると、ジャージやハンカチなどにまぎれて『ガッツポーズ』をするワラ人形を見つけた。
いや、手首から先が内側に折られているのを見るとダブルバイセップスだ。
貧弱なワラでできている人形にもかかわらず、なにやら誇らしさすら感じられる。
そんな上腕二頭筋の強調をするワラ人形に思わず手を伸ばす。
手足を曲げてみると内側に固い感触があり、変形した体勢のまま元にはもどっていかない。なかに針金かなにかでも仕込まれているらしい。
そのおかげでポーズをとらせることができるようだ。
ひとまず私はサイドチェストのポーズをとらせる。
胸の厚みを横から見せる、というとてもメジャーなポーズだ。
格好良く見えるように何度も角度を調整しバランスよく立たせて完成だ。
出来に満足した私は職員室へとはいっていった。
トビラが閉まるのを確認するとワラ人形はサイドチェストのポーズを解いた。
手足の末端のワラから中心の針金まで、全身をほぐして最後に大きく伸びをする。
助走をつけ、棚から下へ跳ね降り、みごとに廊下へ着地を決めた。
息つくまもなく物陰へと走りかくれた。
まもなくふたりの教員が談笑しながら職員室を出てくる。
後から出た教員が後ろ手にトビラを閉める――そこへワラ人形は走り出す。
ふたりの視線をかいくぐり、四本の足をすり抜けるようにして職員室へ滑り込んだ。
そして、職員室のトビラが閉められる。




