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善雨

作者: バオール
掲載日:2016/05/22

 天気予報が当たった――雨だった。

 科学が発展して天気予報はほぼ百発百中だ――次の雨は二週間後だそうだ。

 ぽつぽつと雨が落ち、ゴム引きの外套のフードにあたる。

 帽子越しの音は曇ったように、隔絶した世界のように感じた。ゴム引きの外套の稜線を辿り、毒混じりの雨は流れた。

 世界を茸が支配してから、雨の日は優しかった。

 雨は毒を浄化してくれる。

 僅かな間だけ――外の世界で毒マスクは必要無くなる。

 毒マスクを外して、雨で浄化された空気を深呼吸した。

 気持ちの良い匂い――雨と草いきれは肺の中を清浄にしてくれた。

 ぴちゃぴちゃ――スキップで水溜りが弾んだ。

 庭から道路へ、苔とともに生える茸が胞子を雨に叩き落されていた。

 外を歩く人達は殆どいなかった。

 車も動いていない――胞子を飛ばすし、エンジンが故障するからだ。街の中では放置された車も多くて、使われていない建物は廃墟となり茸の菌床となった。

 廃墟を見上げていると、思わず口を広げていた。

 手を覆い、毒の雨が入らないように気をつけた。

 雨は日暮れまでは降り続ける――それまでに帰らないと駄目だった。

 鼻歌混じりのスキップは目的地まで続いた。

 郊外の丘――霊園だ。

 お父さんと、お母さんが眠っている墓は覚えていた。

 道草を集めた花束を供えて、報告をした。

 私――生きているよ……と。

 二人とも茸の毒で死んで、私だけを残した。

 墓石に口付けして、唇がひんやりとした。

 ごほっ……咳きと共に胞子が飛び出した。

 お父さんとお母さんを殺した茸の毒だった。

 私の全身は菌床となり、視界の上辺りに茸の陰が映っている。

 もうすぐそっちへ行くよ。

 久し振りに病院の外へ出ることができた。

 次の雨まで持ちそうになかった。

 私は病院へ戻り、毒マスクをつけて病室へと戻った。

 看護師にゴム引きの外套のクリーニング代がかかる――と泣きながら怒られた。

 数日後、茸が全身を覆った。

 意識が薄れ始めていた――が医者の声が聞こえた。

 君の体の中で茸が変位した。

 世界の覆っている茸に対抗する茸だ。

 まだ力は弱いが、確実に作用はしている。

 だが、その茸も君を侵食し尽くしている。

 君の命が助けられないのが残念だ。

 そう――別にどうでも良いよ。薄れていく意識の中で、私が最後に見たのは、お父さんとお母さんの墓だった。私の吐いた胞子は雨に洗い流されたはずだけど、私は茸が霊園を覆う景色を見た。

 それは世界に抗う小さな希望に見えた。

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