プロローグ:千里の道も一歩から...
今回は、青柳と兵吾が普段行っている筋力増加トレーニングの一部部分のパートです。
○場面:兵吾の館の一室(朝) ⇒ 館通路(朝)
兵吾に付いて行きつつ通路の装飾確認する勇也
勇也「部屋もそうでしたが、この廊下もかなり豪勢ですね」
兵吾「あははぁ〜、ここにある物全部、僕が置いた物じゃないんだけどね」
勇也「それじゃ、青柳さんですか?」
兵吾「僕の趣味が青の趣味でもあるから、全く違うよ」
勇也「なら、これだけ広いし、ここにいるお手伝いさんとかですか?」
兵吾「この館には、青柳以外の使用人は居ないよ」
勇也「えっ、これだけ広い建物なのに青柳さん1人だけなんですか?」
兵吾「そっ、僕は僕が認めた者以外を側に置くつもりはないからね。まぁ、ここに居れば、これらを置いた犯人に、近い内に会う事になるから、それまでの楽しみって事にしておいて」
勇也「はぁ、解りました」
会話を終えて通路を進み、エントランスホールにつく兵吾達
エントランスホールの扉を開いて庭園へと出る
○場面:館通路(朝) ⇒ 館エントランスホール(朝) ⇒ 館玄関前(朝)
朝日に手で廂を作る勇也
眼の前に広がる庭園に感嘆の声を漏らす勇也
前方に小さく見える門に向かって伸びる石畳の通路を歩き出す
勇也「スゴイ……」
兵吾「ふっふっふっ、どうだい?無駄に広いだけじゃなくて、手入れも行き届いていると、とても壮観だろう?やってくれているのは、勿論僕じゃなくて青だけどね」
勇也「料理もかなりの腕だし、この広さの家と庭園の手入れも出来て、腕っ節も俺よりもある——青柳さん、本当に何者ですか?」
青柳「兵吾様専属御付従者です」
勇也「あっ、いや、そう云われても、俺も困ります……」
兵吾「あっはっはっ、確かにね。僕専属御付従者って云われても、勇也には何の事だか、全く解らないね。只、全部を伝えても理解の範疇に収まらないと思うから、今の所は、そのまんまの意味で捉えてちょうだい」
勇也「はぁ、兵吾さんにのみ付き従う者って事ですか?」
兵吾「そそっ、今の所は、それで十分」
観音開きの重厚な鉄製の門の所に辿り着いた所で、
青柳が前に出てパネルを操作して門を開く
見た目通り、金属特有の音を響かせて開く門
○場面:館玄関前(朝) ⇒ 山間の道路(朝)
見渡す限りの山と木々
勇也が辺りを見回していると道路の中程に移動する兵吾と青柳
二人の元に近寄った所で地面に転がっているモノを確認して少し退く勇也
勇也「そ、その地面に転がっているのは、タイヤ……ですよね?」
兵吾「そうだよ、どこからどう見ても、タイヤじゃないか」
勇也「いや〜、そうなんですけど、何なんですか? その大きさは??」
兵吾「走っているのは見ているけど、こうやって外されているのを見るのはそうそうないから、驚くよね〜。これは、重ダンプトラックのタイヤだよ。直径約1.6メートル、重量約220㎏。これに僕が乗るから、大体300㎏位になるかな?青には、これを引きながら10キロ程走ってもらうんだ。あっ、勇也は今日が初めてだから、何もなしで自分のペースで青と同じ10キロね」
コクコクと頷きながら鎖が繋がれている革製の分厚いベルトを腰に巻く青柳
ベルトから伸びる鎖の先端に着いてるカラビナを使って
タイヤとベルトを繋げる青柳
ベルトを装着しているのに器用に準備体操をする青柳
勇也「いやいやいやいや、うっかり静観しちゃいましたが、それ、ないですよ、ないない。グラウンド整備用のローラーなら未だ解りますが、ゴム製のしかも、300㎏もの重さがあるのを引いて走るなんて、先ず無理ですよ?!」
青柳「勇也様、ご心配は無用です。わたくしの場合、肉体を鍛えるのには、これ位の負荷がなくては、ダメなのです」
勇也「そ、そうなんですか?」
青柳「はい、自分の倍以上の重さでないと、余り良い負荷になりません」
勇也「倍以上って云いますが、それ、どう見ても青柳さんの数倍はありますよ……」
青柳「いえ、このタイヤに兵吾様が乗られて、大凡2倍です」
勇也「……青柳さん、体重幾つあるんですか?」
青柳「大体150㎏です」
勇也「はぁっ?! ひゃ、150㎏?!! 俺の2倍以上じゃないですか??嘘はいけませんよ、嘘は。どう見たって、40㎏前後しかあるように見えませんよ」
青柳の体重を疑っている勇也にいつの間にかタイヤの上に乗っかっている兵吾が手をポンっと叩いて提案する
兵吾「勇也、ちょっと青を持ち上げてみてくれないか?そうすれば、一発で解るよ」
勇也「確かにそうですが、良いんですか?」
青柳「どうぞ」
両の腕を持ち上げて脇の下を空けた青柳
遠慮がちに脇の下に手を入れて持ち上げようとする勇也
勇也「っ! ……ぅぅぅん〜〜〜っ!! ……っえっ?!」
腕の力だけで持ち上げようとしたがビクともしないのに驚きを隠せない勇也
今度は腰を入れて持ち上げるが数センチ上がった所で下ろす勇也
勇也「む、無理っ! ……はぁ〜、はぁ〜……なんすか、この重さは……。太っている重さじゃなく、中に何かがミッチリ詰まっている感じがして、簡単に持ち上げられる気がしません……」
兵吾「タダ鍛えるだけでなく、高負荷と低負荷の緩急をつける事で、見せるための肥大化した筋肉でなく、強く靭やかで高密度な筋繊維が出来上がるのさ。そうやって出来上がった筋繊維は非常に重く、強靭だよ。青はちょっと特殊だけど、昨日、勇也が本気で打ち込んだのに全く通じてなかっただろう? あれが証拠さ」
勇也「なるほど、俺の身体も青柳さんみたくさせるって事なんですね」
兵吾「そうだよ。重く、強靭であり、瞬発力と持久力も兼ね備えた、理想的な身体にね。さっ、そろそろ身体の方も良い感じにほぐれたと思うから、サクッと走ろう」
タイヤを叩いて促す兵吾
青柳に目配せをして頷いたので、先に走りだす勇也
所々で支持を出して走る方向を決める兵吾
走り始めた門の所に戻ってきた所で肩で息をする勇也
勇也「はぁ〜っ、はぁ〜っ……ふぅ〜………………ここの所、ずっと運動していなかったから、かなりキツかった……」
青柳「お疲れ様です。こちらのスポーツドリンクをお飲み下さい」
勇也「ありがとうございます」
青柳からの500mlのペットボトルのスポーツドリンクを受け取り、飲み干す
ベルトを外して、タイヤから鎖も外す青柳
外した鎖付きベルトを肩に担ぎ、寝かせてあるタイヤを持ち上げて
反対の肩に担ぐ青柳
勇也「ぶぅ〜っ!!」
青柳「どうかいたしましたか? 勇也様」
平然としている青柳にコレ以上何かをツッコム事を諦めて片手を上げて左右に振る勇也
勇也「い、いえ、何もありません。続けて下さい」
青柳「そうですか。畏まりました」
門の中に入り、すぐ近くに存在する物置にタイヤとベルトを片付ける青柳
戻ってきた青柳に空になったペットボトルを渡して息を整えている勇也に声を掛ける兵吾
兵吾「んじゃ、今度は館の方に戻って瞬発筋の鍛錬だよ〜」
勇也「解りました」
3人が門の中に入った所で扉が閉じる
石畳の通路を歩いて館に戻った所で玄関には行かずに若干逸れる3人
壁に沿って暫く歩くと、外見こそ館に似ているが、全体的に落ち着いた雰囲気の離れのような建物に辿り着いて中に入る勇也達3人
○場面:山間の道路(朝) ⇒ 館玄関前(朝) ⇒ 屋内訓練場(朝)
靴をスポーツシューズに履き替え防音格好が施された板張りの部屋に入る3人
天井が高く、そこからロープが下がっており、設備も本格的なジムにあるものが揃っていて、興味津々に周りを眺める勇也
勇也「本格的ですね」
兵吾「必要な所に必要な投資をするのは、基本だからね。でも、僕はアナログが好きだから、これらの設備は余り使わない。こういうのを使った方が良い時には使うけど、それ以外の場合には、基本はアナログだね」
勇也「好みの問題、ですか?」
兵吾「それもあるけど、アレ系の器具は見せるための太く大きい筋肉を作るためのものだから、僕の求めているのに合わないんだ」
勇也「確かに、俺も道場で鍛錬していた頃、余り道具を使わなかったですね」
兵吾「でしょ? なので、使った方が効率的な時以外は使用しないのさ」
天井から下がっている荒縄のロープに近寄って揺らす兵吾
兵吾「上半身から入ろうか——青、お手本見せたげて」
呼ばれて兵吾の持っているロープに近寄ると、ロープを股の間にして、腰を下ろす青柳
兵吾「僕の合図で上に上がって……始め!」
兵吾の合図で腕の力だけでスルスルと15メートルはあろうロープを登って行き、天井迄上がった所で、登った時と同じく腕の力だけで降りてくる青柳
兵吾「お疲れ様」
兵吾からの労いの言葉に一礼して応える青柳
兵吾「勇也」
名を呼ばれたので、ロープに近寄り、青柳と同じ体勢になって準備をする勇也
兵吾「勇也の場合は、行ける所まででいいから、無理はしないようにね……始め!」
兵吾からの合図に腕の力だけでロープを登っていく勇也
10メートル程登った所で登る速度が落ちて、天井に届く前で止まってしまう勇也
肩で大きく行きを吸いながら上へ上へと向かう勇也
勇也「ふぅ〜っ! ふぅ〜っ!」
兵吾「無理せず、途中で戻ってきても良いんだぞ〜」
勇也「い、いえ……未だ……行けます、ので……行きます……」
天井まで登った所で、一息ついて降りようとした所で手の力が抜けてしまう勇也
勇也「あっ……」
慌ててロープを握る手に力を込めるが擦ってしまい手を火傷する勇也
勇也「熱っ!!」
兵吾「勇也! ロープから手を放すんだ!!」
兵吾からの言葉に従いロープから手を放した勇也
自由落下に任せて加速した身体を何の支障もなく受け止める青柳
勇也「ぐぅっ! ……お手数をお掛けします」
青柳「いえ、これがわたくしの仕事ですから、お気にせず」
床に降ろしてもらった所で一瞬、膝の力が抜けてよろめいてしまう勇也
瞬時に判断して支える青柳
勇也「度々、すみません……」
青柳「お気になさらず」
近くに置いてある腹筋台に腰を下ろした勇也に近寄る兵吾
いくら運動をしていないからといっても、それなりに動ける自負があった勇也は自身に落胆していた。
そこに間髪入れずに兵吾が話しかけた。
兵吾「大丈夫かい?」
勇也「情けない姿を見せてしまい、すみません」
兵吾「いやいや、初めてなのに、あれだけ登れれば十分さ。後は持久力さえつけば、何とかなるレベルだから、むしろ、優秀な方さ。次は今座っている腹筋台を使って腹筋をしてもらおうと考えているんだけど、少し休むかい?」
勇也「いえ、続けて大丈夫です。さっきのは落ちた時のが未だ残っていたからで、今はもう大丈夫です」
兵吾「なら、結構。軽く50回を1セットとして、3セット。その後、俯せになって同じく背筋を50回を1セットで、3セットね」
勇也「なかなかやらせますね」
兵吾「最初だから、若干抑えているけどね。青には100㎏の重りを身体に付けた状態で、ロープを10往復と、同じく重りを付けた状態で、腹筋背筋をそれぞれ100回3セットだからね」
勇也「……デタラメですね……」
兵吾「支持した本人の僕もそう思うから、青のは余り気にしないで進めてちょうだい」
勇也「了解」
各々に課せられたメニューを黙々とこなす勇也と青柳
手持ちぶたさになった兵吾は、上着を脱いで、壁の縁を利用した指を酷使する
右の片手懸垂を始める
メニューを終えて汗塗れになった2人プラス1人
勇也「お、終わりました……ふぅ……」
兵吾「お疲れ様。青には一足先に自転車エルゴメーターをやってもらっているから、青の隣の自転車エルゴメーターを使って次のにいってちょうだい」
勇也「了解〜」
青柳が漕いでいる自転車エルゴメーターの隣に移動して漕ぎ始める勇也
60分のタイマーがカウントダウンを始め勇也の残りが30分位の所でアラームが鳴り、自転車エルゴメーターから降りる青柳
青柳「お先に失礼します」
勇也「あっ、はい、どうぞ」
壁に掛けてあるタオルを手に取り、汗を拭って兵吾の側に歩く青柳
青柳「本日の簡略メニューを終えました」
兵吾「はい、ご苦労様。青は先にシャワーを浴びて汗を流したら、いつも通り、昼食の準備をお願い」
青柳「畏まりました」
屋内訓練場の備え付けシャワー室に向かう青柳
再び手持ちぶたさになったのか、柔軟を始める兵吾
シャワーを終えて黒服に着替えた青柳が戻ってきて
兵吾に一礼して屋内訓練場を後にする
アラームが鳴り、自転車エルゴメーターから降りる勇也
勇也「今日の、メニューは……これで、終わりです、か?」
兵吾「鍛錬の方はね。昼食を終えたら、午後からは別の実技の時間だよ」
勇也「な、なるほど、了解です……」
兵吾「んじゃ、勇也は先にシャワーを浴びて汗を流してきてちょうだい。その間に僕は片付けや午後の準備をするからさ」
勇也「片付けなら、俺がやりますよ?」
兵吾「いやいや、たまには僕もやりたくなったから、気にしないで汗を流してきなよ。その後はそのまま部屋に戻っていいからね」
勇也「そうですか……解りました」
屋内訓練場の備え付けシャワー室に向かう勇也
兵吾(ふふっ。思った以上に良いペースだ。物事が滞り無く進むのは本当に気分がいい。そろそろ、連絡する時間か。)
勇也を見送った所で上着のポケットから携帯電話を取り出して何処かに連絡を取る兵吾
勇也が二人のトレーニングについてこれるのは、勇也が既に普通の人離れしてる、と思いますがそこは気にしたら負けです。ここまで、読んで下さり有り難うございます。