プロローグ:勝負は一瞬で...
兵吾と勇也の間に垣間見える「各の違い」そちらを意識しております。
携帯電話の目覚まし時計が喧しく鳴り響く。
布団から手だけを出して止め
起き上がって時間を確認する。
勇也「12時に間に合うには、30分前に出れば良いんだし、未だ時間があるな」
テレビを付けてニュースを確認しながら朝食の準備をする。
キャスター「天神心理教会の新たな施設の建設候補に選ばれた近隣住民が抗議のデモを行い、立ち退き要求をしております」
勇也「あんな事件を引き起こしたんだから、施設を建設しようとしたら、反対されるのなんか、目に見えているのに、諦めないものだな。まっ、その厚かましさがあるからこそ、あそこまで大きくなったってのもあるんだろうけど、俺にはそんなこと無理だな」
朝食を食べながらテレビを見る。
食後のお茶を楽しみながら時間まで過ごす。
時計に視線を向けると時間になったので外出する勇也
○場面:勇也の部屋 ⇒ 最寄り駅 ⇒路地(朝)
待ち合わせ場所に10分前に付いた。
場所を間違えていないことを先日受け取った名刺で確認していると遠方からエンジン音の唸りが聞こえ、近付いて来る。
勇也(な、なんだ、アレは?あんな車に乗っているのなんて、まともな人間じゃないのは確定だぞ。関わらないにこしたことはないな)
ハンヴィーは唸りを上げながら勇也の近くまで来ると
急ブレーキを掛けて停止した
助手席の扉が開いて中から兵吾が現れる
兵吾「やぁやぁやぁやぁ、ちゃんと時間通りに来たね〜、感心感心。この世で唯一、全ての人間に等しく分け与えられているのは、時間だけだから、時間を有効に使う人間は、僕は好きだよ〜」
両手を広げながら笑顔で近付いて来る兵吾につい警戒してしまう勇也
(関わらないと決めた矢先に、コレか。我ながら、いいフラグ構築っぷりだ。)
そんな構わず勇也に近付き、ハンヴィーに乗るように促す兵吾
兵吾「んじゃ、早速、昨日の続きを伝えようと思うから、先ずは車に乗ってちょうだい」
兵吾の表情を伺うが、相変わらずの笑顔のままのため、諦めてハンヴィーの後部座席に乗り込む勇也勇也が乗ったのを確認した所で兵吾も乗り込みながら、運転席にいる青柳に合図を送る
兵吾からの合図に頷いて応える青柳
○場面:最寄り駅 ⇒ ハンヴィー内(昼)
ハンヴィーが唸りを上げて駅から遠ざかる
勇也に気付かれないようにドアの鍵を掛ける青柳
兵吾「さて、木嶋君、ビジネスの話をしようと思うけど、その前に、喉が渇いたと思うから、何を飲む?——っと云っても、お茶系とスポーツドリンク位しかないんだけどね」
勇也「はぁ、それじゃ、スポーツドリンクをお願いします」
兵吾「ちょっと待ってね〜」
車内に備え付けられている保冷庫からスポーツドリンクを取り出し、勇也に渡す兵吾、早速口にする勇也
勇也「高野さん、ちょっと気になるんですが、この車って、戦争映画に出て来るジープってやつですよね?」
兵吾「うん、そうだよ。正式には、High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle——通称、Humveeって呼ばれる高機動多用途装輪車両だよ」
勇也「それって、滅茶苦茶高いんじゃないんですか?」
兵吾「そうだね〜、居住性や装甲性能の向上のためにあれやこれやと弄ったから、大体5000万は超えているだろうね」
勇也「ご、5000万?!……探偵って、そんなに儲かるものなんですか?」
兵吾「それなりに、ね。木嶋君も、本気で手伝ってくれれば、これどころか、もっと性能の良いのが買えるようになるよ」
勇也「う〜ん……俺の知っている探偵って仕事は、諸経費込みで日当辺り数万が限界なんですが、その辺り、どうなんですか?」
兵吾「おっ、なかなか鋭い所をついてくるね〜。その通り、通常の探偵なら、それ位が限界だろうけど、僕のはちょっと違うかね〜。例えば——」
飄々と話していた兵吾が突然真顔になり、勇也に視線を合わせる
一切の動作を止めて兵吾からの視線を受ける勇也
兵吾「木嶋君が呑んでいるそのドリンク。実は只のスポーツドリンクじゃないんだな」
兵吾が何を云いたいのか解らないが、再度ドリンクを飲んで味を確認する勇也
勇也「……特に、これといって変な味はしませんが……?」
兵吾「そうじゃないんだけどな〜………………っと、そろそろかな?」
視界が徐々にブレる
身体に力が入らず、咄嗟に伸ばした腕が肘から曲がる
勇也「ア、アレ?ち、力が入ら、ない……」
兵吾「無味無臭、その上無色で、あらゆる薬物検査に引っ掛からないスグレモノ。凄いでしょ?」
薄れ行く視界の中で兵吾が何かを云っていたが、内容を理解するよりも先に座席に倒れ込む勇也
兵吾「5分、か……それなりにもった方だけど、未だ未だだね」
青柳「兵吾様、初めてでその時間ならば、良い方ではないでしょうか?」
兵吾「そうだね〜……うん、これから鍛えると思えば、充分だね」
座席に倒れ込んでいる勇也の頭に手を当てる兵吾
○場面:ハンヴィー ⇒ 暗転 ⇒ 兵吾の館の一室(夕暮れ)
ゆっくりと目を覚ます
上体を起こして自分の置かれている状況を確認する
視線を動かしている所で椅子に誰かが座っていることに気付く
???「お目覚めになりましたか? 勇也様」
勇也「ア、アンタは?」
青柳「申し遅れました、わたくしは兵吾様専属御附従者の青柳と申します。以後、お見知りおきをお願い申し上げます」
今一つ要領を得ない勇也だが、席を立ち、青柳が恭しく礼をしたので反射的に頭を下げる。
頭を上げた所で無駄のない動きで部屋を後にしようとする青柳を止める勇也
勇也「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
もう話す事はないのに何故に自分を止めるのかと不思議な表情をする青柳
青柳「何か御用でしょうか?」
勇也「御用も何も、ここは一体ドコで、何で俺はここにいるのか、説明してくれ」
青柳「それでしたら——」
兵吾「そこから先は僕が説明しよう!」
声を上げながら扉を勢い良く開けて部屋に入ってくる男
自分に仕事の話を持ちかけて来た自称探偵の高野兵吾だ。
突然の兵吾の登場に驚く勇也
頭を垂れながら部屋の隅に移動する青柳
兵吾「おはよう、木嶋君。よく眠れたかい?」
勇也「あ〜……お陰様で——っとしておく」
兵吾「それは何よりだ」
シニカルに笑う兵吾
若干頬が引き攣った笑いをする勇也
兵吾「さて、それじゃ本題に入ろう。先ず、ここは僕が頭首より賜りし館だ。ここが僕の住処であり、全ての領地であり、墓場でもある。僕はここで人として営み、侵略者には鉄槌を下し、そして、死ぬ。——まっ、小難しく説明したけど、簡単に云ってしまえば、ここは僕の家って事だ」
勇也「はぁ、高野さんの家、ですか……」
部屋を軽く見回して調度品や作りを確認する
窓の外に視線を向けて自然の中に建っている建物の一室である事を確認する
(どう見ても、普通に仕事してたら一生手に入りそうにないものばかりじゃないか?この人本当に、何者だ?)
兵吾「まぁまぁ、その話を今からするからそんな急かさないでくれ。」
勇也(心が読まれた!?)
兵吾「君の顔に書いてあるじゃないか。僕は何者だ?ってね。」
勇也(駄目だ、この人の方が何枚も自分よりも上手だ。話を元に戻そう。)
勇也「この部屋だけで俺の借りてるアパートの部屋以上あるんですが、随分と広いんですね」
兵吾「そりゃ〜、小高い山を丸っと買い上げて建てた館だから、その1部屋1部屋も相当な広さを持っているさ。っと云っても、この部屋は使用人の部屋だから、他の部屋に比べたら、幾分かは狭いけど、我慢してちょうだい」
勇也「そ、そうですか」
自分の住んでいる部屋よりも大きな部屋を狭いと云われて肩を落とす勇也
兵吾「んで、木嶋君がここにいるのは、探偵の仕事を手伝ってもらうためさ」
勇也「はぁ〜、普通、探偵の仕事と云ったら、こんな自然に囲まれた場所じゃなく、人々の雑踏の中にあるもんじゃないんですか?」
兵吾「いや〜、そうなんだけど、先ずは資本である身体を鍛えないと、僕の仕事の手伝いは難しいから、この自然あふれる場所に連れてきたのさ。健全な精神は健全な肉体に宿る! って所だね」
勇也「俺、小さい頃から空手をしていて、体力にはそれなりに自信があるけど、それでも厳しい位、その仕事ってキツイんですか?」
兵吾「う〜ん、そうだね〜……言葉で云ってもよく解らないと思うから、ちょっと体験してもらうのが良いか——青」
それまで部屋の隅にいたが、呼ばれて兵吾の半歩前に立つ青柳と呼ばれる女性
勇也も兵吾に手招きをされて青柳の数歩前に移動する
青柳の肩に手を載せ
兵吾「この子は青柳と云って、僕の身の回りの全ての世話をしてくれる有能な助手だ。無論、その中には僕の身を守るって役目も含まれている。そこで——」
青柳の背後に移動する兵吾
表情を一切動かさず佇む青柳
兵吾「僕に一撃当てるつもりで襲い掛かってきてちょうだい。この子——青がその全てを防ぐからさ。勿論、青には一切攻撃させないし、怪我をさせない程度に木嶋君を無力化だけさせる。どうかな? 解り易いだろう?」
兵吾からの提案を受け、目の前の青柳に視線を送る勇也
外見的特徴を確認して小首を傾げる勇也
勇也「この人と俺じゃ、かなり体格差があるし、俺はこれでも有段者ですよ?本当にいいんですか?」
兵吾「構わないよ」
勇也「あと、俺、手加減とか得意じゃないんで、本気でいきますが、それでもいいんですね?」
兵吾「どうぞどうぞ。むしろ、今のキミなら、本気でも一瞬で勝負がつくよ」
兵吾からの挑発を含まれる言葉に乗せられて構える勇也
対する青柳は一切身構えず静かに勇也を視界に捉える
勇也がすり足で半歩近寄るが動きを見せない青柳
次の一瞬で勝負はついた。
勝負は次の一瞬で決着が着きます。