エピローグ
三人が乗った車が完全に見えなくなってから、佐倉は駐車場の最奥に停まっている赤いジープの所まで歩き、中を覗いた。
車内では金髪ロングの女がシートを倒し、顔の上にファッション誌を乗せて眠っている。
車の窓を軽くノックすると女がのそのそと起き上がり、佐倉に気付いてドアのロックを解除した。佐倉が中に乗り込むと女は寝むそうな声を出す。
「おかえりー……って、うわっ! もうこんな時間じゃん。もしかして何かあった?」
「何にも気付かなかったんすか? 警察まで来てたのに。強盗が入って閉じ込められてたんすよ」
「ん? 何そのしゃべり方。って、ああ、そっか。今日そういう感じだったね」
女は頭をぽりぽりとかいて、それから一度大きく欠伸をした。
「それで、その強盗さんはアンタのお眼鏡に適わなかったわけだ」
「え? ああ、全然そんな事考えて無かったっすね。それ以前っす。ただ、客の中には面白い人達がいたっすよ」
佐倉がそういうと、金髪の女は俄然興味を持った様子で身を乗り出した。
「そりゃ珍しい発言だね。どんな奴らだったの?」
「大学生の男女と二十後半ぐらいの男の三人組なんすけど個性がバラバラで、しかも偶然出会った縁が続いてるってのが不思議で面白かったっすね。少し執着してみたくなる。その日にたまたま会っただけの他人を信用するなんて、何の冗談なんすかね」
「そんなんじゃ信用に足らないって?」
金髪の女が不適に笑ってそう言うと、佐倉は当然のように頷く。
そして感情の一切籠っていない声で返した。
「私は、私以外誰一人信用してないから」
「あたしの事も?」
「当然」
「はっは。言ってくれるね」
軽く笑って、金髪の女は車のエンジンを回す。アクセルを踏み込んで激しく排気音を響かせると、そのままクラッチを踏んで一気に車を加速させた。
慣れた手付きで手早いシフトチェンジを行う。金髪の女は楽しくて仕方が無いといった顔でスピードを上げていく。
体がシートに押し付けられ、強烈な風が髪を乱した。
「相変わらず、運転荒いっすね」
「その方が楽しいっしょ?」
金髪の女は更にアクセルを踏み込み、エンジン音が一際唸る。
一層強くなった風に甲高い笑い声を上げると、金髪の女はエンジン音に負けない大声で叫んだ。
「さて、花見と行くか!」
声と共に外の景色が高速で後方へ流れていく。
たしかに、つまらなくは無いと佐倉は思った。
赤いスポーツカーは容赦無く加速し、音と景色を置き去りにする。
遥か後方へと。
季節は春の初めで、その日はガラス細工にほんの少し水色を垂らしたような、そんな空をしていた。
時系列違いの叙述がやりたかっただけで書いたので、色々つっこみどころはあるかと思います。
なにはともあれ、ここまで読んでくださった方、本っ当ーにありがとうございました。
登場人物自体は動かし易いのが多いので、シリーズもので何か書いていきたいなあ、と考えております。
また見かけましたら宜しくお願い致します。
再三になりますが、読んでくださった方に感謝致します。