第七話 日常と日常
暴走族の騒ぎでまだ混乱している教師達の横を通り過ぎ、正門を出た。
制服のポケットから携帯を取り出して登録してある番号の中から一つを選び、発信する。
二回のコールの後に相手が出た。
『もしもし、みつヤン?』
「雄李、あいつ等の居場所は分かったか?」
『・・・・確かな情報やないけどな・・・・明蘭寺・・・比良沢の家や』
明蘭寺といえば東雲町では一番有名なお寺だけど、暴走族がいるなんて聞いたことがない
まあ、比良沢の家が明蘭寺っていうのは本当らしいから、本当かもしれない
それにしても、自分の家だからって暴走族が集まるなよ
やっぱり最低な奴等だ。
「明蘭寺なら知ってる。・・・ありがとな、また今度何かおごる」
『楽しみにしてるわ』
携帯の通話終了ボタンを押してポケットにしまい、明蘭寺へ走って向かう
明蘭寺に着くころには日も傾き、夕日が辺りを照らしていた。
だが、そんな中で明蘭寺には暴走族の男達が集まり、その周りだけが荒々しい雰囲気になっている。
学校に来た時よりも人数が少ないのは解散したのかそれともグループに統率力が無いのか
どちらにしても好都合だ。
「やっときたか」
声がしたのは男達の奥
比良沢兄だ。
その隣には体のあちこちを怪我や痣だらけにして縛られている稀沙奈がいた。
真っ白い制服は血で汚れている。
「・・・・・・」
「どうした?ショックすぎて声も出ないか?ちなみに由香利は自分の部屋でおとなしくしてる。まあ、動けないだけかもしれないけどな」
そう言う比良沢兄だったが俺はその隣にいる双子の妹を見ていた。
稀沙奈は苦しそうにしながらも目で訴えてきた。
(どうして来たの?)
そう言っている気がした。
稀沙奈、確かにこういうのはお前がいつもどうにかしてきた。
今回だって、俺がいなくてもどうにかできるだろ・・・・・でもな
こいつ等はやってはいけないことをした。
だから・・・・・俺が片付ける
「・・・・お前等は三つの罪を犯した」
「あ?」
比良沢兄を除く暴走族のメンバー達がゆっくりと近づいてくる。
だが、怖くは無い
いや、怖がる必要なんか無い
こんな・・・・クズ共を
「一つ目」
そう言うと同時に一番近い男との距離を一瞬で詰め、頭を掴んで地面に叩きつける。
無表情で一度だけでなく何度も何度も・・・
「お前等は俺の普通を壊した」
頭の半分が地面に埋まり、完全に気を失っている男の頭を離し、ゆっくりと他のメンバーを見渡す
その全員が唖然として動かない
その中で俺は続きを始める。
「二つ目」
残りのメンバーの真ん中へ移動し、近くに停めてあった一台のバイクを・・・片手で持ち上げた。
そして、まだ反応できていない男達へバイクを無表情のまま振り回す
かなりの重量があるはずだが軽がると振り回している。
「お前は兄貴としてやってはいけないことをやった」
手に持ったバイクを無造作に投げ捨て、比良沢兄を指差して言う
周りにいた男達は一人残らず倒れたまま動かない
「な、何なんだよ!お前は!」
「・・・・・あんた・・・勘違いしてたでしょ・・・・」
「か、勘違い?」
比良沢兄は隣の稀沙奈の方へと目を向ける
「・・・・そう・・・お兄ちゃんは・・・普通の高校生・・・・ただ・・・お兄ちゃんの普通が・・・私たちにとって・・・・普通じゃないだけ」
苦しそうにしながらも笑みを浮かべる稀沙奈
「な、なんだよそれ!・・・聞いてない・・聞いてないぞ!あの人はそんなこと教えてくれなかった!」
「・・・・三つ目」
「ひぃっ!」
一歩また一歩
確実に近づいてくる脅威から逃げようとする姿からは先ほどの余裕は感じられない
それどころか哀れにすら思える。
「お前は・・・・稀沙奈の笑顔を一瞬でも無くした」
怒りも憎しみも感じられない無表情
だからこそ不気味に見える
「お、俺だってな!妹のことを思ってるんだよ!あいつにお前みたいなシスコン野郎は似合わねぇんだよ!」
「シスコンじゃねぇよ」
別に俺は稀沙奈が大事なわけじゃない
確かに稀沙奈はたった一人の家族だ。
俺たちの両親は死んでいる
そのことを理解しても特に悲しくなんか無かった。
だけど、その日から俺たちには一つの約束が出来た。
稀沙奈はいつも明るくみんなを笑顔にする。
俺は悲しい顔をしないで絶対に泣かない
その約束はどんなときでも何があっても破ってはいけない約束だった。
それなのに・・・・
「俺は約束を守りたいだけだ」
「わ、訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!!」
体を震わせて、完全に怯えたままで殴りかかってきた比良沢兄
だが、冷静でない一撃があたるはずもなく、拳を受け止める。
「だからさ・・・・・人の妹・・・・泣かすなよ」
そう言って比良沢兄の顔面に拳を叩き込んだ。
表に出さない怒りをこめて
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