ウサピエンス
「二〇二〇年のコロナウイルス蔓延による緊急事態宣言の発令から約十五年。外出がままならなくなった現在では政府指導のAIマイクロチップ『クロワチウム』の開発が成功し、多くの機械に組み込まれるようになりました。これにより、外出せずともクロワチウム入りのドローンが荷物を届けてくれたり、皆様の部屋にあるクロワチウム入りの空気清浄機により、今どれくらいの汚染状況なのかを瞬時の把握し、速やかに部屋の空気を綺麗にできたりするようになりました。」
ニュース番組ではコロナウイルスとクロワチウムが毎日報道されている。肇はテレビからの音と映像を垂れ流しにしたまま作業に没頭している。肇の目の前にはウサギ型のロボットがある。これは肇が作った「母」だ。肇は母と全く同じロボットを作ろうとしている。作業を始めてから五年間肇は様々な実験をした。母の好きなマリーゴールドでロボットを囲んだり、母がいつも聴いていたガーシュインを聴かせたり、ロボット研究家が聞いたら少々笑われるようなことをしてきた。それでも肇は必死だった。母に会えるならどんなことでもした。
そんな毎日が続いたある日、肇の部屋に一台のドローンが窓から突っ込んできた。肇は素っ頓狂な声を出した。どうやら故障でふらつき、この部屋に墜落したみたいだ。肇は怖いもの見たさで近づいた。点滅する電灯で目がチカチカする。そして肇は一つの考えが浮かんだ。このドローンを解体してロボットの部品にしてしまおうと思った。早速ドライバーを取り出しネジを外し出した。中には沢山の目を惹く回路達で溢れていた。その中に例の『クロワチウム』もあった。これも入れたらきっと高性能になると思った肇はウサギ型のロボットへ駆け寄り、ドローンからとった部品を組み込んだ。最後にクロワチウムを入れると今まで何も反応がなかったロボットが瞬きを始めた。その途端ロボットはウサギのように部屋中を跳ね回り遂には窓から飛び出してしまった。もはやウサギだ。肇は急いで部屋を駆け出し、ウサギを追いかけた。閑散とした街の中を大きな足音を立ててマスクも無しに走り回った。
そして肇はその勢いに負けて転げてしまった。擦り傷だらけで涙目になっているその目の前には先ほどのウサギがいる。驚いたことにそのウサギは一本の綺麗なマリーゴールドを咥えて首を傾げていた。
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