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不可逆

作者: マーク
掲載日:2026/03/09

『できました!』


もう戻らないもの。


その美しさを、僕らは理解している。


『出来た?』


そういいながら、私はそのキャンバスを覗き込んだ。


『…なにこれ』


『せんせい!』


『…?』


笑顔で固まってしまった。

どう見ても、私とは思えない。


『私を、書いてくれたんだね?』


『そう。似てるでしょ』


『うーん。ちょっと違うかもしれない』


『えー?』


『そうだなぁ、まず——』


優しく、教えた。

彼女が、そのキャンバスに出るように。




『へー!先生すごい!』


『先生だからね。すごいよ?』


『…このせんせい、どうしよ』


完成したキャンバスを見ながら、言った。


『これはこれで、いい作品だよ。君が完成させた、素晴らしい作品だ。だから、大事にしまっておこう』


『はーい』


そういって、乾かすために、キャンバスを移動させた。


『今日は、もう終わりにしようか?』


『いや、まだやる』


『分かった。ちょっと用事があるから、なにかあったから連絡してね』


『はーい』


そんな風に、過ごしていた。



それから彼女の絵は、とても良くなっていった。

誰から見ても、上手いと言われるぐらいに。


『見て、先生』


『出来た?』


そういいながら、私はそのキャンバスを覗き込んだ。


『わぁ。私だ』


少し見れば、私だと分かるようになっていた。

ちょっとイケメン過ぎるけど。


『…上手になったねぇ』


『でしょ?』


得意気に胸を張る。


『先生のおかげ』


『そういってもらえると、嬉しいよ。もちろん、君が頑張ったからだけどね』


『うんん。先生じゃなきゃ、途中で諦めてたよ』


『そうかな』



それから、彼女は死んだ。


交通事故だった。


その時私がどう思ったかは、覚えていない。


でも、彼女の作品を、誰かに見てほしい。

そう思ったのを、覚えている。


だから、絵を展示させてくれ。というお願いが来たとき、迷わず許諾したんだ。


それが間違いだった。


展示が始まってすぐ、あの絵の前に、人が集まった。


最初は、ただの偶然だと思った。


でも、いくら時間が経っても、そこには人がいた。


彼女が最後に書いた、彼女が、一番良くできたと言っていた絵の前には、誰もいないというのに。


私は、人の隙間から、その絵を見た。


最初に描いた、私の絵。


歪んだ線。


妙な色。


おかしな関節。


どう見ても、未熟な絵だ。


『すごいですね』


誰かが言った。


『自分が事故で失くなることを、予想していたかのようだ』


その言葉を聞いたとき。


私は、理解したんだ。


『芸術の価値など、こんなものなのか』


いつの間にか、声に出ていた。

無感情な声で。


怒りすら沸かなかった。


「似てるでしょ」


『似てないね。ほんとに』


それから私は、すぐに展示をやめさせた。


自らの過ちを責めた。


それで。


彼女の作品を、いつも絵を描いていた部屋に、全部移したんだ。


それで。


その前で。


いつの間にか、僕は泣いていた。


『綺麗だよ、本当に。素晴らしい作品ばかりだよ』


そのままずっと、褒めていた。


『君が生きているうちに。言いたかった』


芸術の価値なんか、どうでもいいよ。


『君が楽しかったなら、それでいいよ』


僕は、涙を流しながら。


彼女を描いた。


ぐちゃぐちゃで、彼女の絵に、よく似ていた。


『ははっ。確かに、意味を考えてしまうね』




もう戻らないもの。


その美しさを、僕らは理解している。




難しいことはわかんないけど。

楽しく書こう。


お疲れ様、ゆっくり休んでね。

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