#2
『宙。商品カテゴリのクソみたいなアイコン昼までに必ず直せ。背景と同化して見にくいんだよ、目が悪いなら眼科行って眼鏡買ってこい』
「ただ今修正します」
宙はモニターを見ながら、もうひとつ置いてるタブレットに視線を移す。晴れた日の午前、紫信とビデオ通話をしながら指摘された箇所を修正した。
「これはどうです?」
『そうだな……。うん、少しマシになった』
「境界線入れます?」
『任せる』
仕事も少しずつ慣れてきた。最初は前任者の引き継ぎをするので精一杯だったけど、今では一人でこなしている。
まぁ叔父さんはすごく指示してくる人だけど……。
子どもの時からそれなりにシバかれていたので、他の社員に比べると耐性ができている。バイト時代、レジのお金が合わなかった時はマジで飛び降りたいぐらい説教された。というか、普通に泣いた。
『そういや、この前はありがとな。店の方にもヘルプに入ってくれると急な欠員が出た時に助かる』
「いえいえ。晴れてる日で良かったです」
この間はバイトの子が熱を出して来れない状態だった。連絡を聞いて、自分からヘルプに志願したのだ。
久しぶりの接客は緊張したし、思い通りに動けなかったけど、改めて勉強になったと思う。
『お前バイトの子達に人気みたいだぞ。また是非来てほしいと』
「え、ほんとですか? 良かったぁ、優しくて爽やかなお兄さんに見えたかな」
『相変わらず演技の才覚だけはあるな。そうやって透夜君のことも落としたのか』
「人聞きが悪い。透夜は……え? とっ……何ですか!?」
椅子から飛び退き、タブレットを持ち上げる。聞き間違いだと思いたかったが、叔父さんは至極落ち着いた様子で頬杖をついた。
『透夜君と同居してるらしいな。ったく、あんまりウブな青年を誑かすなよ。まぁお前もウブだけど』
驚いて二の句が継げない。同居ともなると、カマをかけてるわけじゃなさそうだ。
案の定、叔父は含みのある笑いを浮かべた。
『彼から直接聞いたぞ。この間久しぶりに店にやって来てな。照れながら話してくれた』
透夜お前……。
いくら俺の上司で身内だからって、迂闊にペラペラ話すんじゃない。人によっては妙な詮索をしてくることもあるんだから。
密かに思案していると、叔父は仕事を始め出した。
『お前、透夜君のこと好きだろ』
「はいっ!? 何の話ですか!?」
好き?
驚き過ぎて声が裏返ってしまった。一体どういう意味だろう。嫌な汗を滝のように流しながら待っていると、叔父は眉ひとつ動かさず、指をくるくると回した。
『付き合ってないのか? 俺はてっきり付き合ってるもんだと思ったんだが』
……。
深呼吸して、静かに椅子に座った。
「えーと、最近そういうジョークが流行ってるんですか?」
『そんなわけあるか。お前ら昔は互いに好き好きオーラ飛ばしまくってたくせに……大人になってウブ度増すとか、焦れったいにも程があるぞ』
野次馬もしたくなるわな、と彼はキーを叩いた。
「透夜はともかく、お、俺がゲイだとして……叔父さんは平気なんですか?」
『海外の友人はゲイが多いからな。同性愛に偏見はない』
「そう……ですか」
俺自身、自分がゲイだと認識したのは大人になってからだ。女性が、というより、人に対して興味や希望を持てない性質なのかと思っていた。
でもトラウマを抱える前は同じクラスの男子を意識することがあったし、やはり同性愛者なのだろう。誰にも打ち明けずにここまで来たけど、叔父にはバレていたみたいだ。
『こちとらお前のおしめを変えたこともあるんだぞ? 余計な世話も焼きたくなるだろ』
「……気持ちは有り難いですけど、俺はもう大人ですよ。一体いつの話をしてるんですか」
『ははっ、どうだかな』
画面を介して、互いに想いをぶつけ合っている。
『俺ももういいが、お前は独り身を貫くんじゃないかとヒヤヒヤしててな。でもやっと、お前を真っ正面から見てくれる子が現れたんだ。俺が唯一の理解者になったって良いだろ?』
叔父の台詞には、いくつかの背景が感じ取られた。
すなわち彼の他に俺の味方はいない、と暗に言っている。
タブレットを台に乗せ、画面を見据えた。
「あの人達に言うつもりですか」
『安心しろ。会う予定もない』
母の弟である紫信は、その実姉と仲が良くない。それなのに甥である自分のことを気にかけてくれている為、確かに一番の理解者であり、恩人だ。
『他人は他人だ。周りを気にしてたら気付いた時にはジジイになってるぞ。……それを言いたくてな』
「つまり……?」
『結婚は早い方が良い。やるなら呼んでくれ。休みが取れたら海外も行くから』
隕石落下。
全てが吹き飛ぶ情景を頭に思い浮かべながら、通話を切った。
結婚式に呼んでほしいということを言う為に俺にアウティングさせようとしたのか?
分からない。そもそも叔父の思考を理解しようという方が無理だ。モテるだろうに独身を貫いてるし、仕事は好きそうだけどフラッと長期旅行に行ったりするし。
あと日本で結婚がまだ認められてないからって、さらっと海外を勧めてたな。
椅子に深くもたれ、天井を見上げる。
「結婚……」
額を押さえ、独白する。
自分とは縁がないと思っていたから、遠い星の言語に聞こえる。
それにしても恥ずかしい。四年前の俺も、透夜に対してメロメロに見えていたんだろうか。
叔父さんは目敏いから仕方ないとして、当時のバイト仲間にもバレてたなら相当やばい。営業スマイルもかたいと言われていた俺だから、透夜が店に来た時はかなりデレデレしていた可能性がある。
ああ~……時間巻き戻してやり直したい。
とりあえず叔父に警戒しろ、と言いたいところだったけど、結局その日は透夜が帰ってきても何も言えなかった。
クールだ。クールに振る舞え、俺。透夜に会う前なら普通にできてたことなんだから。




