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欠けるほど、光る  作者: 七賀ごふん
七石

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21/21

#3




「おはようございます! 今日は良い天気ですね」

「えぇ、ようやく梅雨明けですね」


忙しなく人が行き交う駅を抜け、落ち着いた小路の店に入る。


どれだけ月日が経ってもこの辺りは変わらない。やってくるお客さんは限られて、すぐ顔馴染みになる。


こじんまりとして華美ではないけど、人との距離が近く感じられる。


「いやぁ、本当に梅雨が終わって良かった。こうして戸波さんが来てくれるから」

「あはは……ほんとに、いつもお世話かけます」


叔父が経営するアクセサリーショップに再就職して二年が経った。宙は今も、時折現場に入って仕事を手伝っている。

若い女性スタッフはエプロンをつけ、思い出したように手を叩いた。

「あ! 私今日用事で早退するので……戸波さん、すみませんが閉店作業もお願いします」

「かしこまりました」

人は疎ら。今日も暖かく、ゆるやかな時間が流れる。夜になり、灯りをつける。ただでさえ閑寂な通りも音がやみ、すっかり一日の終わりを醸し出していた。


「ふぅ。レジ締めするか」


もう来客の気配はない。デスクの方へ向かおうとしたが、ベルの音が鳴り、ドアが開いた。

おっと。

踵を返して売り場に戻る。そこにはひとりの青年がいた。


「こんばんは。もう終わりですか?」

「……あぁ。後五分で」


エプロンを外し、腕に持ってからゆっくり傍へ向かう。そして悪戯っぽく微笑んだ。


「なにかお探しですか、旦那様」

「あはは! 良いですね、その呼び方」


彼は鞄を肩に掛け直すと、唇が当たりそうなほどの距離で囁いた。

「待ちきれなくて迎えに来ちゃいました。宙さん」

「あ……後ちょっとで終わるから」

閉店間際の来訪者は自分の恋人、透夜だった。誰もいないのを良いことに、露骨にべたべた擦り寄ってくる。

そんな彼を制し、宙は手早く仕事を終わらせた。


「お待たせしました。さ、早く出るぞ」

「何かご機嫌ななめです? 宙さん。職場に来たの嫌でした?」

「そ、そうじゃない。ただ待たせることになっちゃうだろ」


明かりを全て消し、二人で店を出た。戸締り確認し、宙は気まずそうに振り返る。


「何もないとこで待たせるのが申し訳なくて。どこかで休んでくれてれば、俺から迎えに行ったのに」

「そんなの大丈夫ですよ。俺は待つのも好きだし。ここは宙さんと初めて会えた特別な場所だから、……本当は毎日だって来たいぐらいだ」


透夜は嬉しそうに手を握ってきた。


「あと仕事頑張ってる宙さんを見ると元気出るるし! あ、でも俺みたいにひとりの男の子が来ても、誘惑しないでくださいね」

「一度も誘惑したことはないよっ」


肘で突いて反論すると、彼は楽しそうに笑った。その顔を見るだけで嬉しくてしょうがないんだから、俺も大概だ。


何年経とうと雨の日は憂鬱だけど、今は怖くない。

雨が降っていても、彼の隣にはいつも七色の橋が架かっている。


彼が隣にいる、この範囲だけはいつも晴れてるから。


「透夜」


何年経っても、この想いが霞むことはない。


「会いに来てくれてありがとな」

「ええと……それは、新卒のときの話ですか? それとも今日の?」

「全部だよ、全部」


月の光に照らされる石畳の道を歩く。以前なら気になって仕方なかった人の目も、もうまるで気にしなくなった。

そう変えてくれたのは、他でもない彼だ。

彼は不思議そうに首を傾げたが、ゆっくり俺の手を引いて引き寄せた。その薬指には、俺と同じシルバーリングが嵌められている。

遠い昔彼に渡した、琥珀色の石を中心に輝かせて。


「改まって言われると、嬉しいより恥ずかしいが勝りますね」

「お~、いいぞ。たまにはお前が照れろ」

「もう……時々意地悪なんだから」


そんなところも好きだけど、と言って、遠夜は宙の唇を掠めとった。


「さ。これからどこに行きます?」

「おまっ……外で……!」

「まあまあ。ご飯でも良いし、映画でもいいし、ナイトイベントでもいいですよ。なんせ今日は恋人三年目の記念日ですから」


どこかが足りなくても、ひとは補って生きていく力を持っている。

宙は密かに笑って、透夜の手を握った。


ずっと想い続けてくれたひとがいる。どんなに冷たい水たまりに足を入れてしまっても、すぐに引き上げてくれる人が。


「宙さん、どこがいい?」


綺麗な球体じゃなくてもいい。

石は欠けるほどに反射し、光り輝く。


「~~……っ。どこにでも行くよ」


幸せにする自信なんてなくてもいい。一緒に生きると決めたら、それだけで充分だから。


そう教えてくれた彼の為に、俺はどれだけフラついたとしても前へ進もう。

自ら彼の胸に飛び込むと、彼は泣きそうな顔で笑った。





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