#2
心ない言葉と石は同一だと思う。
人の心が家だとして、悪意ある人間はその家の窓に石を投げる。割れた破片を片付けるときは手を切る危険があって、新しい窓を取り付けるには労力がいる。
普段は足元に転がっていて、その存在に気付きもしないのに。拾った相手によって凶器に変わる。
かと思えば、汚れて蹴飛ばされるもの、高い値がついて飾られるものもあったり。そういう格差のある部分は人と似ている。
この世には守られる人と、守られない人がいるから。
出会ったばかりの頃……乳白色の石を店のペンダントライトに透かして言うと、宙さんは露骨に驚いていた。
「透夜くんって意外とシリアスなこと言うよね。何でもポジティブに捉えてると思ってた」
「元はネガティブですよ。それを上手く隠してるだけです」
同級生からはやっかみされ、父は体の弱い母を残していなくなった。
正直言って、川の中に沈んでる石ころみたいな人生だ。何の価値もない、人目にも触れられないような……。
彼の隣に並んで石を眺める。店内には透夜以外客はおらず、スタッフも宙さんひとりだった。束の間の二人だけの空間が最高に心地よく、また、誇らしい。
女性向けのショップを貸し切ることの何が誇らしいのか自分でも謎だが、その理由は話してるうちに段々分かってきた。
「攻撃されたら戸惑うし、味方が誰もいない時は目の前が真っ暗になるけど。他人を攻撃する人はどこに行っても一人はいる」
だから自己防衛しないとね、と宙さんは腰に手を当てた。
「石は凶器じゃない。守られる存在でもない。石そのものが御守りとなって、俺達を悪い人から守ってくれる」
エプロンのポケットからキャンディを取り出し、宙さんは俺の口にハイ、と入れた。
「ま、気の持ちようって言われたら何も返せないんだけどね。そんな時はいつでもここにおいで」
舌を動かすと石のようにカラカラ音が鳴って、ちょっと恥ずかしい。
喋れない俺の頭を優しく撫で、彼は微笑んだ。
「大丈夫だよ。俺はずっと透夜くんの味方だから」
「……っ」
喉が鳴る。
なにか言わなきゃ、と思ったときには、彼は踵を返してレジへ戻ってしまった。
舞い上がる塵がライトに照らされ、彼が歩いた跡が光の道のように伸びている。
「……」
理由は分からないけど、手が少し小刻みに震えている。落としたらまずいと思い、石をトレイに置いた。
けど今度は胸が熱くなった。鼓動は速まり、苦しいほど脈を打つ。
苦しい。
知らなかった。……人を好きになるって、息が苦しいものなのか。
火照った顔のまま、胸を押さえる。仕事に戻った彼の、綺麗な横顔を見つめた。
数日、いや数週間経てばこんな症状は治まると思っていた。
けど数ヶ月、数年経っても一向に良くならなくて、むしろ激しくなっていく。
会いたいが爆発して、自分ではコントロールできないところまできていた。四年間耐えたことは死ぬまで誇りたいし、なんなら墓石にも刻みたい。
なんて言ったら、あのひとは怒りながら照れそうだ。
実は誰よりも優しいのに、傷つきやすいのに、誰かを傷つけてしまうかもと常に怯えている。
なら、俺が彼の御守りになる。何年経とうと、突き放されようと、必ず傍にいると誓おう。
世界で一番愛しい、俺の陽だまりに。




