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欠けるほど、光る  作者: 七賀ごふん
七石

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19/21

#1



目元を指で優しくなぞられる。

不思議に思って顔を上げた時、一筋の雫が伝った。


「……っ」


俺、泣いてる?

まさかと思って自分の頬に触れると、確かに涙でぬれていた。


「貴方は俺の為に、自分の気持ちを殺してるようにしか見えないんです」


だけど、それが一番つらい。透夜は引き攣った笑顔を浮かべた。


「世間体とか将来のこととか、俺が幸せになれるよう考えてくれてるのはすごく嬉しいです。でもその未来に宙さんがいないなら、俺が望んだ世界じゃない。……俺は貴方と一緒に生きることを夢見ていたんだから」

「透夜……」


こんな、何でもない日に聞いていいプロポーズじゃないのかもしれない。

どう反応したらいいか分からず目を泳がせていると、透夜は突然頬を赤らめ、俺の両手をとった。


「それに言わせていただくと、宙さんはご自分が思ってるより俺のことを好きだと思います」

「は!?」


思わぬ流れに、つい声を荒らげてしまった。

だって普通に恥ずかしい。俺が本当は、透夜のことが好きで好きでたまらない、とでも言うような。

いや……実際、そうなんだけど。認めちゃいけない。


「いい加減認めてください。でないと、好きでもない男を自分の家に住まわせる小悪魔になりますよ?」

「おい、言い方……。その提案をした時は、可愛い弟と思ってたから……」

「これだけ俺が、貴方を恋愛対象として好きと言ってるのに? そこまで警戒心ないんですか?」

「……っ!」


痛いところを突かれてるけど、全て彼の言う通りだ。

強引な人間なら襲ってきたっておかしくないだろう。


「透夜は、そんなことしないって信じてるから」

「信じないでください。宙さんはあまり意識してないみたいだけど、俺はもう何も知らない高校生じゃない。大人の男ですよ」


そんな風に言われると、急に不安や恐怖が顔を出す。

彼の言ってることは当たり前だ。歳月で人は変わる。高校生だった頃の彼はもういない。


でも、それでも俺は……。


「一緒だよ。四年前からずっと変わらない……俺の大好きな透夜だ」


大粒の涙が溢れる。

それは堰を切ったように零れ落ち、膝をぬらした。


透夜が大好きな気持ちも、押し留めることなんて不可能なんだ。


鬱陶しい前髪を払って嗚咽すると、彼は少し恥ずかしそうに頷いた。


「やっと聞けた」


ちょっとムッとしたけど、透夜は心底嬉しそうに俺の顔を引き寄せ、唇を塞いできた。


「貴方もずっと変わらない。本当に可愛いひと」

「可愛くない」

「可愛いです。もちもちだし」


頬を優しくつねられる。

歳上としてこういうところが少し不満で、だけどやっぱり、嬉しいと思ってしまった。


関わり方はあまり変わらないけど、関係性は音を立てて変わったのだ。


「宙さん、俺と付き合ってください。人生のパートナーとして」


俺達はこれから、どんな空模様でも二人並んで見上げることになる。


それは小さな光の粒と同じ。目に見えないほど極微で、それだけに手に入れるのに苦難する、尊い奇跡だ。


「……あぁ」


“幸せ”と言い換えて良いんだろう。

差し出された手を取り、その手にそっと口付けした。


「ずっと待ってくれてありがとう。改めて、これからよろしく」





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