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欠けるほど、光る  作者: 七賀ごふん
五石

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13/21

#1



非常に不義理で、狡いことをしている。

自分に好意を持っている青年に同居を持ち掛け、且つ彼が自分の為に就職先を決めたことを知りながら、いつも通り振舞っている。


最低だ。


完全無欠な青年が俺なんかを好きということ自体、まずおかしいのだけど。一番まずいのは、なあなあにして逃げている俺自身だろう。


多分、不安なんだ。息が苦しくなる一番の原因は、俺は彼に何も返せない。……どころか、むしろ負荷をかける存在するだと確信してしまっているから。


嬉しいけど、それと同等の錘に押し潰されそうになる。


一緒にいちゃいけない。雨の日に動けない俺なんかが……。




「戸波さん、こんにちは♪」

「あ。お疲れ様です、三澄さん」

二週間ぶりのヘルプ日、品出しをしていると笑顔の三澄さんが現れた。必要な資料を受け取り、店長を呼ぶ為裏へ行こうとしたが、

「今日は戸波さんが出勤してると聞いて、急いで伺ったんですよ」

「え。ええと、どちらから……?」

「戸波紫信さんです。紫信さんの甥っ子さんだったんですね」

うっ……!

ここで働いてる人にはバレて当然だけど、外部の人に知られると改めて申し訳なくなる。封筒を胸の前に持ち、苦笑しながら頷いた。


「はい。実は俺、持病がありまして……。以前の仕事を辞めた時に、ここを紹介していただいたんです」

「良いじゃありませんか。でも戸波さんが二人いることになるので……俺も、宙さんとお呼びしてもいいですか?」


幸い、仕事に関する話題はスライドされた。わざとなのかもしれないけど、有り難く受け取る。

「えぇ、もちろん」

「それは嬉しい。宙さんには滅多にお会いできないので、会えた時は良いことが起きる、っていいきかせてるんです」

「ふえぇ……」

なんて乙女思考だ。透夜並に毎日輝いてそう。

やっぱり生きる世界が違うよな、とビビりつつ、「俺なんかに福があると良いんですけど」、と返した。


「三澄さん、いつもバイトの子ともお話されてるんですか?」

「はい。売れ筋は記録を見れば分かりますけど、まだ出回ってない希望の品は現場の方の声を聞くのが一番なので」


彼は黒のブリーフケースを脇に寄せ、並べられた石を覗き込んだ。

「宙さんも、お客様のこんなものがあれば良いのに、って声があったら教えてくださいね」

「は、はい!」

運営に回る者としても、日々流行やトレンドには敏感でいないといけない。受動的な姿勢など有り得ないのだ。

改めて肝に銘じていると、彼はまた石を熱心に眺めていることに気が付いた。


「三澄さんもなにかお探しですか?」

「えぇ、でも俺じゃなくて……年の離れた妹が来年受験なんです。御守り代わりになにか良い物がないかと思いまして」

「そうでしたか」


受験なら、精神を安定させる効果を持つ石なら何でも良いと思う。でも数が多いし選ぶのは大変だ。

ふと思い当たるものがあることに気付き、トレイに乗せた薄青の石を持っていった。

「三澄さん。これはブルーレース。和名で空色縞瑪瑙といいます」

「わ、色も名前も綺麗ですね」

彼は少し屈むと、興味深そうに顎に手を添えた。


「ブルーレースは知性と芸術性を高め、気持ちが落ちてる時にプラス思考にしてくれる作用があります。でもそれだけじゃなくて、強い忍耐力を与えてくれることから受験のお守り石として人気があるんですよ。こんな石もあると、参考までに」

「忍耐力……」


三澄さんは一考した後、深く頷いた。

「なにぶん飽き性な子なので、ぴったりだと思います。この石、ひとつ頂けますか。あ、できれば持ち歩ける小袋も」

「かしこまりました。緑色のポーチはいかがですか? 理解力を上げたい時や、精神的疲労をとるのに向いてるんです」

「ポーチの色にも意味があるんですねぇ。じゃあそれでお願いします」

ギフト用に包み、リボンで留める。彼に手渡し、笑いかけた。


「妹さん想いの良いお兄さんですね」

「いやいや、俺はずっと昔に家を出たし、全く交流はしてませんよ。知ってるのは、泣き虫でひっつき虫だった頃の妹だけです」


小包を大事そうに鞄に仕舞い、三澄さんはひと息ついた。

「俺は兄妹がいないので上手く言えないんですけど、妹さんは絶対喜んでくれますよ。三澄さんみたいに素敵なお兄さんがいたら、誇らしいと思います」

「……宙さんはナチュラルに褒めちぎってくださる」

彼は少し照れくさそうに笑った。本音だったんだけど、褒め過ぎてわざとらしいと思われてしまっただろうか。


「す、すみません。余計なことをベラベラ喋ってしまって……!」


慌てて頭を下げると、不意に肩を掴まれ、優しく前髪をなぞられた。

「全然。とても嬉しかったですよ」

……っ。

思わず目を見張ってしまいそうなほど、綺麗な笑みだった。


何ドキッとしてんだ、俺。


「またお伺いします。霜沢さんにも宜しくお伝えください」

「あっ、お呼びしなくて大丈夫ですか?」

「ええ。今日はただのご挨拶のつもりなので」


彼は切れ長の瞳をさらに細め、店を出ていった。

何だろう。何か変な感じ。

肌が粟立つような感覚。誰かといる時にこんた風に感じたのは、透夜以外初めてだ。


どこか不思議な人。三澄さんは、それから俺のヘルプの日によく訪れるようになった。もちろん業務中の為仕事の話がメインだが、世間話やプライベートの話も挟むほどに。


「宙さんは一人暮らしなんですか?」

「あ、そうだったんですけど……今はその、後輩の男の子と一緒に住んでます」


お互い独身ということもあり、自然と話も合う。彼は聞き上手でもあるから、こちらもついつい話し過ぎてしまうことがあった。

まずい。マジでこんなに喋ったの、透夜以外じゃ久しぶりだ。


何がまずいのか自分でもよく分からないけど。

三澄さんとはもっとたくさん話もしたい。ただ、そうすると何故かこれから帰ってくる透夜のことが思い浮かぶ。

今夜は何を作ろうかな。肉系が良いか、それとも魚か……時間があったら連絡して訊いてやりたい。


自分が思ってるより、透夜は俺の生活の一部となってるんだ。




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