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欠けるほど、光る  作者: 七賀ごふん
四石

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11/21

#2



大橋を抜けると、煌びやかな工場地帯が見えた。時間が遅いから道も空いていて、ドライブを楽しむには打ってつけだ。

透夜を助手席に乗せて、白のシャトルで高速を走る。

ひとりだとあまり走る気しないのに、不思議なもんだ。

深夜二時。

全てが寝静まっている。この車内は、俺と彼だけの世界。


「透夜。眠かったら寝ていいからな」

「ありがとうございます。でも全然、もっと眠気覚めました」

「そっか。連れ出しておいてごめんな。明日は一日爆睡しそうだな」

「良いですって。一緒のベッドで寝ましょ」

「狭いから断る」


海沿いのサービスエリアに入り、車を停める。透夜はお疲れ様です、とにこやかに言った。

「走りやすそうで良い車ですね」

「あぁ。中古だけど気に入ってる。でももう手放そうと思うんだ。収入も減ったし、節制していかないと」

暖かいものが売ってる自販機でミルクティーを二つ書い、透夜に手渡した。

「コーヒーは眠れなくなるからな」

「ふふ、そうですね」

解放されている二階のテラスへ生き、真っ暗な港湾を眺めた。人は自分達以外に誰もいない為、貸切状態。風の音しか聞こえない場所で、海の向こうに灯る光が印象的だった。


「宙さん、いつも悪夢を見てるんですか?」


壊れやすい宝石を取り出すように……周りの静寂を破らない声量で、透夜は問いかけた。

「たまーに、な。いつもじゃないんだけど、うるさくしてごめん」

「そんなのは大丈夫です。そうではなくて、……景さんが辛い想いをしてることが、辛い」

彼は俯き、張り裂けそうな声で零した。前髪のせいで表情は窺えないが、まるで泣いてるようだった。


俺のことなのに、自分のことみたいに痛みを感じている。


「お前って本当……」

「?」

「いや、何でもない」


ミルクティーを飲み切り、ゴミ箱に捨てる。

春も終わりだけど、夜中はそれなりに冷えるな。

透夜の手を握ると、案の定とても冷たかった。


「そ、宙さん?」

「温めてやるよ」


俺は基礎体温が高い方だ。そう思って彼の手を強く握り締めたのだけど、何故か透夜の顔は真っ赤になった。

「今日は珍しく、宙さんの方が積極的ですね」

「何、何の話?」

「あ、分かんないならいいです」

「何だよ! 気になるだろ!」

歳上の威厳がないのも問題だ。適当に流されたことに抗議したが、透夜の横顔が嬉しそうに映った為口を噤んだ。


さっきよりずっと良い顔してる。

ホッとして、さらに手に力が入った。


「貴方が大人だってことは、重々承知してます。でも可愛い」

「可愛い、って言ってる時点でちょっと違うんだよな……」

「しょうがないじゃないですか。俺より背も小さいし」


身長で決められたらたまったもんじゃない。頭を撫でられたが、空いてる手で払い落とした。

「ははっ。……ごめんなさい、機嫌直してください」

「お前なー……」

大人げないし、そう言われたら直すしかない。頬を膨らまして肩を寄せた。


「それじゃあ、お前も。夜中に起こしたこと、許してくれ」

「だから、そんなの怒るわけないじゃないですか。こうしてドライブもしてくれたのに。宙さんは気を遣い過ぎです」


透夜は振り返り、空いてる方の手も握ってきた。


「貴方をそうさせる雨が、時々すごく嫌いです」

「お前……」


そんなことを言うとは思わなくて、驚いてしまった。

俺は雨が嫌いだけど、雨に負けるような自分の方がよっぽど嫌いだ。雨は人が生きるためには必要な天候だし、俺が特殊なのだから。


動けない時は卑屈になるけど、本当は雨のせいにしたくないんだ。


「毎日晴れの日ならいいのに……どんなに願っても、これだけは叶わない」


項垂れる透夜を見て、途端に胸の中が熱くなった。

今までこんな風に、俺の為に怒り、悲しんでくれる人はいなかった。

両親は早い段階で俺を諦めていたし、俺自身が人生を諦めていた。それなのに。


「……大丈夫だよ」


透夜の頬に手を当てる。自分からはあまり触れたことがないから、新鮮な感覚だった。

彼が生きてる。今ここにいる、と自覚できる温もりに、何故か泣きそうになった。


「天気が悪くっても、今は毎日心が晴れてる」


透夜が会いに来てくれたから。

「一緒にいるだけで、すげー暖かいよ」

彼が太陽だ。空がどれだけ荒れていても、俺は陽だまりの中にいる。


「本当に?」

「本当。ほら」


さらに肩を寄せ合うと、透夜はなにかをぐっと堪えて、カップを柵に置いた。


「暖かい、です」

「だろー?」


やたら距離を詰めてしまうから、俺も舞い上がってるのかもしれない。

でもこんなに心地良い場所は、世界中探しても他にないだろう。


「……確かに、晴れてますね」


宵闇の空。星が一番輝く時刻に、彼は呟いた。

彼が何故そう言ったのかは分からないけど……叶うならまた、こうして一緒に星を見たいと思った。




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