沈黙の狭間で
しばらくの沈黙の後。
ロイドが何かを言おうとして口を開く。
体が強張り、言葉はそのまま空気に溶けてしまったかのように、口を閉じる。
ユキは、その一瞬だけは沈黙に耐えられなかった。
ロイドの言葉を聞いてはいけない気がして、
胸がぎゅっと締めつけられる。
思わず、言葉が洪水のように溢れ出した。
「今日は、夕食を少し多めに作ってきたんですよ。
ロイドさんがそろそろ帰ってくる気がしてたんです」
手元の裾をぎゅっと握る指先も、心臓の鼓動に合わせて小さく震えていた。
無意識に、自分を支えるように。
「…だから早く帰りましょう。
今日は雨もやまなそうですし、タクシーとか呼びますか?それとも少し歩きますか?
近くのコンビニで良ければ傘を買いに行ってきますよ?」
声は途切れ途切れ。
言い終えた瞬間、ユキは自分の声の軽さに少し驚き、思わず息を吸い直す。
その間、ロイドはじっと肩越しに立ち尽くし、視線を合わせようとしない。
濡れた髪の先から滴が落ち、足元の床に小さな波紋を作る。
ユキがスマホを取り出そうとした瞬間、
ロイドがそっと手を伸ばし、彼女の手を掴んだ。
その手は、抑えきれない感情を隠すかのように、かすかに震えていた。
「…ユキ…確かめさせてほしい。
俺たちが、兄妹なのかどうかを…」
その声は、低く震えて、吐き出すように消えた。
意味を考える前に、体が拒んだ。
その瞬間、いままで積み重ねてきたものが、
すべて別の形に変わってしまうと理解した。
ユキは言葉を失い、喉が詰まる。
兄妹――
その二文字が頭の中で何度も反響し、胸の奥で痛みを生む。
否定したい、冗談にしたい、でも声は出せない。
どれもできない。
ロイドの手の震えはまだ残っている。
答えを求める震えではない。
それは、失うことを恐れる震えだった。
「……今日は、帰ろう」
ロイドはそれだけ言い、ユキの手をそっと放す。
それ以上、何も聞かず。
それ以上、何も言わなかった。
ユキは手のひらの温もりの余韻を感じながら、静かに肩を落とす。
彼の背中を見つめるその視線は、言葉にならない問いかけと、胸の奥の不安でいっぱいだった。




