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愛の檻  作者: hanamizukiyume


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届かない隣

カナリアは、自室で今日出会ったユキのことを思い浮かべていた。


あの女性。


過去の少女の面影を、はっきりと残したまま成長した存在。

――あの人がいる限り、自分がロイドに選ばれることはない。


その事実を理解してしまった瞬間、胸の奥が鋭く抉られた。


なぜ、自分はいつも選ばれないのか。

なぜ、手を伸ばしても、欲しいものは必ず誰かの隣にあるのか。


カナリアの両親はβだった。


だが、祖母が優勢αだったため、隔世遺伝という珍しい形で生まれたのがカナリアだった。


彼女は劣勢α。


それでも、両親の期待は異様なほど大きかった。

できる限りの教育を受けさせられ、αだけが通う教室にも、いくつも通わされた。


だが、飛び抜けた才能は開花しなかった。


失望は、やがて形を変える。

期待は圧となり、圧は暴力になり、努力は「愛されるための義務」へと変わっていった。


そんなある日、テレビの中でロイドを見つけた。

圧倒的な才能。


非の打ちどころのない美貌。

誰もが認める、優勢α。


一目で、恋に落ちた。

両親の一言は胸に刻まれる。


「こんな人が、自分の子だったらよかったのに」


その言葉を聞いた瞬間、カナリアは悟ってしまったのだ。


――この人に愛されれば


――両親も、きっと自分を愛してくれる。


疑いはなかった。


それからは、ロイドの出席する祝賀会やイベントに足を運んだ。


時にはイベントスタッフとして。

時には清掃員として。

歪んだ努力を、惜しまなかった。


そしてついに知ることになる。

ロイドの心に残る、過去の少女の存在を。

碧い瞳。

幼い記憶の中の、特別な存在。


そのとき、カナリアは自分の碧眼に意味を見出した。

――成り代われる。

そう、信じた。

赤毛は染めればいい。

外見は、どうにでもなる。


さらにロイドを調べ上げ、辿り着いたのが、マティーニだった。


スーリンの性格も把握している。

受け入れられる準備は、すべて整っているはずだった。


――そう、思っていた。


だがロイドの隣には、すでにユキがいた。

その事実が、カナリアの胸に、静かな失望として沈んでいった。


「私がユキさんだったら…」


カナリアは、ひとりぽつりとつぶやいた。


そのとき、電話の着信音が鳴る。

知らない番号だったが、ユキに番号を渡したことを思い出し、カナリアは出た。


「突然電話してごめんなさい、ユキです」


「あっ! 早速電話ありがとう! かかってくるのを待ってました!」


カナリアの心は、まだ諦めるには早いとすぐに提案した。


「もしよかったら、明日、二人でお出かけしませんか?」


「いいんですか!近いのでカナリアさんのマンションの下に行きますね」


ユキは疑うことなく、カナリアの誘いを受け入れた。


「じゃあ、11時くらいにお願いします」


電話を切ると、カナリアは自分にもまだチャンスが必ずあると、信じて行動した。


ユキはカナリアのマンションへと足を運んでいた。


初めて休みの日に同性のしかも友達に、会いに行くというそれだけのことに心浮かれていた。


マンションのエントランスにつくなりメールを入れる。


するともうエントランスにはカナリアがいた。

気づくとお互い手を振っている。


そこから移動して、買い物をしてカフェに入る。


買い物中に、カナリアはできる限りユキとロイドの関係を聞き出す。


直接的な会話はなかった。


だが、ユキの些細な言葉の揺れには、過去の少女への羨望だけが滲んでいた。


それだけで、カナリアには十分だった――彼女は“その場所”に立っていない。


カフェの窓際の席に腰を下ろすと、二人の間にはしばし沈黙が流れた。


「それで…ロイドさんとは個人的によく会うの?」


ユキは少しだけ躊躇いながら答える。


「私的な用で頻繁に会う事はなくて…ただ2人きりであっても緊張しちゃうから…」


カナリアはこれだと言うように、合わせる。


「確かにロイドさんと2人きりは緊張しそう…あの、良かったら私とユキちゃんとロイドさんで会えば緊張しないんじゃないかな?きっとユキちゃんの誘いなら時間作ってくれるよ」


ユキは一瞬戸惑うも、またロイドと会いたい気持ちが湧く。


「そう…かな?でも3人なら確かに落ち着けそう」


「うん!じゃあ決まり。善は急げよ、ロイドさんにメッセージ送ろうよ!」


カナリアに捲し立てりるように、ユキはメールを送る。


ロイドは執務室で資料を確認していた。


端末が短く震える。


画面を一瞥し、メールを開く。

最後まで、一度も表情を変えない。


三人、カナリア。


文面は丁寧で、逃げ道も用意されている。

断ってもいい、と書かれている。


ロイドは端末を机に置き、背もたれに深く身体を預けた。


「……二人きりが、緊張するか」


呟きは、独り言にもならなかった。

だが、返事を迷う時間はなかった。

返す言葉も、決まっている。


内線をおす。 


「秘書を呼べ」


数秒後、別の秘書が入室する。


「明日の午後の予定をすべて白紙にしろ。取締役会は延期。会食はキャンセルだ」


「……すべて、ですか?」


「すべてだ」


一切の説明はしない。


それ以上の質問も許さない声だった。

秘書が出て行くと、ロイドは再び端末を手に取り短く返信する。


(明日の午後から時間が取れる、三人でも構わない。場所は任せる。)


端末を伏せ、ロイドは窓の外を見る。

街は変わらず動いている。


――理解している。

それでも、行くと決めた。

それが、ロイドの答えだった。


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