第9話 領主んちに泊まる 2
屋敷のキッチンがあまりに不衛生なので、キッチンカーで料理を作ることにしたダイキ。皿係の執事を従え、調理の準備を始めた。
外はとっぷりと日が暮れて、空気がひんやりと湿り気を帯びている。周囲の土や木々の吐き出す大地の香りは、ダイキの心を穏やかにしてくれた。
「これが、異界の厨房……でございますか? 車輪のついた箱にしか見えませぬが」
「そうだよ。この箱の中に一式詰まってるのさ」
ダイキは折り畳みテーブルを車の脇に据えると、食材の入ったカゴを置いて、荷台側面の板を跳ね上げて、窓を露出させた。
「うおっ、な、なんと……」
驚いた執事はしばらく固まってしまった。
「ああ、皿はそのへんに置いてくれ」
「か、かしこまりました。他にお手伝い出来ることはございませんか?」
しかし、さすがはプロフェッショナル。執事は気合で持ち直した。
「あるよ。だがこっちも準備が要るんだ。ちょっと待っててくれ」
「かしこまりました。いつでもどうぞ」
「おうよ」
(さてと……。男なら喜ぶこのメニュー、オッサンは満足するだろうか)
車内から中と外の照明を点灯させると、執事が驚いて目を丸くしていたが、この程度で驚かれても困るのだ。
ダイキはザルと包丁を持ってキッチンカーから降りると、テーブルの上に置いて、
「すまんがジャガイモの皮を剥いて、このザルに入れてくれないか。俺は肉の仕込みをするから」
「お任せ下さい、ダイキ様。ところで、差支えなければ献立を教えて頂けますか?」
「あー……イノシシのミンチ肉の焼いたのを、長いパンに挟んだサンドイッチの一種だ。リブサンドっつんだけど、俺らの国で結構人気だったんだぜ」
「おお、それは楽しみでございます。旦那様もお喜びになるでしょう」
「だといいんだがな」
腕まくりする執事を横目に、ダイキはかごの中から肉、キャベツのような葉野菜、そしてタマネギを取り出し、ついでにパンのかごもひっ掴んで車に戻っていった。
「さてと。どっから手ぇつけっかな……と」
キッチンの作業台に並べた食材を前に腕組みをするダイキ。彼の脳内では調理の段取りがシミュレートされている真っ最中だ。
「んー……………………。よし」
脳内会議が終了したダイキはエプロンを身に付け、手洗いし、肉をビニール袋に入れてから冷蔵庫に放り込むと、シンクに水を張った。
最初に手に取ったのは葉野菜だ。一枚一枚剥がしては水に放り込み、丁寧に土や汚れを落として水切りザルに入れていく。
シンクの水を抜き、ザルの中の葉を洗い清めるとキッチンペーパーで水気を拭いてビニール袋に詰め、こいつも肉同様に冷蔵庫にブチ込んだ。
続いて玉ねぎの皮剥きに着手。根の部分を落とし、器用に刃物で薄皮を剥いていく。丸裸になった玉ねぎをザっと水で洗うとキッチンペーパーで拭きとり、断面が同心円状になるように薄くスライスし始めた。カットした玉ねぎは水を張ったボウルに入れて晒す。こいつらは、しばらく放置プレイだ。
「ほんじゃ調味料どもを招集するか……」
肉の調味に必要なものは、塩、コショウ、パプリカパウダー。ジャガイモの方は薄力粉とバター。そしてBBQソースの調合に必要なのは、ケチャップ、ナツメグ、ハチミツに中濃ソース。
だが、全てが揃っているわけではない。ハンバーガーの調理に必要のないものは積載されていない。当たり前の話だ。
この中で運良く現地調達が出来たものは、バターと小麦粉、ハチミツだ。さすがは領主の屋敷と言えよう。
勘の良い読者諸兄ならお気づきのことであろうが、バーガー屋でも異世界でも、存在し得ない材料が1つある。
それは――中濃ソースだ。
だが!
しかし!
運の良いことに、何故かこのキッチンカーには、中濃ソースが存在していたのだ!
それは何故か!?
そう!
小麦粉ソース小麦粉小麦粉小麦粉レタス小麦粉!
くっころ女騎士ライサンドラの胃の腑を満たしたあの、
ダイキ自慢の新作バーガー、
『コログラバーガー』に必須の素材だったからに他ならないのだ!!!!
「へへへ……、まさかこんな場所で役立つとはな」
ダイキは、一升瓶サイズの業務用ペットボトルを冷蔵庫から取り出し、ステンレス製の作業台の上にズドンと置いた。
「中濃ソースさんよお! これで勝つる!」
外から執事の心配そうな声がする。
ダイキは商品提供用のサッシ窓をガラっと開けると、
「大丈夫だ! ただの独り言だから安心してくれ!」
「さ、左様でございますか」
いたずらに異世界の老紳士を驚かすものではないな、と反省する。
「して、ジャガイモの方はそろそろ終わりますが、いかが致しましょう」
「ふむ。じゃあ中で一旦洗うからザルごと寄越してくれるか」
「かしこまりました」
ダイキは窓越しにジャガイモを受け取ると、そのままシンクに置いて水洗いをし、ザッザっと水を切った。そして一つ一つキッチンペーパーで拭きとり、予備のまな板と大き目のボウルを持って表に出た。
「今度はこいつを千切りにして欲しいんだ。いま手本を見せるから……」
ダイキはジャガイモを1つ取ると、包丁のあごでジャガイモの芽を掻き取り、薄くスライスしていく。そしてあっという間に2、3ミリの千切りにした。
「こんな風に切ってもらえるか?」
「なんと手際のよい……さすがは異界の料理人、すばらしい腕前でございます。ダイキ様には及びませんが、この細切り、命に代えてもやり遂げてご覧に入れます!」
「お、おう、頼むわ」
執事の意気込みに若干気おされつつ、再び車内のキッチンに戻ったダイキ。
「おっと忘れるところだったぜ。待たせたな!」
放置プレイですっかり忘れられていた薄切り玉ねぎは、水を切ってからボウルに移し、ラップをピンと張って冷蔵庫にIN。ラップが綺麗に張れると気持ちがいい。
次の作業はいよいよ肉の仕込みである。玉ねぎと入れ替わりに、冷蔵庫に入れた塊肉を取り出すと、彼は包丁をの刃を見て、う~ん、と考えて、おもむろに研ぎ始めた。ジャッジャ、と研ぎ棒と包丁の擦れる音がキッチンに響く。
「こんなもんでいいか……」
刃を眺め、キャベツっぽい青菜の芯で切れ味を確かめると、ダイキは肉を5ミリほどの厚さでスライスしはじめた。執事の言うには、これはイノシシ肉とのことだ。
イノシシといえば野生の豚。つまり、生姜焼き用の肉をカットしているのと同義である。しかしこれで終わりはしない。彼が必要とするのは、豚ひき肉である。
ダイキは薄切り肉をさらに細切りにしていく。ここで終わればチンジャオロースである。だが彼が必要とするのは、あくまで豚ひき肉なのだ。
「じゃあ、もういっちょ出すか……」
ダイキは包丁ホルダーから、さらに包丁を取り出し、左手で持った。彼は右利きであり、既に包丁を持っている。そして空いているのは左手のみである。これは自然の摂理、自明の理である。
つまり現在のダイキは、左右に包丁を持っている。すなわち、包丁二刀流である。
「はあぁぁぁ…………」
ダイキはまな板に正対し、大きく息を吸い込むと、意を決して二本の包丁で肉を叩き始めた。無用な雄叫びまで上げながら。
『ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
中年男の気合の為せる技なのか、みるみるうちに細切り肉がひき肉へと変貌していく。さらに猛烈な勢いで肉を叩きまくるダイキ。悲鳴を上げるステンレスの調理台。
「ダイキ様! ダイキ様! 大丈夫でございますか!」
「ん?」
名前を呼ばれて正気に戻ったのか、ダイキの手はピタリと止まった。
その瞬間を見逃さず、戸口から顔を出していた執事がキッチンに飛び込んできた。
「唸り声と何かを連打する音が聞こえましたが、何事でございましょうか! って、うわああああ」
血のりのついた包丁を両手に持ったダイキを見て、執事が腰を抜かしてしまった。
「あー……。すまん、驚かすつもりではなかったんだよ。大丈夫、うん。大丈夫だ。肉をな、ほら、細かく叩いていただけだから、問題ないんだ」
両手の包丁を交互に動かして、肉を叩く仕草をして見せた。
「さ、左様でございますか……、ダイキ殿には驚かされてばかりでございますなあ」
「いやあ、すまんすまん。ホントに悪かった」
「いえ何事も無ければよいのでございます。では私は作業に戻ります」
「ああ、頼むよ」
微妙によろけながら、ステップを降りていく執事を見送ると、ダイキはやや静かに残りの肉を叩いた。
まもなくイノシシ肉のミンチが完成すると、ダイキは肉をまな板からボウルに移し、薄手のゴム手袋をはめ、調味料を加えて混ぜ合わせはじめた。ダイキが力強く肉をこねると、まもなく肉に粘りが出はじめる。
満足いくまで肉をこねると、今度はパンの大きさに合わせて、細長く平らに整形しはじめた。リブサンドのパティである。
パティの準備が整うと、ダイキは鉄板に火を入れて油を引き、こてを使って一枚一枚並べ始めた。途中、不格好なものがあれば、こてでペシペシと叩いて均していく。
やがて鉄板の温度が上がると、肉の焼ける旨そうな匂いがしてきた。
まもなく、執事が切ったじゃがいもをキッチンに持って来た。
「じゃがいもの細切りが完了いたしましたぞ。……おお、いい匂いですな……」
「そうかい? それはなによりだ。じゃがいもはそこに置いておいてくれ」
「承知いたしました。他に何か御用はありませんか?」
「じゃあパンを切ってもらえるか? いま見本を作るから」
ダイキはパン切りナイフを収納から取り出すと、カゴからパンを一つ手に取って、横っ腹に真っ直ぐ切れ込みを入れた。
「こうやって開いて使うから、完全に切り離すんじゃなくて少し皮を残しておいてくれ」
「かしこまりました」
パン切りを執事に任せたダイキは、肉の様子を見つつ、ジャガイモの調理を始めた。ボウルで山盛りになっている細切りジャガイモに小麦粉を振りかけ、軽く指先でさっくり混ぜ合わせると、ダイキは迷いなくボウルを上下に煽り、天井近くまでジャガイモを舞い踊らせる。あっという間に、まんべんなく小麦粉をまとったジャガイモの完成だ。
次に鉄板の空いている所にバターを落とし、こてでくるくるとこすり付ける。程よくバターが溶けてきたら、粉を纏ったジャガイモを平らに敷き詰める。そして、こてでジャガイモをぺちぺちとやさしく叩いて均し、火が通るのを待つ。
パティとの境界線では肉汁がジャガイモエリアを浸食してくるが、ダイキがコテでそれを阻止する。無論、旨い肉汁が沁みたハッシュドポテトは旨いに決まっているのだが、今はそれを許すわけにはいかない。まあ、パンに吸わせる宗派もあるにはあるが……。
パティの片面に火が入ったのを確認すると、ダイキは二枚のこてを使って器用に裏返し始めた。長方形に薄く成型されたパティは、さながら肉の神経衰弱である。
全てのパティを裏返すと、加熱されてハッシュドポテトへと変貌しつつある細切りジャガイモたちの様子を伺う。こてを押し当てると、バターの焦げた香りと共にジュっと音を立てる。
現在は一枚の大きなハッシュドポテトであるが、焼き上がり次第、パティとほぼ同サイズにカットしてパンに挟めば、食べ応えのあるリブサンドの具材となる。肉だけでも満足度の高い一品だが、バターをしっかり吸い込んだ細切りジャガイモのハッシュドポテトはサクサクとした歯ごたえと共に、胃袋にも更なる喜びを与えてくれるだろう。
しかしこのリブサンドを食べるのは、肉を食べ慣れているとはいえ中年男性である。万一胃もたれさせてはならぬため、保険として水に晒した玉ねぎと、消化を助けるキャベツ的な野菜も添えて万難を排す構えだ。
「いい具合に焼けてきてるぜ……じゃ、そろそろソースに着手するか」
ダイキはボウルを取り出すと、ベーシックなBBQソースを調合し始める。バーガー屋に必須のケチャップ、パティに加えるために常備しているナツメグ、食糧庫から持って来たハチミツ、そして『コログラ』のために用意した中濃ソース。これらを次々と計量し、ホイッパーで攪拌する。
小指の先でソースの味見をすると、ボウルのままコンロに乗せて中火で加熱を始めた。ときおりホイッパーで混ぜながら、ひと煮立ちさせて火を止め、粗熱を取るために水を張ったシンクに浸した。
「せっかくあれもあるし、もう一つ作るか」
ダイキは新たにボウルを出すと、調味料の軽量を始めた。
「しょうゆ……砂糖……で、みりんはないから砂糖マシマシで……料理酒の代わりに」
ダイキは手にした瓶のコルクをポン、と抜くと、中身の液体を計量カップになみなみと注いだ。
「ん~……、異世界のワインも匂いは同じなんだな。味は……同じか。かえって好都合だぜ」
計量カップを満たした赤ワインをボウルに注ぎ、ホイッパーで軽く混ぜ合わせる。味見をして、うん、とうなづくダイキ。
「かえって豪華になったような……まあ、いいだろ」
ボウルをコンロに乗せ、BBQソース同様に加熱を始めた。
「うは……こりゃいい匂いだぜ。ステーキにも合うな。ふふふ……と、いけねえ。肉とイモは無事か」
ボウルの火を弱火にすると、ダイキはコテを手にパティとハッシュドポテトの様子を見はじめた。どちらもジュウジュウと音を立て、食欲をそそる匂いを蒸気と共に立ち上らせている。
十分に火が通ったパティを、器用にコテを使ってバットに移していく。そして、夜店のお好み焼き屋のごとく、ハッシュドポテトを四角く切り分け始めた。こんがりと焼けたハッシュドポテトにコテを入れると、小気味いい感触を一瞬で通り抜けて熱々の鉄板にたどり着く。くっく、とコテを前後させて確実に切り離すと、次の区画に移ってコテを入れていく。全てのカットが終わると、パティ同様に鉄板からバットに移していった。
ダイキのカット見本に物怖じしたように見えた執事だったが、彼は難なく任務を完遂し、最高のサラサラな細切りジャガイモを作ってみせた。その仕事ぶりにダイキはプロの矜持を垣間見た。
(あんたもいい仕事してるぜ……)
弱火にかけたボウルを軽くホイッパーで攪拌し、液体のとろみを確認すると、ダイキは火を止めて、水を張ったシンクに入れて粗熱を取る。
「こっちもいい仕上がりだ。赤ワイン仕立ての照り焼きソースの完成だぜ」
腕組みをして、満足げにうなづくダイキだったが、息つく間もなく鉄板の掃除を始めた。まだ料理は完成していないのだから。
ダイキは窓から顔を出し、
「おーい、テーブルに皿を並べてくれ」
「かしこまりました」と執事。
綺麗になった鉄板に軽く油を引くと、先ほど執事がカットしたパンを開いて並べ始めた。少し固めのパンなので、オーブンなどで軽く加熱した方が、柔らかくて食べやすくなるのだ。
パンを暖めているうちに、ダイキはバーガーの包装紙を持って車を降りた。
「こいつを皿に置いてもらえるか。こんなカンジで」
ダイキは領主宅の上等そうな皿の上に、カラフルな市松模様の包装紙を置いた。
「これは……なんと美しい。この、この素晴らしい薄紙を料理に敷いてしまうのですか! おおお……異界とはなんと豪華なのでしょうか! 信じられません」
執事が感動しすぎて、のけぞったり震えたりしてしまっている。異世界の人にはよほど刺激が強かったのか、何なのか。
(いやあ、そもそも店の商品を包むためのもんだし、業務用の包装用品店に行けば安くいつでも買えるんだよなあ……)
「じゃ、じゃあ頼んだぜ。もうじき出来るから」
「かしこまりました、ダイキ様」
プロ意識の塊な執事は、すぐにショックから立ち直って包装紙を手にした。
ダイキがキッチンに戻ると、パンはいい具合に焼けていたので鉄板の火を落とし、冷蔵庫からタマネギとキャベツっぽい青菜を取り出す。青菜は飾り用と具材用に分けて、飾り用は手で千切り、具材用は千切りにした。
飾り用の青菜は、具材を挟んだ状態で外側にハミ出してサンドイッチに彩りを与えることを目的としている。対して具材用は、メインのパティの引き立て役として、歯ごたえや、さっぱり感をもたらす使命を持つ。
ダイキは飾り用の青菜を一口齧ると、歯ごたえを確かめるように咀嚼し、飲み込んだ。あまりに硬かった場合には、パンに挟む分量を加減しなければならないからだ。しかし、うんうん、と小さくうなずいた様子から、当初の想定量を使用するのだろう。
シンクで冷ましたソースは、ボウルの水気を拭きとって作業台に並べた。
「いよいよ、合体だぜ!!」
ダイキは手のひらと拳をパーン!と打ち合わせ、気合を入れた。
ここからは流れ作業である。
スムーズに組み上げるため、具材容器と調味料の位置を入れ替え、完成品を並べるバットをゴールに置き、その手前にソースを置いて、トングをボウルに放り込む。
ダイキは鉄板で温められたパンを片手に、一段目は飾り用の青菜を見栄え良く敷く。色の良くない部分は千切って自分の口に放り込んだ。そして具材用に千切りにした青菜を細く、外にはみ出さないよう敷いていく。
二段目はパティだ。トングで掴み、ソースをくぐらせてから青菜の上にそっと置く。焼いただけのパティでも十分に旨いのだが、手製のBBQソースをくぐらせることで、肉汁を閉じ込め、パンチの効いた味わいを与える。
そして三段目には、サクサクのハッシュドポテトをパンと並行になるよう、慎重に載せる。なまじ直線にカットされているぶん、ナナメにズレてしまうと妙に気になって味に差し障りが出てしまう。
ハッシュドポテトの上には、水で晒した輪切り玉ねぎをパンからはみ出すように美しく載せる。
このような「はみ出し」要員には、玉ねぎの他にトマトやスライスチーズなども存在する。最下段の飾り用の青菜も同様だ。
日本人の美観では、食べ物は季節や文脈を重んじ、調和をもって整えられた有様を良しとするが、西洋、特に米国では、溢れる、零れる、ハミ出す、といったワイルドさが美味さを醸し出すものとされる。
ゆえに皿の上にソースが垂れまくったり、スパイスをバラ撒いたり、挙句の果てには汚く齧り取った様を誇らしげに宣伝画像などに用いたりもする。
だが、さすがにそこまでやると日本人に眉を顰められてしまうので、外資系の外食産業の宣伝では、そこそこでやめておく良識があるようだ。
料理の見栄えとは、味への期待感と直結する。場合によっては味自体にも大きな影響を与えるものだ。頭のおかしい連中の中には、料理は見た目が百パーセントなんてのもいる。ゆえに、味の価値を下げる行為は極力未然に防がなければならない。料理の味を百パーセント届けるために。
元来このような繊細な作業が得意ではなかったダイキだが、見た目の悪さだけで、食べる前から不味いと言われることにガマンならなかった。だから、必死で見た目、映えを学習した。己の旨さを伝えるため、努力を惜しまなかったのだ。
「そして、仕上げだ」
ハッシュドポテトに塩コショウを軽く振って、具材を崩さぬようにパンを綴じる。
この瞬間、ダイキの『異世界風イノシシのリブサンド』が爆誕したのだ。
バットの上にリブサンドを置くと、ダイキは包丁で四等分に切り分け、一個だけ残して他をバーガーの包装紙でくるんだ。
「よう、済まんがウチの食いしん坊を呼んで来てくれないか。あと御者さんも」
「かしこまりました」
ダイキはカットしたリブサンドの包みをトレーに置くと、浮かれながらステップを降り、表のテーブルに置いた。
「ふふ、楽しみだな。どんな反応すんだろな……」