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【異世界フードカー】元自コワモテおっさんがハラペコ女騎士さんと目指す最強バーガー王伝説【もったいないは許さない】  作者: 東雲飛鶴


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第20話 港に行っちゃうよ 2

「そんじゃ俺らも散策するか」

「お供いたします」


 ダイキとフランツは、ゆるい坂道を下り港町を歩いていく。ダイキが見ているのは、主に商業施設だった。


「あれは……魚屋か?」

「そのようですね。行ってみましょう」


 二人は魚屋の屋台に近づいた。店は岸壁沿いの道にあり、すぐ脇では漁師が水揚げをしている。そのままこの店で売るのだろう。


 ダイキは漁師に声を掛けた。

「忙しいところ悪いね。ちょっと聞きたいことがあるんだ。漁師さんはお兄さん以外にもいるの?」


 中年の漁師は訝し気な表情で、

「何だよ、怪しい奴だな。何の用だ」


「ごめんよ、この港に来たばかりの商人なんだ。料理用の魚を探していてね、どこでたくさん買えるのかなって思ってね」

 ダイキは胸元から商人ギルドのパスを出して漁師に見せた。


「なんだ、そうかいそうかい。俺はこの店と契約していて、地元の人が食うぶんの魚を直接卸しているんだ。他の漁師たちは、漁港の市場で水揚げしてるから、たくさん魚が欲しいなら漁港の魚市場に行くといい」


「市場の場所を教えてもらえるかい? この地図に載ってるといいんだけど」

 ダイキは領主からもらった地図を広げて見せた。


 漁師は現在位置からほど近い別の港を指し示し、自分の名前を出せば便宜を図ってもらえるだろうと言ってくれた。


「いろいろとありがとう! 助かるよ! ところで、そっちの魚は卸さないのかい? 新鮮で旨そうだけど」


 ダイキは船の上にある小魚の入ったカゴを指差した。


「ん? こいつは売り物じゃないよ。ゴミだから、肥料にするしかねえんだよ」

「なんでゴミなんだよ」

「こんなに小さい魚は誰も買わねえからな……」漁師は残念そうに言う。

「じゃ、全部売ってくれ。俺がちゃんと食うから」

「本当に? まあ、金をくれるなら文句はねえけどよ」

「もちろんさ!」


 ダイキは小魚を買うと、のちのちを考えて魚屋でも多少の買い物をした。


「こんなに小魚を買ってしまって、どうされるんです? ダイキ殿」

 魚の入った木箱を抱えてフランツが尋ねた。


「どうって、料理するに決まってるだろ。にしても、あんま店ねえなあ」


 通りには、宿屋兼酒場が一件と鍛冶屋や道具屋などの商店。そして露店がいくつか並んでいるだけだった。お世辞にも賑やかとは言い難い。

 途中、串焼きの屋台で買い食いをするライサンドラを見掛けたが、食べるのに夢中になっているのでスルーした。


「この規模の港ですからねえ。最小限の施設しかありません」

「だが足りている、とは言い難いだろうな。今後はもっと人も増えるだろうし」

「そうですね。出来ればもっと栄えさせたいものです」


 ダイキは立ち止まると、振り返って街を眺めた。

 彼が物思いに耽っている様子を、フランツは期待感を抱きながら静かに見つめている。きっと妙案を思いついてくれると願って。


「フランツ」

「はい! 何でしょうか!」


「この港や漁港、畑、街道にはロスが多すぎる。何かを新しく作る前にムダを減らして、施設や人を集約するんだ。場当たり的な施策じゃ民が疲弊するのは当たり前、こんなに領地経営がヘタクソじゃあ、そりゃ王様だって痺れを切らすさ」


「それは……異界の知恵でしょうか」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。しかし特別な人間が占有している知恵ではない。経済や都市運営に興味のある人間なら知っている基礎だな。別に俺だって学者でもなんでもないが、そのくらいは分かる」


「異界の知性は全体的にとても高いのですな……」


「教育水準が高いためだろう。それもひとえに、俺らの先祖が国を富ますには国民の教育が不可欠だと思ったからだ。俺らがすげえわけじゃない」


「国民への投資……主には理解できないことでしょうな……」


「それが理解出来るまで、数百年はかかるかもしれねえ。だが数十年前から、この世界には日本人が何人もやってきて、すでに影響を与えてしまっている。もしかしたら、この世界の時計の針は、思いのほか早く動いているのかもな」


「では――」


「だが俺は、それがこの国の人にとって、いいことなのか悪いことなのか、分からない。だから怖いんだ。期待させて悪いけどよ」


「ダイキ殿は慎重で思慮深い方ですね。文明の差にここまで思い至るなど、浅学な私にはとうてい考えが及びません。賢者と言ってもいい」


「哲学も、特別な人間のためのもんじゃあなくなってるんだぜ、向こうではね」

「左様でございますか。ますます手本にしたいものでございます」


 ダイキは大きく息を吐くと、物憂げに語った。


「手本があったって、所詮は人間のすることだ。期待するほどじゃねえよ……」

「いろいろ、あったんですね」

「ああ。いろいろな」

「そんな顔して言わないでください、ダイキ殿」

「どんな顔だよ」


 フランツはダイキの手を握って言った。

「そんな、人間に絶望したような顔で、です」


 ダイキは反対側の手をズボンのポケットに突っ込んで呟いた。

「でも、もう一度だけ人を信じてみようとしたんだけどな」


「ダイキ殿ぉ」

 フランツは思わず泣き出した。

「やはり貴方は……」


「生きるのに疲れたオッサンの戯言だ。泣くようなこっちゃねえよ」


 それはまるで自分に言い聞かせているような呟きだった。

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