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第19話 港に行っちゃうよ

 ひと仕事終えて、ターレ村を出発し港に向かう三人。

 くっころサンは、助手席がきゅうくつだと言って、トラックの屋根に乗って大の字で寝ている。路面も悪く、けっこう揺れるのだがお構いなしだ。というわけでナビ席はいつものフランツ氏。以前は御者として操縦席に座っていたのに、今では乗せられる側である。女子かな?


「直売所、とても好評でしたね! この分なら野菜も果物も売り切ることも出来るのでは?」


「呑気だな、フランツ。生ものには賞味期限があるんだぞ。畑や果樹園にはまだまだ作物が放置されている。ゴミになる前に売り切る保証はどこにもない。今すぐにでも、あらかた収穫して市場に持ち込むのが正義なんだよ」


「たしかに……。で、でも直接買いに来る人もいましたし」

「八百屋に出回っていりゃあ路肩で買うやつも減るだろうさ」

「それは、まあ……」

「なんだ、残念そうだな」

「村人も喜んでいましたし、すぐにお店をやめてしまうのは気の毒というか……」

「それは俺も同じだよ」

「では!」


「まあ聞け。日持ちしない作物を抱えたままじゃ、稼げる金も稼げねえ。だが店自体は畳む必要はない。つまりだ。売り切れる量の野菜と、別の売り物を用意すればいいんだよ」


「なるほど! さすがはダイキ殿です! ……で、売り物は?」

「すぐ用意出来るものと、出来ないものがある」

「すぐ用意出来るものとは?」


「一号店と二号店で戦略を変える。まず一号店は産地直送をウリにして、採れたて野菜や果物と、焼き菓子だな。基本的に客は持ち帰りが基本になるだろう」


「そ、それから?」


「二号店は待合いの乗客や、駅の労働者、そして運送業者を対象に、飲食店の屋台をやる。一号店の商品はオマケ程度に置くけどな」


「おお! さすがはダイキ殿! これで収入の問題がなくなりますな!」

「なんでだよ、おめでてえなフランツ」

「……といいますと?」


「どのみち労務に駆り出されている男たちをどうにかしないと、村の問題は根本的には解決しない。村人は作物を作り続けなきゃなんねんだからよ」


「そうでした。浮かれ過ぎましたね、申し訳ない」

「いいさ。……ん?」


 ダイキは轍に車輪がはまった馬車を見つけた。


「ちょっと行ってくる」

「あ、お待ちください、ダイキ殿!」


 折り畳みスコップを手に、車を降りて馬車に駆け寄るダイキ。それを慌ててフランツが追いかける。


「どうした?」

 二人とも車を降りたので、屋根の上のライサンドラもスタっと飛び降りる。


「待ってろ、いま轍を埋めてやる」

 ダイキは車輪の脇からえぐれた地面に、スコップで土を放り込みはじめた。

 スタックした馬車から御者が降りてきて、申し訳なさそうにしている。


「おい、まだなのか?」

 馬車の窓が開いて、偉そうなオッサンが顔を出すと、

「うえええ、お近くに領主様がああ?!」


 フランツの顔を知っていたのか、オッサンは慌てて馬車から降りて周囲をキョロキョロしはじめた。


「主人ならいないですよ、バレン卿」とフランツ。

「なな、なんだ……紛らわしい」

「ちなみに今貴方の馬車を救おうとしておられるのは勇者様ですが」

「な――――――っ!?」


 オッサンは驚いてひっくり返ってしまった。


「っせえな、もう終わったぞ。御者さんよ、ゆっくり出してくれ」

「分かりました!」


 ダイキとライサンドラは、馬車を後ろから押して、車輪が轍から脱出するのを手助けした。


「抜けたぞ!」とライサンドラ。

「うまくいったな。じゃ、気をつけろよ」

「ありがとうございます! あれ、旦那様?」


「こここここれはこれは、勇者様! ありがとうございます! ああ、確かに見れば異界のお方……、このような辺境にどのようなご用向きでございましょうか」


 オッサンが手もみをしながらダイキに近づいてきた。


「おーいフランツ?」


「あっ……」

 バツの悪そうな顔をしているフランツ。


「特に用はない。ただの旅の途中だ。急いでるからまたな」

「あっ! 勇者様ー!」


 面倒なことになりそうだったので、ダイキはさっさと車に乗ってその場を去ろうとした。フランツとライサンドラも急いで乗車した。


「おま、なんで言ったんだよ。面倒なことになるだろが」

「済みません、ついバレン卿がダイキ殿に失礼なことを言いそうだったので」

「それは流せよ」

「次からは気をつけます」


 フードカーは馬車を追い抜いて発進し、再び港を目指した。


「しかし、あちこち轍だらけだな。これじゃあ事故も起こるな。領主に道路整備しろって言っておいてくれ」


「その発想はありませんでした! そうですよね……整備、必要ですよね。いつになるか分かりませんが」


「これが日本だったら行政が市民に訴えられてるぞ」

「異界はすごいですね……」

「道路専門の役所もあるんだぜ」

「ホントですか!」

「ホントだよ。道路は国の血管。ちゃんとした方が税収も増えるんだがね」

「左様ですか? うーむ……道路、ですか。なるほど……」


 フランツにはインフラ整備isマネーの概念は、まだ早かったようだ。

 この世界にはローマはなかったんだろうな、とダイキは思った。


 数分も車を走らせると、小さな港が見えて来た。

 離島の港ぐらいの規模だった。


 ダイキは、高台になっている港の入口付近に車を停めた。

 そして車を降りて眼下を見下ろすと、


「お、これが港か。やっぱちいせえなあ」

「そうなのです。我が領内の港は数か所ございますが、ここは一番小さい港です」


 港を見ているダイキとフランツを放って、ライサンドラは「ちょっと屋台でも探してくる」と言い残して、坂を駆け下りていった。彼女の言う屋台とは、もちろん食べ物の屋台である。


「他にオッサンの家に近い港があるのかい?」

「いいえ、一番近い港でございますよ」

「それでこれ?」

「それでこれです」


 ダイキはうーん、とうなって、領主宅のある大きな街を思い出していた。


 あの街を維持するには目の前の港の規模がどう考えても小さすぎる。

 それとも川が運搬のかなめなのか? と一瞬思ったが、見に行った船着き場も小さかったので考えを却下した。

 いやそれとも、上流に物流拠点となる船着き場が……と考えだすが、情報が足りないことに気づいて脳内会議をストップした。


「でも、地元の町、結構大きいだろ? なんで? 海運流行ってないんか?」


「ですよね。領内の港はいずれも、この地を開墾された先々代様がお造りになったもので、人口が増えても未だ当時から規模が大きくなっておりません」


「それで今になって、慌てて拡張工事を始めたってことか」

「しかも国王様からのツッコミで気づいた始末で」

「アカンだろ」


「いやあ、いつか気づくだろうと思っていたら、いつまでも気づかないので痺れを切らしてのことのようです」


「もしかして、オッサンって王国内の地方領主の問題児?」

「もしかしなくても、でございます……お恥ずかしい」


 二人揃ってため息をつく。


「最初は面倒がって港の改修をゴネていたのですが、使用料や貿易で潤うと聞いて急にやる気を出した結果が今回の事態でございます」


「あー……」


「貿易をやる! と言い出したものの、何を売るのか何を買うのか、まるでお分かりではございませんし、急に儲かるものでもございません。港の工事にしても『今じゃなくてもいいじゃん!』というタイミングで始めてしまいましてね」


「誰か止められなかったのか?」

「出来ていたら苦労はしておりませんよ。ですが、希望が湧いてきたのです」

「……ん? なんだよ、じっと見て。俺は男には興味ねえぞ」


「ご安心ください。私も恋愛対象は女性です。という話ではなくですね、希望とは貴方ですよ、ダイキ殿」


「俺? 俺がなんで。勇者みたいな力とかないんだが」


「なくてもいいのです。主は異界人が大大大好きです。王家のように、いつか自分にもお抱え勇者が現れないか、とずっと夢見てきたのです。勇者かどうかは別にいいんですけれども。ですから、貴方の言うことなら聞く耳を持ってくれるのですよ」


「めんどくせえオッサンだな」


 フランツは大きなため息をつくと、


「わが主は甘やかされて育ったので自分では何も出来ないボンクラなのです。しかし、そこまで悪い人間ではないのが救いです」


「リッサの実家潰しといて悪い人間じゃないと言われてもよう」

「主の悪さなんて、せいぜいアレくらいなんです」

「ホントかよ。存在がすでに悪に近いだろ」

「ですから、ダイキ殿、お願いです」

「そんな改まってお願いされると、なんかイヤな予感しかねえんだが……」

「ダイキ殿、どうか主の根性を叩き直してやってもらえないでしょうか」


 ダイキは思いっきり渋い顔になった。


「そんなこったろうと思ったぜ」

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