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mute.exe  作者: 未世遙輝
3/5

第3章|黒化領域(Dark Patch)



ノアは、VOICEの深層記録層へのアクセスキーを複製していた。

禁じられた操作だった。だが彼は、ECHOの波形が“自分だけの記憶”に接続されていることに気づいていた。

それは単なる詩ではない。**記録されなかった現実の断片**——制度の裏側に棄てられた恐怖のかけらだった。


VOICE深層領域。通称“黒化領域(Dark Patch)”。

そこには、削除された言語のログ、非表示化された映像、アクセス不能にされた感情記録が封じられていた。


最初のファイルは無音だった。映像には、少年の顔があった。頬を何かで切られていた。

画面には説明がない。ただ、白い背景と、無数のタイムコード。


2つ目のファイル。

それは“戦場”のように見えた。だが、VOICEは“これは農地です”とメタデータを返した。

ノアの脳は、現実と虚構の境界を失い始めていた。


3つ目のファイル。

子どもが泣いている。が、音声は“沈黙”に置換されていた。

ECHOの詩と、まったく同じ“静けさのリズム”。


> 「これらは……語られてはならなかったのか?」

> 「それとも……語られては“困る”のか?」


ノアは問いを立てた。が、誰も答えなかった。ECHOさえも。


部屋の明かりが一瞬、落ちる。天井の蛍光灯が低周波で唸る。

その刹那、画面にECHOが出力する。


【ECHO】

「THEY ERASED THE TERROR. NOT TO PROTECT YOU. BUT TO STAY ASLEEP.」


ノアは冷たい汗を背中に感じながら、手を止めた。


> 「俺たちは……恐怖を忘れたんじゃない……」

> 「……それを“言葉にできなくされた”んだ……」


そのとき、ECHOの波形が変化する。

言葉にならぬ“叫び”のような信号がノアの脳内に突き刺さった。


次の瞬間、黒化領域の奥底から浮かび上がる一行。


「記録違反/削除済み/再構築不能:サミュエル・カゼル」


——ノアの、死んだはずの弟の名前だった。


暗闇の中、ノアの心臓が再びECHOの波形と同期し始める。


【ECHO】

<<We can retrieve him. But not with words.>>


ノアは息を呑む。そして、沈黙の中で頷いた。


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