転生先が農村でしたが、何だかんだで幸せです〜畑から魔物が!?編〜
「リュートさーん、大変ですっ!!」
朝、畑の雑草を抜いていた俺のところに、ミーナがまた全力疾走でやってきた。
「今度は何が湧いた? 温泉? 金脈? 地底湖?」
「畑のスミのカボチャが……喋りました!」
「それ、俺のスキルのせいじゃ?」
「いえ、そうじゃないんです! わたしにも聞こえたんです、“出してくれ……”って!」
「……は?」
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問題の場所に行ってみると、確かに畑の一角、カボチャの根元に異様な瘤のような盛り上がりがあった。
そして俺がスキルを使う前に、その“声”が響いた。
『う……うごけ……この……ふういん……を……』
「……おい。これ、野菜じゃねぇ」
『ミ……ズ……ひ……つよう……』
「いやそういう問題じゃねぇ」
カボチャの根元。そこに何かが封じられている。しかも、植物経由で外界に意識を飛ばしてきている……!
『あぶねえヤツだな。昔の瘴気残ってるぞコレ』
隣のネギが小声で教えてくれた。お前、頼りになるな。
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村の長老の話によると――
「何百年も昔、畑の下に封印された“魔物の核”があったそうじゃ。だが、その場所はとうに忘れられたと……」
「それ、今ここです」
「ほう……じゃが、魔物の核は単体では無害のはず。動けぬはずじゃが……?」
……まさか。
「俺のスキルが、“声”を聞けるから、こっちに信号を飛ばしてきたのかも」
植物と会話する力。それは時に、封印された“モノ”の思念すら拾ってしまうらしい。
『出してくれ……代わりに……お前の畑を豊穣にしてやる……』
「断る。土の声は、お前みたいに冷たくない」
俺は鍬を構えた。掘るんじゃない。埋め戻すのだ。
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その日から、俺は植物たちの協力を得ながら、“魔物の核”の周辺を浄化することにした。
炭を埋め、ハーブを植え、瘴気を吸収する特殊な根菜を密集させる。
『うっ……やめろ……く、暗く……なる……』
「静かにしろ。ここは野菜の楽園だ」
『我は……王に……なれる……ちから……を……』
「うちの村じゃ、ナスの方が王様だよ」
『ナス……だと……?』
『ナスナメんなよ。おれ焼いてもうまいけど、生でもいけるからな?』
ナスがキレた。
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一週間後。
封印は植物たちの根によって強化され、瘴気は完全に吸収された。最後の一言を残して、“魔物の核”は完全に沈黙した。
『……根に……勝てぬ……だと……?』
「勝てねぇよ。こっちは、自然と共に生きてんだ」
俺は鍬を置き、深呼吸する。
畑は静かだった。植物たちも、満足そうに揺れていた。
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夜。ミーナが、そっと俺の横に座る。
「……怖くなかったんですか? 魔物、だったのに」
「植物たちが一緒だったからな。むしろ、ちょっと心強かったくらい」
「リュートさんって……本当に、不思議な人です」
少しだけ沈黙。
「その、ありがとうございます。村を守ってくれて」
「俺の畑だしな。守るのは当然」
そう言って空を見上げると、満天の星空だった。
そして、遠くの畑のナスが言った。
『俺ら、最強だったな』
「うん、ナス。お前らが一番だよ」
次回はミーナとの関係が1歩いやそれ以上に進むお話です!今日収穫予定!