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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

執行人の初恋

昔々あるところに両親から暴力を振るわれていた少年がいました。

少年は両親から暴力を振るわれてもやり返さずじっと時間が過ぎて両親が飽きるのを待ちます。

いつかはやり過ぎたことを反省してくれると信じていたのです。

しかし両親は翌日にはまた暴力を振いました。

その翌日だけでなく毎日毎日毎日、繰り返される暴力にとうとう少年は耐え切れなくなって家を飛び出しました。



毎日一食でいつ暴力を振るわれるかビクビクしながら寝ていた少年は栄養不足と睡眠不足でとある家の前で倒れてしまいます。

薄っぺらい古着に裸足の彼は道を通る人達から不潔だとか邪魔だとか言われ足蹴にされる事もありましたが家を飛び出した時に体力を使い果たしていた為、意識を取り戻しても指一本動きませんでした。

もうここで死ぬのかな?と思った少年はやっと痛い思いをしなくて済む、親の愛を期待して無碍にされなくて済むと考えました。


そんな時一人の女の子が少年に手を差し伸べました。

ですが少年に差し伸べられる小さな手に彼は気付きません。

だって今まで少年に手を差し伸べた人は一人もいなかったのです。

視線を感じて目を開けた少年は綺麗なドレスを着た少女がどうして自分を見ているのか戸惑ってしまい、見なかったことにしたらきっと立ち去ってくれると思ってまた目を瞑りました。



それから数分、少年と少女の間は動く事なくじっとその場にいました。

そして少女は一つの決断を近くにいた大人に伝えました。

自分より少し大きな少年を保護すると。

その発言を聞いた少年は閉じていた目を開けて眉を顰めました。

薄汚れた自分を保護しても少女に利点は無いからです。

少年はまた両親に暴力を振るわれてきた時みたいに少女から暴力を振るわれるか見せ物にされるかだと考え、動かない身体をなんとか動かそうとしましたが呆気なく少女のそばにいた男性に軽々と持ち上げられてしまいました。

10歳を超えたあたりから食事回数だけでなく食事量も減らされていたので持ち上げられた時に掴まれた部分がキシキシと痛み、泣きたくなりました。



連れて行かれた場所には白いベッドと一つの椅子しかない部屋でした。

少女の指示で少年はベッドにソッと置かれ、横たわった少年は初めてのふわふわしたベッド、その感触に少年の身体は緊張感が走ります。

そうして暫くは緊張していましたが段々襲ってきた睡魔に負け少年はいつ振りか思い出せないほど久しぶりにしっかりと寝ることが出来たのでした。



それから一日半、しっかり寝た少年は目を覚まして今いる場所にびっくりしてベッドから転げ落ち、その音を聞いてバタバタと数人の大人と少女がやって来ました。

少女はホッとした顔を浮かべ、白い服を着た大人達に指示を出し、少年のそばに白い髭を生やした大人が近寄りました。

彼は大人は叩いたり殴ったりするものだと両親を見て育ったので力の限り抵抗したんです。

小さな小さな初めて出来た抵抗でした。



白い服を着た大人達は悲しげな表情を浮かべました。

少年が弱々しくも腕を振って抵抗する事で薄汚れた古着の裾からチラチラとアザや切り傷、痩せ細り皮と骨しか無い腕が見え、虐待されていた事が分かったからです。

白い服を着た大人の人は少年の心が少し落ち着いてから診察した方がいいと話し合い、食事についてや怪我について説明をして帰って行きました。

内容としてはいきなり濃い味のものや揚げ物はお腹がびっくりするだろうから最初はパン粥のようなものを少しずつ与える事、着替えの際に怪我している場所や怪我の状態の把握といったもの。

少女や周りにいた大人達は理解して頷いていましたが少年は全く分からず、抵抗するのさえ疲れて横になりました。




それから少女や少女の周りにいた大人達のおかげで少しずつ少年は元気になりました。

もう皮と骨だけの腕でも薄汚れた服でもありません。

まだ両親に似た背格好の大人には警戒してしまいますが白い服を着た大人達とのやり取りも出来るようになりました。

彼は暴言以外ほぼ聞いたことが無かったので言葉を覚えるのには苦労しましたが、若さもあり早く覚えようという意思があったので周りのサポートにより日常会話程度なら問題なく出来るようになったのです。


それから彼がある程度元気になったので少女や少女の両親と共に神殿へ向かい、スキル鑑定をして貰いました。

そこで少年は初めて自分の事を知りました。


名前は無く、12歳。

スキルは『ダスクボックス』


10歳になるとスキル鑑定を行うことが義務付けられている為、スキルを知っているだろうと少女が質問し、少年がスキルを知らなかった事から急いで行われたスキル鑑定。

名前すら無かったことを知った少女の両親は青ざめ、少女が彼の名前を付けてあげました。

彼女のアルフォルト伯爵家から取ってフォルトと。

彼はおい!とかこのクズ!とか呼ばわりが日常だったので新しい名前に胸がぽかぽか温かくなるのを感じました。

正直この時は皆、スキルより名前に意識がいっていました。



スキル鑑定の一件から少女の両親は彼に養子にならないか?と持ち掛けましたが少年は優しい彼女の両親がもし自分の両親となったらまたあの頃のように暴力を振るわれるのでは…?と怖くなり養子の話を断っていつまでも伯爵家にお世話になるわけにはいかないと家を出ることを決めました。

そして近々家を出る話をして今までお世話になった方々へ挨拶回りをしていたら少女からせめてスキルをきちんと使える様になって仕事を見つけてからじゃないとまた道端に倒れるわよって怒られて彼はスキルを試してみることにしたのです。


ダストボックス、要はゴミ箱という名前のスキルに彼は自分にぴったりな名前のスキルだなって思いました。

そして少女は要らない紙や欠けたコップを少年の前に置き、これらはもう要らないからスキルを試すときに使っていいよって言いました。

彼がスキルを浮かべながら手を翳すとそれらは全て最初から無かったかの様に無くなってしまったのです。

何度も試していく内に何でも捨てることは出来るけど取り出すことは出来ない事に気付きました。

その様子を見ていた少女は彼に尋ねます。

暴力を振るった両親をスキルで消したいかを。

彼は首を横に振り、そんな事よりも仕事を探したいと答えました。

少年はそれから少女の屋敷にあった不用品を全てスキルで処分してお別れを言いました。


少女の屋敷を出た少年は冒険者ギルドに登録して自身でも出来そうな依頼を探します。

討伐の依頼は討伐証明部位の提出が義務付けられており、少年が出来る依頼は草むしりとゴミ屋敷の清掃くらい。

受付に確認をとった後、少年は二つの依頼をささっと終わらせギルドに戻りみんなを驚かせました。

一日ですっかり綺麗になったので残った依頼は討伐依頼だけ。

少年は虫さえ殺せない性格だった為、受付の方に草むしりやゴミ処理のような全て捨てていい依頼があれば教えてくださいと頼み、出来る依頼をコツコツと頑張ることにしました。

…とはいえ一年経っても討伐依頼を受けない少年に対して副ギルド長は討伐依頼を受ける様に勧め、少年は討伐証明部位を提出出来ないから討伐依頼は受けないと断りましたがそれでも討伐依頼を!としつこかったのでスキルで討伐依頼の紙を消し去りました。

これで討伐依頼を勧めてこないだろうと考えた少年に副ギルド長はスキルに目をつけ圧力を掛けて、とある仕事を彼に押し付けたのです。


彼はしたくないと必死に訴えましたが一部の腐敗した大人が彼を監禁して仕事をしないなら食事は無いと言って少年がスキルを使うように躾けたのです。

虫さえ殺せない少年に副ギルド長が押し付けた仕事、それは死刑執行人という仕事でした。


少年は少女に会う前のような生活に戻りました。

否、食事はおろか服さえ与えられず仕事を拒否した彼は武器で殴られ刺され最低限の治療のみされ、支えは少女との思い出のみ。

いつしか何故自分ばかりこんな目に遭わなければいけないのかと少年は仕事を受ける事にしました。


一度人を処分して仕舞えば後は淡々と繰り返すだけ。

血の後処理も死体処理もいらないから一部の人間からの評価は高かったけど、仕事を拒否していた時の彼らの言動をよく知る少年は評価なんてどうでも良かったのです。


淡々と仕事をこなす少年はやがて遅めの成長期を迎え、声変わりした少年は青年になりました。

死刑執行人として四年が経った頃、青年はいつも想っていたマルカ・アルフォルト伯爵令嬢と再会を果たしたのです。

彼の仕事場、つまり死刑執行場で。


青年も彼女も一目見てお互いに気付き、会えた喜びと絶望を同時に味わいました。

お互い何故ここにいるのか分からなかったからです。

それでも最期に手を下すのが彼で良かったと彼女は思ったし、彼は彼でようやく恩返しが出来ると思いました。

スキルは使えば使うほど能力が上がり、思い通りに使えるようになります。

青年は彼女にはスキルを使わず、周りにいた者全てに向かってスキルを使いながら彼女の手を引き非常口から脱出しました。


彼女以外の見知った人間を片っ端からスキルで消しつつ、人気のない場所まで避難した彼は死刑執行に至った経緯を彼女に尋ねます。

語られた内容は婚約者と婚約者の浮気相手から嵌められて冤罪を掛けられ婚約破棄した話でした。

彼女に婚約者がいた事実に胸がチクチク痛くなりながら着ていたローブを彼女に被せます。

彼はこの時初めて彼女への恋心に気付き、いくら犯罪者相手とはいえ人殺しの自分がこんな淡い恋心を持つには相応しくないと気持ちを隠すことにしました。


そして深呼吸をして落ち着いた彼は彼女へ尋ねます。

昔、スキルが分かった時に彼女が彼に尋ねたように優しく尋ねる事を心掛けて。


冤罪を掛けた元婚約者や浮気相手、援護してくれなかった周りをスキルで消せるなら消したいか…と。



ご覧頂きありがとうございます。


もし彼が知らない内に彼女が処罰されて後で知ったなら…どうなっていたんでしょうね。

仕事をしないと抵抗はするけど、死刑執行の仕事を振ったり暴力を振るう相手を彼はスキルで消さないんですよ。

あくまで彼女が関わらなければね。



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他にもお話を書いているのでそちらも良ければどうぞ。

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