09 遊園地
「佑! 佑! ジェットコースターもう一回!」
「……奏子は、元気だな……」
「なあに? もしかして馨くんがそろそろ限界? じゃあ一休みしましょうか。そうだ三人でコーヒーカップとかどう?」
佑は馨くんから離れたが、馨くんも乗り気で無さそうな表情だ。
「奏子きっと物凄い勢いでカップを回す、俺にはわかる。一休みにならない」
「まあ、人聞きの悪い」
「ちょっとメリーゴーランドにでも乗って来いよ、俺ら手振っててやるからさ」
そうさせてもらった。わたしは回るたびに二人に呼びかける。二人はそのたびに応えてくれる。――こうして見ると、凄く仲良しっぽいな。佑が馨くんになら乗り移れるのは、相性が良いからなのだろうか。してみるとわたしと佑の相性は良く無い……? いやそれはとても悲しいので考えるのは止めよう。
「わたしばっかりはしゃいで、ごめんなさい」
『僕は楽しそうな奏子を見るのが嬉しいんだよ』
優しい佑は、いつもそう言ってくれる。
馨くんがジュースを三本、買って来てくれた。わたしが半分程飲んだところで、佑が馨くんに声を掛け、馨くんは佑の分のジュースを開けて自分とわたしに半分ずつ注いだ。
「ありがとう。後でジュース代、払う」
「要らねえよ。つかせめてそのくらい出させろよ。入園料から何から任せっ切りなんだからさ」
佑は待っていると言うので馨くんとジェットコースターに乗った。馨くんは案外平気そうだったので、続けてもう一回。佑が呆れている。
「観覧車は三人で乗ろう」
馨くんとわたしが向かい合い、佑はわたしの隣だ。でも時々、わたしの顔が見える方がいいかな、と言って、移動したりする。
『幽霊だからゴンドラ内を歩き回っても揺れない』
「こっち来なくていいし」
「幽霊って言わないでよ」
『それで奏子、次は何に乗りたい?』
「んー、ホラーハウス」
『……僕は外で待って居ようかな』
「幽霊なのに怖いの?」
『幽霊って言うなよ』
「あんたら、自分で言うのは良くても、相手に言われるのは駄目なんだな」
わたしたちは黙った。
「いいじゃねえかホラーハウス。佑、一緒に入ってやれよ。カップルの定番だろ。それに手繋いでてやらねえと奏子きっとまた転ぶぞ」
「……わたしが転んでばかりみたいに言わないでちょうだい。でも……いいの?」
「俺は佑の奥で目瞑ってるから問題ない」
「怖いんだ?」
「そういう事にしとけ」
観覧車を降り、わたしは馨くん――佑と、手を繋いだ。
「行こうか」
佑が笑う。
◆ ◆ ◆
それからわたしたちは、いろいろなところへ出掛けた。一人では行き難いところ、そうで無いところも。佑が馨くんを鍛えると言うので運動公園にも行った。わたしはサンドイッチをたくさん作って持って行った。一人でのんびりしていてずるいと言われたので用具を借りてテニスをした。佑にも馨くんにも勝てなかったけれども、体を動かすのは楽しかった。
佑は、家庭訪問、と言って、馨くんのお宅を訪れ――入り込んでいた。わたしはついて行く訳にいかないので、近くの喫茶店で待っていた。詳しくは聞かなかったが家庭の事情もあり馨くんは居づらい思いをしていたらしい。そのへんも含めてどうにかしたいな、と佑は呟いていた。
「奏子」
馨くんのまま、佑がわたしを呼ぶ。
「寄り道して帰ろうか?」
「ここ……やだ」
「奏子」
どうして佑はわたしをこんなところへ連れて来たの。ここは事故現場だ、わたしと佑の。ガードレールはまだ曲がったままだ。誰が供えたのか、少し枯れかけた花。
血塗れの佑を、わたしは見たような気がした。
「やだ!」
わたしは佑の手を振り払った。馨くんの姿が二重写しのようになり、佑が離れたのが見えた。馨くんがわたしを支えてくれる。
「奏子、大丈夫か? ――佑、何を考えてやがる」
馨くんはわたしを家まで送ってくれた。佑はずっと黙っていた。三人きりになってようやく、口を開いた。
『ごめん、奏子。たぶん君はまだあの現場を直視出来ないだろうと思った――無理に連れて行けば倒れるかも知れないと思っていた。それでも、いやだからこそ、行ってもらわなければならなかった。それも、馨と一緒に』
「どういう意味だよ。内容によっちゃ俺だって黙ってねえぞ」
馨くんはわたしの手を握って居てくれる。「たすく」佑がいいの。わたしの恋人。いつもなら手を添えてくれるのに。
『奏子。……来週末は、十九日だね?』
そうだ。佑の実家を訪ねる日。
『馨を連れて行くよ』




