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07 正当防衛

 馨くんの住む街は、わたしたちの住む街よりも少し手前だ。途中下車して、彼を送り届ける事にする。……送り届ける?

「長時間憑依したから、離れたら馨は倒れるかも知れないし。安全のため自室まで同道する。でも奏子に一緒に来てもらう訳にはいかないから近くで少し待っていて欲しい」

「というかもしかしたら、わたしと並んで歩いているの、良く無いのでは? 馨くんの知り合いに見られたら、誰? って思われる」

 言う傍から、声が掛かった。何やら柄の悪そうな高校生くらいの男子数人だ。佑を――馨くんを、取り囲むようにする。

「どこ行ってたんだよ。金、持って来いっつったろ」

 苛め? 犯罪では?

「何だよその反抗的な顔は。俺らに逆らえねえのわかってんだろ。早くしろよ」

 標的が知り合いという以前に、大人として、見過ごしてはいけないのでは。わたしは前に出ようとした。なのに他ならぬ馨くんが――佑が、止める。その様子を見て、高校生たちが品の無い笑い声を立てた。

「おばさん、誰。俺らの邪魔すんなよ。ってか何? もしかしてこいつの事、気に入っちゃってたりしてんの? うわ、キモッ!」

 わたしは高校生たちの貧相な語彙力に呆れただけだったが、佑は違ったらしい。急に温度が下がった気がして、わたしはちょっと、たじろいだ。「奏子」小声で、呼ばれた。「悪いけど少しだけ、荷物、持ってて。あと、離れてて。騒ぎになっても知らない人の振りをして」え、何?

 佑はわたしを後ろに押しのけるようにして、進み出た。その堂々とした態度に、高校生たちは訝し気な表情になった。

「何だよ偉そうに。また仲良くして欲しいのかよ」

「仲良く。――仲良く、ね」その声音の冷たさに、気づかないのだろうか?「君たちはいつでもそうして来た訳だ。大勢で、役割分担か。実行役以外にも、見張り役、押さえ役、アリバイ作りの言い訳要員。ああ今は見張り役を配置する暇が無かったね、それでも仕掛けて来るとは浅はかな事だ」

「はあ?」

「そもそもどうして標的をかお――僕に定めたのかな? いかにも僕は幼少時いささか良く無い噂があった、虚言癖ありと一部で言われていた」それは、幽霊が見える事か。家族にも信じられていないと。「だがそれから時間が経って、高校では、もう知る人も無いはずだった。それをわざわざ君たちがほじくり返して広めた。何のために? 僕を貶めて、何のメリットがある?」

 馨くんはきっと、彼らの暴力に怯えて、言われるがままだったのだろう。その馨くんが、立て板に水と喋り続けるので、彼らは呆気に取られている。その様子は、わたしが反論した際の上司によく似ていた。

 佑は笑った。馨くんの顔で。だけどあんなに冷たい笑顔、わたしには一度も見せた事が無かった。

「生憎だ。いかに僕を苛めて憂さ晴らししたところで、あの可愛い彼女は君とお付き合いはしてくれないよ? 彼女は僕を格好良いと言ったらしいね、だから僕の評判を落として、無様な姿を見せつけようとしたんだね。まったくその努力は見当違いだ。知らないのかい? 彼女は、君のような痘痕面は近寄られるだけで蕁麻疹が出るって言っていたよ」

 先頭に立っていた面皰の多い高校生が、喚き声を上げた。佑に掴みかかろうとする。佑はそれを難なく()けた。「あと頭の悪い人はお断りだとも言ってたよ」駄目押し! 他の高校生も追随するように動き始めたが、佑は軽やかにそれらを避けた。余裕綽々、まるで踊っているみたいだ。そんな場合では無いのだが、わたしは、見惚れた。

 通行人が何事かと足を止め、遠巻きにしている。だが頭に血の上った高校生たちは気づかない。佑は繰り出される拳を避けたり、時には受け止めたりしながら、何かを測っているようだった。

「大勢で一人をよってたかって、君たちこそが何よりも格好悪い。もてないはずだ」

 激高した一人が、何かを取り出した――ナイフだ! 佑の背後で振り翳される。わたしはあらん限りの力を振り絞り、叫んだ。「きゃああぁぁ――っ! 人殺しー! 誰かぁーっ、おまわりさーん!」

 佑が振り向きざま、足を振り上げた。ナイフを掴んだ手を、あやまたず蹴りつける。

「正当防衛だ!」

 そして容赦無く殴り飛ばした。面皰の多い、リーダー格の高校生を。


 駆けつけた警官たちによって高校生たちは取り押さえられた。通報するまでも無かった、駅の近くには交番があるものだ。佑が目配せをするので、わたしは他人の振りをするよう言われたのを思い出し、顔を伏せて鞄を抱えたままじりじりと離れ、手近なベンチに腰を下ろした。

 佑は恐らく計算ずくで、高校生たちを煽った。材料は馨くんから聞き出した? 推測を加えた、もしくは、はったりか。いずれにしろ高校生たちは、佑の思惑通りに凶器を持ち出し、言い逃れ出来ない状況に追い込まれた。交番の中の様子はわからないが、わたしには想像がついた。佑はきっと徹頭徹尾、哀れな被害者として振舞う。高校生たちにはきついお灸が据えられるだろう。もう馨くんに手出しは出来ないはずだ。……でも、時間が掛かるだろうな。わたし、どのくらい待っていればいいだろう。

『奏子』

 佑の声で、呼ばれた。顔を上げると、佑だ。馨くんは?

『様子見に一度離れたら、拒否された。後は自分で対処するってさ』

 でも、この後が大変なのでは? 親を呼ばれたりして。

『これ以上好き勝手に振舞われると後で整合性を保つのが大変だと言われてしまった。一理ある。僕もあまり奏子を待たせたくなかったし、了承した。――帰ろうか? ごめんね、荷物は持ってあげられないけれども』

 そんな事は、いいのだが。

『一つ、君に謝らなければならない事がある。勝手に来週末のアポを取ってしまった。君を訪ねて来るようにと――住所も教えてしまった』

 それは同調した時点で通じているのでは。今の佑の居場所なのだし。わかった、じゃあ帰りましょう。わたしたちの住まいに。

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