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13 necrogamy

 神妙な顔で、出迎えられた。何故か、おとうさまも一緒だ。難しい顔をなさっている。

「奏子さん。うちの人とも相談したの。勝手な事をと怒られたけど、でも説得したわ」

 何を? というかご本人の前で、それを仰る?

「当人の意思が第一だから絶対に押し付けてはならないって釘を刺された。それで見張られてるのよ」

 それは……仲良しで何よりです、とでも言うべき?

「奏子さん。迷惑なら素直にそう言ってちょうだい。私は、あなたが毎月訪ねて来てくれて嬉しかったの。心待ちにしてたわ。こんないい娘さんが佑のお嫁さんで来てくれたら良かったのにって思ってたわ」

 息が詰まった。

「過分な……お言葉を……ありがとうございます」

 深々と、頭を下げた。涙が溢れる。佑。わたし佑のお嫁さんになりたかったの。

「これ、からも……、わたしが、佑さんに会いに来る、事を、許して、いただけます、でしょうか……」

「奏子さん、奏子さん」

 おかあさまが焦ったようにハンカチを差し出してくださる。

「会いに、だなんて。私たち、あなたに提案しようとしてたのよ、ここに住まないかって。一人で、その、大変でしょう。手助けを、させてもらえないかって」

 ……え?

「で、でも、わたしは、」

「子供の父親が誰かなんて訊かないわ。その子はあなたの子、それでいいのでしょう?」

 思わず、お腹を押さえた。

「わたし……わたしの子です。ちゃんと産みたいんです。そうしなければ、駄目なんです」

「そのためには環境が必要よ。一人じゃ産気づいたって病院にも行けない。私これでも一応は三人を育てたから、少しは力になれると思うわ」

 おとうさまを見た。相変わらずの顰め面で一言も話さないが、頷いてくださっている。

「でも、でも、ご迷惑では、それに周囲が何と言うか」

 身寄りの無い孕み女を引き入れるなど、外聞が悪いにも程がある。

「私たちの方からお願いしている事なのよ。言いたい人には言わせておけばいい。でも奏子さんを悪く言うような相手には私がちゃんと言い返してあげますから、安心して?」

 あ、安心……? 出来るのか? そういえばこの方は佑のおかあさまだった。わたしを(けな)した高校生を物凄い勢いで殴り飛ばした佑の姿が思い出された。


 洗い浚い白状させられた。そんな感じだ。親族関係。資産状況。ついでに交友関係も。おとうさまは難しい表情のまま、重々しく仰った。

「それで子育ては無謀と言わざるを得ない。頼れるものは頼りなさい。そして()()は乗り気だ」

 ご自身の配偶者をこれ呼ばわりするのは、どうなのか。そう考えたのが伝わってしまったのか、おかあさまが笑う。「この人は口のきき方を知らないのよ、いい歳してねえ。奏子さんが指摘してあげるといいわ」そんな事、出来るはずが。「一緒に暮らすなら遠慮は無用よ。というか遠慮してたら続かない。何でも気兼ね無く言ってちょうだい。こちらも言うわ、すぐにでも引っ越していらっしゃいって」


 示された場所は離れで、かつて佑はそこで生活していたらしい。

「そんな、とんでもない、佑さんの大切な思い出を」

「奏子さんが、死んだ人が使っていた部屋なんか縁起悪くて嫌だって言うなら、無理にとは言えないけど」

 わたしは大慌てで否定した。

「いきなり同じ屋根の下も気詰まりでしょう。洗面は付いてるけど食事とお風呂は母屋になっちゃう、それでもいいかしら?」

「いい、だなんて。あの、わたし、家事お手伝いさせていただいても……?」

「食事の好みとか、色々話し合う必要がありそうね。そのためにも、早々に荷物を持っていらっしゃいな」


     ◆     ◆     ◆


 アパートを引き払った。おとうさまとおかあさまは、あるもので良ければ、と仰りつつ、何もかもを取り揃えてくださった。わたしはほぼ、身一つで良かった。大半を処分して、持って行ったのは多少の着替え、それと、どうしても捨てられない思い出の品――佑との。

 出先で陶器市が立っていたので、覗いた事があった。わたしはお揃いの食器が欲しかったのだが、佑は、置く場所そんなに無いしね、と濁した。半人前しか盛らないので、どうしても、見映えが悪い。

「これくらいなら、どう?」

 わたしは箸置きを指し示した。佑は少し興味を惹かれたようで、手近の一つを手に取った。

「可愛い。羽根の形。それにする?」

「でも奏子は、こっちかな」

 佑が選んでくれたのは音符マークが付いたものだ。「奏子って、いい名前だよね」「名前負けよ。楽器なんか全然出来ないから」「奏でるのは音楽に限らないよ。奏子は人の心を鳴らす。当人も思ってもみなかったような美しい音でね」佑の言う事は時々わからない。

「……馨くんの分も、選ばなくちゃ」そうだね、と言った佑が取り上げたのは、籠の形をしていた。

 それからは必ず、その箸置きを使った。平日は馨くんが居ないが、それでも並べた。フォークとスプーンの日でも。

 わたしは一つだけ、おかあさまとおとうさまにお願いした。佑の写真。いつでも見える場所に飾り、その前に、箸置きを三つ、並べる。

「佑。わたし、佑のお嫁さんになったよ。……そう思って、いいよね? ありがとう。全部、佑の御陰。きっと……元気に、産んでみせるからね」

 奏子さん、と呼ばれた。「片づけは程々にして、買い物に行きましょう。妊婦にはそれなりの服が必要よ。見立ててあげるから」

 おかあさまは日常、着物をお召しだ。拘りがおありなのか尋ねたところ、たくさんあるから消費してるだけよ、とのお答えだった。「今の人は着物を特別に扱い過ぎよ。もっと気楽に着ればいいのよ」

「……わたし、着た事が無くて」

「着てみる? 女性の着物、どうしておはしょりがあるのか、知ってる?」

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