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序章 第九話 聖女(仮面)だけど────プロレスラーと戦います

 いま咲夜と私がいるこの場所は、信じられないけれどダンジョンの中らしい。こんなに広くて、昼は明るく夜は暗くなるのに、異世界ってどうなってるの。


「ダンジョンはダンジョンのある世界に移動してるって思えばいいみたいよ」


 咲夜は簡単に言う。貴女は単純だからそれで言いけれど、私は常識人だから理解が追いつかない。それに出口へ行こうにも進めなかった理由もわかった。


「合格ラインみたいなのがあるんでしょ」


 段階を踏まされているのがわかるのが癪だ。狂ってると言われている割に、計画的。だから少し怖いと私は感じた。


「私も変な苦行受けてるけどさ、咲夜のおじじたち(ソレ)も大変そうだね」


 私のは他人からはわかる人にはわかってもらえそうだけど、咲夜のは見えないから難しいよね。


 咲夜はあまり気にしていない様子だけれど、おじじ達ってアドバイザーでありモニター役を務めているんだと思う。目的はわからないけれど、ずっとおじじ達を通して見られていると考えていいと思う。


 私がまともに動けなくなったので、咲夜は探索を切り上げた。いちいち私の事は嫌いなんだけど、と前置きして優しくしてくれる。


 魔本の拠点は私達がいた世界のキャンピングカーより便利だけど、いちいち隠すのが大変だ。擬態機能でもつければいいのにと咲夜と二人で愚痴をこぼした。


 ◇


 昨晩と同じように咲夜と私の食事は用意されていた。今晩はお肉だ。なんのお肉かわからないし、大量のコブリンの残骸を見たあとで食欲が進まない。


「贅沢よね、お肉とか。このダンジョンって、本当に殆ど何もないんだから」


 異世界全てがこのダンジョンのように、荒野というわけではないと言う。だから食べ物を得られるだけありがたいのだと言う。


「私は野垂れ死んだけどね」


 あれはトラウマだよ。やったのは咲夜だし。ただおかげで食べられる事のありがたさを私も思い出した。


 ◇


 翌朝、咲夜から魔晶石と魔銃を追加で渡された。ゴブリンから大量に得た魔晶石の欠片は、スマイリー君と呼ばれるぷにょぷにょが成型し直していた。


「一つは護身用よ。近づけない相手に使うのもありよ。充填に少し時間かかるから二丁あれば交互に使えるでしょ」


 ゴブリンだけなら二人ともぶん殴りまくり戦える。でも何体か強くて身体の大きい個体がいる。出口にはさらに大きくて強い個体がいると教えられた。 


「それを倒せば帰れるのかな」


 すでに死んだことになっているのなら、私達には帰る世界はない。


「咲夜は、たぶん行方不明扱いだよ。私はわからないや」


「その身体は別として来たときは裸だったんなら、身体ごとやって来ているから聖奈も行方不明扱いかもね」


「そっか。なら帰れるかもしれないのね」


 私はうつ向いた。正直……あまり戻りたいわけではない。戻ったって私を待つ人なんていない。せいぜい信吾に復讐したい程度だけど、あいつもこっちへ来てる可能性は高いみたいだ。


 ◇


 咲夜と私はダンジョンの最奥って所まで進む事が出来た。


「……って、ずっと荒野じゃない」


 思わず私は突っ込んだ。咲夜もそう思うのかうなずく。


 見えない壁とか境界みたいのがあるらしい。ゲームとかにある見えない壁だね。ダンジョンによっては小さな星やドーナツのような造りになっていて、ぐるっと周る事になるみたい。


 この荒野のダンジョンは入り口と出口の決まっているタイプだ。広い所にあるダンジョンにしては珍しいらしい。


 咲夜の表情が急に引き締まる。口元に人差し指をあて、私に進む先を見るように促す。


 象が立ち上がったような大きさのゴブリンがいた。


「キモゴブの王様だってさ」


 ゴブリンキングも咲夜にかかるとキモゴブと一緒のようだ。まだこちらに気付いた様子はない。


 私の背丈の三倍はありそうな大きなゴブリンキングに、おとぎ話に出てくる魔法使いのおばあさんみたいな格好のゴブリンが二体付いている。


 あれ、なんか咲夜みたいにブツブツ呟いてない?


「聖奈、魔法が来るよ!」


 ゴブリンの頭くらいの炎の玉と、氷の玉が咲夜と私に飛んできた。気がついていたみたいだ。咲夜は炎の玉を殴りつけるように止めて、私はハンマーで氷の玉を叩いた。跳ね返された氷の玉は、砕けながら大きなゴブリンキングへぶつかった。


 あの巨体だから痛くはないだろうに、ゴブリンキングは怒って魔法を使うゴブリンを殴り飛ばした。

 

「あれ、咲夜より頭悪いんじゃない」


「失礼なことを言うわね。キモゴブの王様は頭がいいって」


「バカなふりをして、誘ってるわけね」


 ただでさえ大きいのに、頭もいいとか厄介なのね。


「なら……まずは距離を活かすよ。残りの魔法使いをやって」


 咲夜が他にも隠れているゴブリンの位置を教えてくれる、そして次々と二人の魔銃で隠れていたゴブリン達を倒した。


 でっかい身体のゴブリンキングが悔しそうに喚きながら走ってきた。地響きが聞こえてきそう────えっウソ、跳ぶの。


 咲夜が私の身体を抱えて横に飛ぶ。私達のいた所に巨体が身体を広げて押し潰すように落ちて来た。


 うっわ、なんかプロレスラーみたい。


「あんなにでっかいのに素早くない?」


 象だって怒れば怖いというけど、飛んだりしないもんね。


「あれは身体にかける魔法なんだって」


 ゴブリンでも王様って言うくらいだから魔法くらい使えるんだ。魔物はみんなこうなのかな。


 私はゴブリンキングの着地の衝撃で吹き飛びながら、咲夜の目を見た。潰されずに済んだだけ良かったから気にしないでほしい。それに……


「でも隙が出来たよ」


 咲夜は私からすぐにゴブリンキングへと焦点を切り替えた。倒れ伏す巨体にうまく入り込んで、硬直した脇腹に強力な肘打ちと、回転しての裏拳を叩き込む。


「グギャゥ!!」


「「叫び声キモ!!」」


 咲夜と私の声がハモった。あのぶっとい腕に捕まったらおしまいだ。咲夜がすぐ距離を取り、魔銃の弾丸を顔面にぶち込む。ゴブリンキングがバランスを崩して、ガクッと膝をつく。


 私も追撃とばかり、でっかい頭へ向けて野球のスイングのようにハンマーでぶん殴った。膝をついても頭の位置は高いのでジャンプしながら。


 ゴンッ!!


 鈍い音がしたけれど、ゴブリンキングの頭部は硬かった。ゴブリンならスイカが破裂するみたいにカチ割れたのに。


 私は咲夜に後を任せて後退する。咲夜は呻くゴブリンキングの開いた口に魔銃の弾丸を連発して撃ち込み、トドメを差した。


 咲夜が魔晶石を回収して、ゴブリンキングとの戦いは終わった。


「怪我はない?」


「少し擦り剝いただけ」


 私についた擦り傷を見て、咲夜が消毒し、回復用の薬を塗ってくれた。


「これで、終わりなんだよね」


 私は息を少しも乱しながら、不安そうに言う。ゲームとかのお約束とかフラグが立ってしまう気はする。でも、言いたくなるんだと、そういう状況に置かれて知る事が出来た。


 咲夜も表情が曇っている。咲夜に憑いている、いつもうるさいおじじ達が質問すると黙ってしまうらしい。咲夜の様子から、このまま簡単に終わるとは思えないようだ。



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