序章 第八話 聖女だって言う前に────ただの女子高生なんだよ
立花 咲夜の生まれは私達と同じ世界。でも彼女の母親が異世界人だった。
咲夜があまり記憶力ないので不明な点が多いのだけど、もともと父親の立花健一が異世界転移に巻き込まれたのがきっかけなんだそうだ。
彼女の母親はサンドラと言う、金髪の美しい人だ。私の事など顧みず邪魔にしか思っていない母親も、咲夜の母親には何故か懐いている。母娘してアレな感じがするよね。
私が捻くれてしまった要因は唯一の味方のはずの母親が咲夜達ばかりに目を向けるせいもあった。今は母親が咲夜家に依存するのもわかる気がする。
そりゃ、こんな世界から来たのなら、精神的にタフになるって。ここはゴブリンばかり出るけれど、危険な魔物がたくさんいるそうだ。
「聖奈! ボーッとしないで。いっぱい来るよ」
出口に向けて咲夜と私は探索に出た。出口に向かうほどゴブリンの数が多いらしく、咲夜一人で捌けなくなっていた。猫の手も借りたいようで咲夜が指示をする。
「聖奈、キモゴブがいっぱい来る。あんたも最初は魔銃でやっつけて。ゾンビ撃つやつみたいに」
咲夜とやったゲームだね。でも、これは現実だ。
「コツはあいつらを信吾だと思うこと。一回の連射は六発だからね」
咲夜がフンスッと、鼻息を荒くして得意気な顔をする。昔から知っている事を教える時の癖だ。咲夜は咲夜で、自分がお利口さんでないのがコンプレックスだったからね。
引っかかるのは咲夜が最初にこの地に来た時にゴブリンを私だと思って殺っていた事ね。そのせいで私=キモゴブって強く認識したんだから。
戦闘中に指摘すると喧嘩になるので黙っておく。何より憎いやつと思うと怖くない
咲夜の言われるままに魔銃を使うのは構わない。ただ使い方の説明は下手だ。ロックの外し方と、弾丸の補充の仕組みと、属性切り替えなどあるのに「使って覚えて」だもん。
────ゴブリンが十数体もまとめてやって来た。咲夜と私は、魔銃を構えて静かに待った。
「ちょっ咲夜助けて! 噛まれる!」
なんだかわからない叫び声の集団に私は怯んでパニックってしまった。魔銃には適正距離があって、もっと引き付けて撃てば命中補正がかかるんだとか。
でも……あれは怖いよ。私は焦ってしまい、咲夜の静止も耳に入らなかった。でも六発全部撃ち込み、一体倒した。先に抜けて来たゴブリンが迫るけれど、咲夜は足蹴にしてふっ飛ばしていた。
咲夜が私を助ける度に自慢気になるので、ムカつくけど可愛い。咲夜ってスポーツやらせると、活き活きするのが改めてわかった。
戦いの時間は長く感じた。咲夜は時折魔銃でフォローしてくれる。彼女自身は返り血を浴びる前にゴブリンから離れているけれど、私は目の前で爆散するコブリンの色んなものを浴びて臭かった。
戦い方については、一度咲夜と相談する必要があるよね。見捨てられないとわかったので、助けてくれるだけでいいけどさ。
私のハンマーも怪力手袋との相性なのか、当たったゴブリンの潰れ方はエグかった。
「────こんのぉ!」
群がるゴブリンをハンマーを振り回してまとめてぶん殴る。ゴブリンを信吾だと教わって正解だった。あいつに会ったら何がなんでもぶっ飛ばしてやろうっていう気になるものだ。
それに咲夜がチラチラと私を気にする目を見せる。私の性分は嫌いなんだろうけど、相容れないからこそ咲夜の直感が私の必要性を訴える。
聖女候補だろうと私のような女の腹黒さは、咲夜にはないからね。図々しさでは七菜子にも負けないはずだよ。だから、ここで咲夜と一緒なんだと思えた。
たぶんあの変な女の人は私の同類だから、嫌がらせしつつも気にかけてくれたのだ。咲夜の弱点は素直過ぎる事だから、私のようなやつがいた方が安心出来るはずだ。
好きなやつが出来たら、私はまた咲夜と喧嘩して、裏切って、口を効かなくなるかもしれない。咲夜とかち合う事の出来る女は、きっと私だけだ。
──それにしてもゴブリンの数が多い。咲夜と違って私の身体は特殊なはずなのに普通だから疲れが出始める。手袋のおかげでハンマーは持ち上がるだけで、振り回す筋力は私自身の力ってよくわかった。
それに咲夜を通して教えてもらったけれど、この身体は魔力を使うそうだ。ダルさは魔力切れの合図。休めば回復するみたいなんだけど、こうも連戦となると戦闘素人の私は無駄に力を労費してしまうようね。
「だぁ〜、咲夜。おじじにかまってないで援護お願いよ」
咲夜が私を観察したまま動かないので助けを求めた。十数体のゴブリンの後に、もうワンセットおかわり……のゴブリン集団に囲まれて私はぶっ倒れた。
ゼハーッゼハーッと呼吸が乱れて荒くなる。これ、精巧な人形なのに本当に欠陥多くない?
「ヘンじいが言うには、魔力を使って身体を動かす事で、魔力を鍛えて増やしてるんだってさ」
「ヘンじいって、咲夜に憑いているおじじ達の一人だよね」
「内包魔力がなんとかかんとかって」
咲夜にはそれ以上の伝達は無理だったみたい。多分問えば詳しく答えてくれるのだろうけれど、伝言ゲームの中間が咲夜の時点で詰むよね。
「絶対あの変な女の人の嫌がらせだよ」
咲夜と違って、私は普通の女子高生だよ? 悲惨な死に方をしたのに、さらに何度もぶっ殺されて、狂ったようにゴブリンをぶん殴り回るのが私達の青春。
咲夜が何かブツブツ言ってる。たまに私を見るので何とか説明をしようとしてくれているのかな。
「あたし、やっぱあんたの事は嫌い。でも気力を振り絞り吠えてる姿は好きだよ」
大量のゴブリンで、血染めの大地と化した光景を前にして、肩を抱き合う女子高生達。なかなか出来ない体験だけど、喫茶店でお茶して、昨晩のドラマについて話し合っていたかったかな。