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序章 第五話 聖女だからって────良い子ちゃんなわけないじゃないの

 魔法がどういうものなのかわからないけれど、私は再び咲夜のいる近くへ現れた。ゴブリンの数が増えていて、そのまま近づくとまたブン殴られて殺される。


 だからまずは近くのゴブリンを倒す。


「……って、見つかっちゃっただけなんだけどっ!」


 クソ重たいハンマーは私では簡単に持ち上がらない。振り回さず、少し勢いをつけて自分の身体を軸に遠心力でハンマーをぶつけたのだ。


「グギャァァァ」


 ハンマー投げ選手の要領を真似て、みたけどうまくいった。当たれば普通に痛いし、当たりどころ悪いと死ぬ。私は力はなくても、握力はそこそこあった。自慢じゃないけど咲夜によく縋りついていたから、握る手に力が入ったんだよね。


 情けないけれど、それがいまの私。咲夜に張り合うために頑張ったから勉強は出来るけれど、握力以外の身体能力は乏しい。


「でも、この身体には元の私よりも少し力がある……よね」


 ♂にされたせいかな。ニギニギって、手のひらをグーパーしてみる。やはりもとの私より力は上がっているかな。遠心力を利用するにしても、あんな重たいもの前の私は動かせないもの。


 手負いで倒れたゴブリンの頭を、私はハンマー引き摺るようにぶつけて倒した。普通に気持ち悪い罪悪感に私は吐いた。


 咲夜もそうか……あの娘もこれを体験したから殺れるのかと妙に納得した。逆に平然と人が殺せる信吾が異常なんだと改めて思った。


 ゴブリンを片付けると、私は咲夜に声をかけた。


「私よ、親友の聖奈だよ」 


 ────って。まるでオレオレ詐欺の人みたいな怪しい人みたいになっちゃった。めちゃくちゃ渋い表情をされてた。


 ────バンッ‼


 私の耳に轟く銃声。私は咲夜の魔法の銃弾で、脳天と心臓を的確に撃ち抜かれた……。


「……話し合いにもならなかった」


 合計三度目となると薄暗い石畳の部屋にも慣れる。目が慣れたからハッキリ分かる。なんで壁にズラ〜〜っとおしりを型どった飾りが並べてあるのか、どうでもいいけど凄く気になった。


 変な女の人の趣味だろうから、怖くて聞くに聞けない。


「はじめより酷くなったのに、まだ諦めないの?」


 諦めるわけないじゃない。変な女は面倒そうだ。私がいない間に首は治したみたいだ。


「もう一度……お願いします」


 死ぬ事の恐怖よりも、私の事が咲夜に認識されない事が嫌だった。異世界に来たことで、咲夜の中から私という存在が消えかけているんだと思うと悲しい。


 絶対に思い出させ、まずは謝る。だから……お願いします。


「罰ゲームで魂が擦り切れても知らないわよ」


 変な女は変な人なんだけど、そう言って彼女は私のわがままに付き合ってくれた。


 ろくに会話が成立しないまま、次も魔銃で撃ち殺された。私はようやく「上等キモゴブ」として、咲夜に特別な存在として認知された。


「…………。」


 なんだか息が詰まるように苦しい。何度でも生き返る代償のせいだ。都合良く魔法で補うのではなくて、私は自分の魂を削っているからだそうだ。


 何度殺されたって、絶対にわからせてやると思っていた。しかし思っていた以上に消耗が激しい。


 咲夜は咲夜で私を認識してくれたのに、あくまで特殊な魔物扱いだった。死んでも復活して戻ってくるから仕方ない。ただ殺さないで封じられるのは、私が困る。岩で固められた時は無駄に長く苦しみ、落とし穴ではずり落ちて転んで頭を打って衰弱していった。


「じんわり苦しめて心を折りに来ているのは、本能かしらね」


 変な女が同情的に言うけど、私はお礼すら言えないくらい辛くなった。五回目になると、私の心はもう限界間近になってしまったのだ。もう充分頑張ったよ。もともと悪いのは私だから、咲夜が逞しく生きているのがわかればそれで良いじゃん。


「まだ行くの、辞める? どうするのかしら?」


 ────魂がすり減るのはただの死ではなくて、永劫の死に繋がるのだとか。魂がなくなれば、私であるものが生きた痕跡はこの世界も元の世界からも全て等しく消滅する事になる。


 砂粒ひとつでも意志の欠片が残されていれば、存在というものは復活すると変な女は言っていた。その時はよくわからなかった。


 でも、いまはわかる。私の居場所は咲夜の隣だけ。親から見放され、クラスでは浮いていて、咲夜以外に私の事など気にかけてくれる人はいない。


 その咲夜から私の記憶がなくなってしまうのは────私自身の消滅に近しい。


「そんなの、やだ」


 悲しくて悔しくて涙が溢れた。次が最後かもしれない。身体は回復してもらっても心はボロボロ。でも、忘れて去られ消えるのは嫌だ。


 いつも咲夜にしがみついていたように、私に出来るのは咲夜に縋りつくだけだった。惨めでみっともない生き物、それが私。


「いいわね、その生への執着と自虐心。最後かもしれないなら、もっと本心と本性をさらけ出しなさいな」


 この変な女は悪魔だ。でも言いたい事はわかった気がする。まだ私は取り繕っていた。


 ────次が最後。そう思うと転移陣の中へ入る足が竦む。勇気なんてもう残ってなんかいない。振り絞り過ぎて三回目あたりでとっくに枯れていた。


「私を……私を忘れるなんて許さないよ、咲夜!」


 そうだ、思い出した。私はいい子ちゃんじゃなかった。なんで素直に謝ろうとしたんだろう。そんなの咲夜が気味悪く思うに決まってる。


 しつこくしぶとく、粘っこく絡みついてやるんだ。咲夜にはそうして嫌でもまとわりついて来た。大嫌いだったけど大好きだったんだって────咲夜に思い知らせてやるんだから!!


「うわぁ……中々歪んだ愛情ね。覚悟が決まったようで何よりね。これをあげるわ」


 上機嫌になった変な女の人は私に魔法の腕輪をくれた。嵌めてみると、ハンマーを持ち上げるのが楽になった。


 ────私は再び咲夜の後を追った。そして再び落とし穴に落とされた。魔法で固められた土は固くて、表面が柔らかい膜のようなものに覆われていた。


「こんなものーー!」

 

 落とされた穴から這い出るため、私は必死に壊そうと重たいハンマーを振り回しガツン! と打ちつけた。


 力を貰っても簡単に魔法の障壁は崩せない。それでも私は負けない。今度こそ咲夜に言ってやるんだ。


 汗だくで、惨めに涙と鼻水垂らしながら、私はハンマーを持ち上げるのもやっとになる。


 このまま置いていかれると、私がもう保たない。孤独と衰弱による苦しみは、精神を必要以上に摩耗させる。身体は蘇生してもらったとしても、飢えて死ぬまでの時間まではリセットされないからだ。


 咲夜が頭上から様子を見ている。私の恥も外聞も捨てた姿に、ようやく何かを感じてくれたみたいだ。


 でも強力な魔物を捕らえる為の罠なのか、魔法の障壁は無情にも傷ひとつ付かずに私の前に立ちはだかっていた。

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