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序章 第三話 聖女枠だったのに────♀から♂へ 泣きが入り魂を捧げました

 ……絶対に無理に決まっていた。


 変な女が話しの途中で気絶したせいで、本当に身ひとつで私は異世界の何もない荒野に放り出された。


「身ひとつって、丸裸で荒野に乗り出すことじゃない!」


 ────まず凄く寒い。寒いから誰もいない荒野で吠えた。あの変な女のせいでいきなり生命の危機(ピンチ)だよ。


 あとモブ男達のヲタ知識は使えない事がわかった。便利な道具もないし、他人を出し抜く知恵も、ヒャッハーするチート能力も魔法すらないんだもん。


 最初は地道に薬草でも集めて、異世界に慣れていくんじゃなかったの?


 薬草どころか雑草すらろくに生えてない荒れた土地。水も食べるものもなくて、素っ裸でどうすればいいのだろう。


 素足で歩くと足裏はあっと言う間に泥土に汚れ、刺々しい小石を踏んで痛む。心細いけれどジッとしていても寒くて、靴と着るものが欲しかった。


 私は何でこんな目に合っているんだろう。信吾に殺されたというのに、いま辛い目に合っているのは咲夜を死なせた罰?


 これは夢? それにしては生々しい現実の痛み。罰なら仕方ない。でも助けて欲しい……。私が心細い思いでトボトボと歩いていると遠くの影から声がしてきた。


 ────偶然出会ったのは、私と同じくらいの身長の人達。ボロボロに茶色の布みたいな服と、歪な形の棒のよいなものを持っている。何を喋っているのかわからないけれど、私を見つけ駆け寄って来たのはわかった。


 颯爽と現れ、助けてくれる白馬の王子様も、ハーレム勇者野郎も、偶然通るうさん臭い勘違いモブもいない。モブ男達は出鱈目を教えた責任を取って、こいつらなんとかしてよ。


 ────ただの小柄でかよわい女子高生が、丸裸で四人の気持ち悪い緑の肌の人のようなものに敵うはずがなかった。


 私は逃げた。でも足の裏があっという間に血に塗れ痛くて早く走れない。ゾワゾワするキモい叫び声と、荒い鼻息に涎を垂らして四人の雄が私に襲いかかって来た。


 臭い。囲まれて噛みつかれて押し倒された。酷い臭いと、痛み。こいつら、私を食べるか犯すかしか考えていない。


 そうだ、この目は憎い信吾のやつと同じケダモノの目だ。


 喰われ犯そうとする恐怖と、湧き上がる怒りで、私は激しく抵抗する。頑張った所で、こんな場所で生きていく自信なんかない。でも、死にたくない。


 簡単に諦めて血肉を食われ、犯されたくなくて、ケダモノ達を拾った石で殴り返す────



 ────後ろからゴンッと頭を殴られ意識を失い私は倒れた────────



 ────────……気がつくと私は再び変な女のいる、薄暗い石づくりの部屋にいた。


「……死んでないの?」


 そう思った瞬間、身体中に痛みが走ると私は意識を失いかけた。


 あの荒れ地にいたのは大した時間じゃなかったのか、簡素なテーブルで変な女は頭を抱えてまだ悶絶していた。


 目が醒めると、痛みや臭いは消えていた。相変わらず素っ裸なようで肌寒い。


 変な女は首を痛めたようで、何か白いギプスのようなもので固定していた。自分は治せないみたいだ。


「当たり所が悪かったようね。あいつら嬲るの大好きだから助かったわね」


「……いや、死んでるよね。あの状況で意識を失って助かるわけないじゃん!」


「大丈夫よ。あなたの真魂は預かってるから」


 死んでるのに大丈夫の意味がわからない。だいたいこの変な女はなんなのだろう。モブ男達の話しでは、異世界の神様とか、管理人のようなものか、たまに悪いやつがいるようだけど。


「あなた何者? 普通、強力な能力とか道具とかくれるんじゃないの?」


「普通? なんで?」


「えっ?」


 変な女なのは知っていたけれど、異世界転移とか転生を知っているのなら、わかるでしょうが。ダジャレで笑っていたくらい知識あるようなのに。


「違うわよ。何でわたしが、貴女に無料で何かあげるわけ? 生命を助けたのに?」


 私に返す言葉はもちろんない。与えられて当然だと思っていたからだ。安全そうな場所に移った瞬間、甘えた考えが浮かんでしまい嫌になる。


 ただ……無力なままの状態で、生き返らせるのなら、もう止めにして欲しい。


「それは無理ね。ちゃんと痛みと苦しみを味わってもらわないとね」


 私はうなだれた。やはり報いの地獄なのか。結局自分が苦しいから逃げたいだけなのだ。


 咲夜には謝りたいけど、それで許され助かりたい気持ちを、見透かされたようだ。


「じゃあ、話しは終わりね。魂がすり減るまで頑張れば、あの娘に会えるわよ。会ってもまあ、許す許さないの話しどころじゃないと思うけど」


 この地獄巡りが続くのはわかった。でも咲夜に会えるって……彼女も転生した?


 変な女が怒っているのはわかるけれど、咲夜に関しては言っている意味が違うように聞こえた。


「会えばわかるわ。助かりたいのなら自分でなんとかしなさいな」


 その意見も正しくて何も言えない。ただ本当に、せめて服や靴はもらえないかな。気持ち悪い緑の肌の生き物すら服を着ていたのに。


「ハードモードって言うのでしょう? たかがゴブリンだから全然ハードじゃないわよね」


 基準がおかしい。どう足掻いても勝てる感じがしない。それが目的らしいけど、それだけが目的ではない気もした。


「なら身体は取り替えてあげるわね。雌の臭い強い方が集まり良いのわかったからね」


 変な女は、私を使って実験していた。死に目に合っても助かる仕組みはわからないけれど、死なない能力なのかな。


 私を喰い、犯しにきた生き物はゴブリンというらしい。なんでも喰らうし、人のように会話もする。私は背丈が彼ら程しかなくて、弱らせ巣に連れて帰って繁殖に使われる所だった。


「へばりつく邪精のせいで、ゴブリン好みのいい女に見えたのね」


 まるで呪いのようだと言われたわけがわかった。


「待って、身体を変えるって?!」


 気付いた時には遅かった。私の身体は女の子から男の子になっていた。何かブラブラとするものが股のところに感じた。これでは別人だ。咲夜に会えても、本当にわからないかもしれない。


「あの娘は細かい事、気にしないわよ。たぶん」


 そうかしれないけど、このままだと性別変わっただけで状況に変化はない。


「流石に何度もコレを繰り返すのは厳しいので、なにとぞお願いします」


 私は額を地面に擦り付けんばかりに、変な女に頼み込んだ。この変な女は気にも留めない。頼れるのは彼女だけだと言うのに、素っ裸で差し出せるものなんて何もない。


 私に残るのは……生命、いや魂を捧げてもいいからお願いします。


 変な女がニィ〜っと、嬉しそうに笑った。やっぱりこの人、魂を求める悪魔だったんだ。


 あぁ、こうやって人は悪いやつに弱みを握られ、いいように利用されていくんだと実感した。


「失礼ね。でも邪な思いを捨てて他人のせいにするのを諦めたから、魂の輝きが変わったのよ。それなら先輩のお古と、ヘレナ用の防虫服をあげるわ。武器はそのノヴェルのハンマーでいいかしら」


 誰の事かはわからないけれど高級そうな黒いパンツに、肌ざわりの良いワンピースのような服。底面は少し硬く、全体は柔らかい素材で出来た靴をもらった。


 私は渡されたものを急いで着る。この部屋は、いつ追い出されるのかわからないから。武器は長い柄のついたハンマーだ。クッソ重たいんだけど。


 ……どうもこの変な女には嘘をつけない。ついても見破る気がする。


「何度も言うけど、あの娘に関しては期待しては駄目よ」


 わかってるよ。咲夜は私に酷い目に合わされた形で終わってるから、真相は別でも簡単にわかってもらえないと思う。


 咲夜がいなくなったあとに、彼女の事で私が酷い目に合ったにしても、あの娘には何も関係ない。


 だってその時にはもう彼女自身は死んだのか転移したのは、現実の世界にはいないのだから。


 いまの咲夜は過去の記憶を持ちながら、たまたま別の世界で生きているだけ。


 以前のように私が咲夜にいま酷い目に合っているのはお前のせいだと、文句言うのも筋違いだ。


 私の性格上、自分が辛くなると誰かのせいにしたくなる。かつて身の不幸を咲夜のせいにしたから、私は自業自得で酷い目に合った。もう間違えないよ。咲夜は私の人生を支えてくれた大切な人だから。


 この転生で私は生まれ変わった事を咲夜に伝えるために、再び荒野へと送り出してもらう。



 ────貰った武器はやはりクソ重くて、なんの役にも立たない気がした。

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