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序章 第二話 転生したら聖女枠から外れて────丸腰素っ裸で荒野に放り出されました

 私の家族は母親が一人。私の父親は不倫をして離婚したためいないかった。私が咲夜を嫌いだと思うのは、両親がしっかり愛し合い咲夜を大切にしているのを見てしまうからだった。羨ましかったのだと思う。


 いなくなって初めて私は咲夜の存在の大きさに気づかされた。自分の身の不幸の鬱憤を晴らすために、咲夜に八つ当たりして甘えていたから……慰め支えられるのが普通になっていた。


 ────私という人間(やつ)は、本当に救いようのない自分勝手だなと思った。



 咲夜が行方不明となったために、修学旅行は中断された。私達は予定を一日残して帰る事になった。


 咲夜のいない帰りのバスの中の空気は当然重い。何があったのかわからず、不安に怯える娘もいる。咲夜は私のせいで孤立していたとはいえ、嫌われていたわけではなかった。


 運転手さんやバスガイドの職員さんも自重して、必要な案内だけを機械的に行っていた。


 陰悪なのは咲夜の失踪について何か知っていているのではないかと言われる、私と信吾の二人だ。


 行きは周囲がうっとおしがり舌打ちする程の、バカップルぶりだった。今は二人共に無言。親友だった私は咲夜の事を思って、悲しんでいる風に映っているのかもしれない。


 私は窓際に座り、制服の上からフーディーを来て、信吾とは顔を合わせないようにフードを深く被っていた。それを見て信吾は不愉快そうな怒りを発した。とにかく機嫌が悪そうで、わざわざ声をかけたがる物好きはいなかった。


 誰も触れたがらない。同じ事が七菜子にも言えた。ジッと一点を見て動かない。彼女の隣に座るはずの空席を、何度となく見つめては、一人悲しそうに深いため息をついた。


 後ろに座るその七菜子から、私に向けて時折呪詛のような呟きと、怒りの眼差しを向けられている気がする。私が招いた結果だから仕方ないけれど……辛い。


 クラスメイト達を乗せたバスは途中で、トイレ休憩の為にサービスエリアへと入ってゆく。


 修学旅行シーズンのためか、私達の学校以外にも観光バスが多くて、学生もいっぱいだった。


 私は信吾に話しがあると言われて、サービスエリアの利用客のまったくいない建物の裏手側まで歩いた。


「話しって、今更なによ」


 私を殺そうとした結果、咲夜を死なせたこの男が憎くてしかたなかった。


 私はバスの信吾を無視せず、目を逸らさず怒りをしっかりこの男(こいつ)にぶつけるべきだった。


 信吾は無頓着無関心を貫いていた。咲夜を死なせる羽目になったのは、自分が悪いなどと微塵も考えていなかったようだ。


 人気のない建物の裏には植木が覆い繁り、私達の姿を隠す。そんな場所だったけれど、人がいないわけじゃないので声を荒げれば誰か気がつく。


 ……何でこの男は笑っているの?


 この状況下で、信吾が笑っている余裕があるのが許せなかった。咲夜を失った原因はこいつのせいでもあるのに。


「七菜子のやつにはビビったが、確証はないんだよ。修学旅行を狙った暴行事魔が親友二人に手をかけた……それで終わりだ」


「──何を言ってるの? 意味わかんないし」


 何か悪寒のようなものが背筋を這った。咄嗟に逃げようとしたけれど遅かった。何故なら不意に何かで首を絞められ、抵抗出来ないように身体が揺さぶられたからだ。


「ぐっご……」


 信吾の結論は────私の口封じだった。咲夜に関しての真相を知るのは私と信吾だけ。いまここで私が首を締められている姿は、誰も知らない……。


 七菜子もモブ男達も見てはいない。死体が見つからなければ事件にもならず、警察も観光客へわざわざ情報を集めもしなそうだった。


 苦しさに呻きながら、咲夜に泣いて謝った。彼女ならきっとこんな時も助けてくれただろう────────



 ────────気がつくと薄暗い部屋の冷たい石の床に横たわっていた。奇妙な人のおしり? ……大きな桃を型取った飾り絵が壁一面に飾られている。


 室内には鼻に付く悪臭が漂い、私は吐き気をもよおした。臭いだけじゃない、妙に首や下腹部がズキズキとうずく。


「予定外の招かざる、呪いの娘と言った感じよね。殺され方に引くわ」


 急に声が聞こえた。変な格好の女が何か言ってる。映画で見た事ある、怪しげな薬を作る人のようだ。ただ顔立ちは整っていて綺麗な女性だった。目が咲夜に似ていた。


「意識の落ちたあとに身ぐるみ剥がされて、犯されて、殺されたみたいね。アレは────鬼畜より酷いわね」


 ぼんやりした頭でも、身体の痛む部分から、言われた意味がわかった。素っ裸なのはそのせいだった。悔しいし……私は自分が殺されて死んだんだって事を理解した。


 奇妙な生き物が私の身体を這い回り、汚れを浄化して痛みまで和らげてくれていた。


「自業自得だから報いは仕方ないにしても、アレが野放しでいるのが許せないのはわかるわよ」


 変な女は私が亡くなった後、クラスメイト達がどうなったのかを教えてくれた。


 信吾は私から荷物を全て奪い、持って来ていたリュックに詰めた。そして雑に植樹された植え込みに聖奈(私だったもの)を投げ込んだ。


 私の遺骸がそのままならば、修学旅行中の学生が襲われて、打ち捨てられただけの胸糞な事件。いずれ捜索が行われるだろうけれど、身元不明、殺害日時もきっと曖昧なので不仲の母親が捜索依頼を出してなければ捜査終了だ。


「そっちの世界の約束事はわからないけれど、あなた……家庭の事情は複雑そうね」


 そうだ──だから信吾は笑っていたんだ。私さえ始末してしまえば咲夜の事について知るものがいなくなる。付き合っている時に、うっかり私の家庭の事情を話すんじゃなかった。

 

 信吾は早々にバスに戻り、リュックや荷物をうまくカムフラージュして、聖奈()っぽく作り、仲直りしたようにそれを抱いていた。


 わざと不機嫌さは出したまま、話しかけられないようにするのを忘れない。バスに戻って来たクラスメイトは信吾の抱えているフーディが、私の小柄な身体に見えたはずだ。


 この事で頼りになるのは七菜子だけど、彼女は私を嫌いだろうし興味がない。それに今は心神喪失状態のため、スルーしたと思う。


「まあ無駄だったんだけどね。地元に戻ったバスって乗り物は、学校付近で解散予定だったのよね。そのバスが到着地点に曲がる時の無防備な横っ腹を、信号無視の車が突っ込んだのよ」


 信吾に信号無視って、おかしそうに笑う。この人……外国の人じゃないの? あと笑えない状況なのに、ケラケラ笑うって、頭がおかしいの?


「まあ……そんなわけであなたとは別に、その男や七菜子という娘にモブ君達が死んだわ」


 嘘でしょ。あいつが死ぬのは当然として、七菜子達まで……。


「悪しきものが悔しがってそうね。あなたも咲夜もそこで一緒に死ぬはずだったのに、計画がズレたから」


 私と信吾が心理的に争い出したせいで、悪巧みを謀ったものの思惑が崩れたらしい。

 

 男子は信吾とモブの二人、女子は咲夜、私、七菜子の合計六人が不慮の事故で転移予定だったそうだ。本来の予定ではって、未来がわかっていたのかな。


「あなたも異世界転移とか詳しいのでしょう」


 モブ男達が楽しそうに話していたのは覚えてる。私は悪役令嬢だと陰口言っていたからね。


「悪役令嬢なら良かったわね。勇者とか聖女として、魔王様と戦わされずに済むもの」


 勇者とか魔王って聞こえた。夢でなければ、嘘を言っているようにも思えない。


 何故なら信吾に締められた首の痛みや、乱暴にされた下腹部の痛み、死んだ時の汚物の汚れまで綺麗になくなっていたからだ。


「うわぁ〜っ邪悪な男の汚い精の成分で、面白い招霊君が来たわ」


 変な女はそう言うと何かを取り出した。あれは……私の魂!


 見てわかるものじゃないのに、わかった。てか、なんで私は死なないの?


「魔女さんから咲夜をいじめた分、あなたをきっちり苦悩させるように言われてるのよ。嫌になるよね〜、おばさんの妄執はさぁ────うごっ?!」


 なんか、凄い速さで変な女の頭に物体が現れて──すぐ落ちた。鈍い音と共に彼女はぶっ倒れた。


 同時に私の身体が透けて消え始めた。


 ────これは転移……?


 気がつくと、私は土と岩だらけのような少し荒れた地面にいた。




 ──……丸腰の素っ裸のままで!


 えっ、本当にこの状態でなんとかなるの??

 

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