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序章 第十八話 聖女の親友は────女子高生おばあちゃんてした

「あのさ、結局あたしはあんたの叔母さんになるってこと?」


 咲夜が何だか落ち込んでいたのは自分よりも年上の甥がいて、自分はおばさん扱いされる事だった。


「血の繋がりはともかく、関係性ではそうなるのかな」


 レガトの言葉に、咲夜がショックを受けた。異世界でも、そうした血族の概念は同じなんだね。


「まだ女子高生なのに……おばさん」


 咲夜がブツブツと呟くけれど、私はハッと気づいてしまった。カルミアは確か、レガトと【神謀の竜騎士】という召喚師の娘のような存在だったはず。レガトの母レーナと咲夜が姉妹みたいなものだとすると、カルミアにとって咲夜は……。


 不意にレガトから魔力の合図が送られ、その口元にシーッと指で塞ぐ合図をしていた。叔母さんになる事に対してかなりショックを受けている所へ、「実は叔母さんどころじゃないよ」 と咲夜が知れば気を失いかねない。


 現役の十代の女子高生なのにおばあちゃんですっていうのと、♂にされた私とどっちが辛いのだろうか。まあ生命体として造られたわけだから、カルミアは例外だと言い訳するしかないかな。


 お喋りと言っても過言ではないカルミアが咲夜に対してよそよそしく見えたのは、あれでも気を遣っていたのかもね。まさか私の事を♂にしたのって、実験じゃなくて咲夜のため可哀相な娘を身近にって事?


「クサじいが魔王じゃ、あやつこそ真の魔王じゃぁ〜〜って騒ぐんだけど、魔王だったよ」


 咲夜ってば、どんだけダメージ受けてるのよ。クサじいは説教臭いおじじの事だよね。魔王は禁句だって言ってたじゃん。それに話しを聞く限りはレガトのせいではなくて、彼の母がとんでもない気がする。あと、リエラさんも。


 魔法を習ってわかったけれど、天候に影響を及ぼすくらいの魔力ってだけでも想像つかない。それなのに異世界へ渡るとか、時間を遡るなんて魔力も魔法を扱う知識や技術がないと無理だ。


「魔法を使うものが魔王と呼ぶのならそうだね。でもこの世界において魔法を使わず、魔法に関わりなく生きるものは少ない。人と違うからといって、君は差別するのかい」


 露骨にレガトは論点をずらしにかかった。魔王呼ばわりの大元はカルミアなので怒れないんだね。私に合図したように、咲夜に向けて魔力を放っている。あれはおじじ達に言い聞かせるように告げている感じだ。急に現れた甥の言葉よりも、おじじ達の方が咲夜の信頼が高いのがわかってる。


「……見た目で判断はしないよ。それでこんなことになったし」


 咲夜が私を見る。一度は親友関係が壊れたけれども、結構あてにしてくれてるみたいだ。私は咲夜に頼られて嬉しく思った。やっている事はメチャクチャだけど、レーナという人のおかげで咲夜と出会えて良かった。喧嘩もしたし、何度もぶっ殺されたけれど、咲夜がいなければジリ貧のまま人生終わっていたから。


「君達を利用した悪意あるものは、カルミア達が滅ぼした。あれはしぶとくてね。残滓のような存在でも悪さをするんだ」


 いまレガトやカルミア達が向かっているのも諸悪の根源を断つためだ。咲夜や私に戦いへと同行させるのは、悪しきものとの因縁を切るためだった。


「うぅっ、色々納得いかないけどなんかムカつくしやるよ。キモゴブだってへっちゃらだし」


 チョロいよ咲夜……しっかりと誤魔化された上に、やる気になってる。私はレガトを怒らせたくないので、余計な事は言わずに黙っておく。


「聖奈と言ったか。咲夜を全力で守ると誓ったようだね。それなら聖女らしい力がいるよね」


 レガトは私の側に寄り、人差し指で額をトンッと突いた。なんだか暖かな魔力が身体中を巡る気がした。


「カルミアの造る聖霊人形(ニューマ・ノイド)は魔力が高まるほど動きが良くなり強くなる。使いこなせるように精進するといい」


 何をしたのか、私の魔力が高まった気がする。これは加護というやつか。 私は魔王様に魅入られたみたいだ。彼の魔力なしには生きていけない身体にされていないか、少し不安だ。


「ノーラ達を咲夜達ののサポートにつける。君たちの側からも、支援戦力を出してもらいたい」


 レガトが控えていたメネス達に伝言をつけた。メネスとシェリハが頷き、一度戦車型内へ戻ってゆく。咲夜と私も戻ろうとするとレガトから再び声がかかる。


「悪しきものとの因縁を自分から断てば、しばらくは平穏な生活に戻るはずだよ。その後どういう選択を取るにしても、こちらで得た経験が役に立つだろう」


 咲夜に向けた言葉なのか、最後にボソッとレガトの言葉が私の耳に届いた。


 元の世界に戻れたとしても、英霊達(あれ)、そのままついて行っちゃうんじゃないだろうか────と。


 ◇


「話しは済んだのかしら? それなら二人の装備を更新するからわたしの部屋へ来てちょうだい」


 ダンジョンに放り込まれた時は、咲夜の使っていた魔本の部屋には更衣室があって、装備するものを選べた。私のものは咲夜から借りていたものだけど、仲間となったので自分達にあったものに替えるそうだ。


「オーダーメイドで服を作るなんて、制服以来だよ」


 嬉しそうに言うけれど、咲夜ってあんまり服にこだわりなかったよね。私は生活が苦しくて、買って来る服は古着が多かった。だから借り物でも、お高い下着とかビクビクしながら使っていた。


「わたしとしては成分得られるから、むしろ汚して構わないのに」


 成分が何のことなのか、察っせられた。カルミアじゃなかったら、ただの変態だ。私の身体は人形というわりに、生理現象はリアル。初めは女の子とは違う排世感覚に戸惑ったものだ。一番困ったのは咲夜が興味津々で覗く時だった。汚れたかつての私と違い、咲夜は(うぶ)だから、ちっこいのを見ただけで真っ赤になってた。


「そっちの情報もほしいところでだわ。ただ咲夜には手を出さないでね。私が魔女さんに消されちゃうから」


 レガトの母レーナに脅されているようだ。気の毒だけど、放っておくとカルミアは何をするかわからないから仕方ないと思う。


 この世界は魔法で人が創り出せる世界なんだけど、生殖行為は変わらないらしい。カルミア自身は作り出された生命体なのに、人間より人間臭いし謎が多い世界だ。


「ヘレナ、ノヴェルと一緒に聖奈の寸法を測ってあげて。先輩は咲夜の測定をお願い」


 アストって女王様なのに、下働きを言いつけられても文句を言わないんだよね。ただしカルミアの首は狩る。あまりに滑らかで締め慣れているので、暗殺者かと疑っちゃうよ。


 咲夜の装備品は、アストのものに近い。アストは王家紋様入り群青(ロイヤルブルー)で固めている。金色の髪の美女に、群青色って合うよね。


 普段着は、重さの軽いものをアストは着ている。それでも急所の防御が高く、心臓のあたりにはルーネも守っている。防弾チョッキよりも、ルーネがいれば魔法への耐性まで強力になる。


 私の着ていた服はアストの服の試作品なので、素材は凄く良かったんだよね。


「それなら仕立て直して、聖女らしい服装にしましょう」


 カルミアがそういうと私の着ていた服を回収して、ムニョムニョした快適スマイリー君とやらに飲ませた。


「これって……」


 ────学校の制服じゃん。私の……じゃない、咲夜のものかな。私はこっちに来た時、丸裸だったもの。


「なんかそれ制服みたいだね」


 咲夜は気づいてないみたいだね。咲夜と私が通っていた制服はブレザーで色はグレーだった。これは生地の色が薄いピンク。シャツは普通に白だ。制服もどきの着心地はアストの物と同じで柔らかくて、軽い。


「貴女達の世界では、この服装は貴重なんでしょう?」


 間違った伝聞って怖いものだと知ったよ。凄く勝ち誇るカルミアに違うとは言えなくて、私は咲夜にニヤニヤ笑われながらピンク主体の制服を着る事になった。


「結構似合っているからいいと思うよ」


 私の茶色の髪に合うので良かった。カルミアはおまけに白と緑のリバーシブルのコートを作ってくれた。頭の白いカチューシャはヤムゥリ達の使うものと同タイプのものだ。バニーの耳は恥ずかしいから外して必要な時につける事にした。


「白い面を上にすると回復効果が高まるわ。緑は防御と気配遮断ね」


 良かった、コートは助かるよ。流石に♂でピンクの制服はキツかったからね。間違った認識は正しておきたいよ。ちなみに下着類は前と同じ高品質の黒パンと黒ブラ。これで私は完全に男の娘ってやつになったわけだ。


 咲夜も下着類やシャツは同じものを着ている。男の娘な私と違って、咲夜は背丈もあるし、エロ格好いい。その上から火竜の鱗で作られたハーフボディスーツのようなものを着ている。抗菌防虫の施された衣服で、魔法耐性もある優れものだ。


「ヤムゥリやヘレナやアマテルの着ているバニースーツじゃなくて良かったよ」


 性能は落ちるけれど、軽いし動きやすいので普段着としても使えるからいいと思う。異世界で初めて訪れた街が、戦争真っ只中の敵国の首都だから、この世界の服装なんてわからないんだよね。


「武器はハンマーのままでいいのかしらね」


「いいよ。どうせ剣とか槍は扱えないから」


 ハンマーは振り回して当たれば、結構なダメージになるからね。聖女としてはどうかと思う。でも私は♂だし、紛い物だから気にしない。


「刺突出来るように先端と片側を尖らせておくわ」


 

 防御が硬い魔物もいるから、面よりも点で攻撃出来るのが良いそうだ。あとは力の出せる指輪に手袋ももらい、靴は足を傷めないようにサイズをしっかり合わせたブーツを履いた。


 咲夜も武器は拳銃と格闘だ。武道家ならともかく、ただの女子高生に武器なんて簡単に扱えないもの。


「あたしはこれがいいわ」


 咲夜はいくつか種類がある中から一つ拳銃嚢を手にして、腰に巻く。お気に入りのアストの魔銃と同じものを二丁挿している。格闘のために、肘や膝には特製防具(プロテクター)をつけた。


 咲夜の手袋は、私と違い力の封印解除が施されていた。咲夜の両親は力持ちの人達で、咲夜も何らかの力を受け継いでいたようだ。


 咲夜の右手の手甲部分には仕込みナイフ、左手には手甲盾のようなものも付けていて、首飾りには咲夜用の魔本が収納されていた。


「おぉ、なんか色まで揃えると格好いいね」


 咲夜の装備の基調は黒と銀。


「闇の勇者みたいでいいと思うよ」


 凛々し過ぎるよ、咲夜。彼女の場合、おじじ達がいるので武器は何でも扱える。ただ咲夜が理解して動けるかどうかわからない。運動神経は高いので、咲夜なら何でも戦えそうだ。



 装備を更新したのには理由があった。それは休息の後、そのまま決戦となるからだろう。


 仲間達と食事を終え、咲夜と私は戦いに備えて早めに休む事にした。

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