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序章 第十六話 聖女よりもレアな────緊張の会合はお呼びでないよう

「初めまして、シャリアーナ皇女殿。僕はアストリアだ。アストと呼んでくれたまえ」


 レガトという青年の仲間達の中心人物に、アストが先に声をかけていた。アストと似たような豪華な外衣を纏いう美しい金髪の女性。いかにも大貴族といった感じだけど、魔力だけではない強さが映像からでもわかった。


 アストが歩み寄る事で、両陣営の緊張が解けた。アストは誰に対しても少し偉そうな物言いだけど、私達にもあの調子なんだよね。咲夜もアストとは普通に仲良しになっていた。私は貴族とか偉い人はもっと嫌な人だと思っていたので、アストの気さくな所は好きだ。きっとこういう人がカリスマって言うのだろう。


「私はシャリアーナよ。お互い立場のせいで、必要以上に名声が高められてゆくの大変ね」


 握手を交わしながら、シャリアーナはアストの状況を思いやる。年齢は咲夜や私と大して違わないのに、大人だよ二人共。シャリアーナはアストより目上だけど堅苦しい挨拶は嫌いなようだ。本当は肩書きを背負っての代表挨拶も嫌だったと正直に話していた。


「僕は相方に代わりを押し付けられるので、わりと気楽なのだよ」


 アストの視線は装備についてアレコレ話し合う、カルミアと【星竜の翼】の鍛冶師のメニーニへと向く。私達の見ている映像はアスト視点だからか、マイペースな錬生術師の姿を見ると気絶していたことなどすっかり忘れているみたいだ。挨拶も碌にしない自由さに、誰も文句を言わない。


「羨ましいものね。私は逆よ。押し付けられる側だからね。それにしても望んでいたとしても選択の歯車一つ違えていたのなら、あの錬生術師の娘は存在しなかったと思うわ」


 シャリアーナのぼやきにアストが頷く。カルミアが似たような話しをしていたっけ。私の魂が限界を越え壊れたとしても、実は蘇生出来るんだとか。


 ただ私の身体が私として復活を遂げたとしても、その素体にはかつての環境や人との触れ合いなどの経験は手に入らない。そのためには記憶のバックアップが必要なんだけど、新たな魂に経験していない体験を記憶として刻むのは難しくて、魂と記憶ごと失う可能性があるそうだ。



「聖奈の身体が人形なのは、魂の負担を減らす為だったんだね」


 ……驚いた。おじじ達がいるとはいえ、脳筋な咲夜がアスト達の話しを理解していると思わなかったから。


「なによ〜、あたしだって興味あることくらいは覚えるわよ」


「それはそうね。カルミアから聞いた話しだと、魂を分ける事で本来の能力よりも弱くなるみたい。でも記憶はリスクを減らして共有していけるんだってさ」


 カルミアから蘇りによる魂の限界を知らされた時は、意味が分からなかった。魔法のある世界だから死んでも簡単に蘇る事が可能なんだなと思った。


 しかし実際は蘇生の魔法そのものは希少で、高度なものだった。魂を分けるとなると尚更だ。カルミアだから出来る事であって、異世界あるあるなんて甘く考えるなって言われた。


「ぶっ殺しまくったあたしが言うのは申しわけないけど、よく失敗しなかったよね」


「咲夜さんや、本当にそう思うのなら、もうぶっ殺すのは止めてね」


 私の自業自得なんだけど、想う相手に殺されるのは消耗が激しいの。応え方が違って、まさに心が抉られるんだよ。


 次はわからないと言われたのは、そうした理由が大きい。私の魂が辛く苦しい思いを刻みたくなくて、記憶や経験を拒絶するせい。この世界で生きる事を、もう諦めようとするせい。わかるよ……あんな死に方を何度も味わいたくないし、それなら別の人生歩む方がマシだからね。


 記憶を刷り込む事で近い人格が形成されたとしても、それは別人だとカルミアやアスト達も知っていた。招霊君とかいう魂のようなものは、まさにそれだ。新たな身体を与えられて聖霊人形(ニューマ・ノイド)となっても、元の人格や魂を宿せる確率は低いそうだ。


 アストの視線はシャリアーナから少し離れたレガトと怪しげなアナートという名前の筋肉の女性────? へ移る。何やらアストを見て涙を流し、アストの仲間のアマテルとは知り合いだったのか旧交を温めていた。


 ◇


 【星竜の翼】のメンバーと合流した私達は、ローディス帝国の帝都ロズワースの宮廷へと進んでいた。大人数になったのに、魔法の本を使った戦車内に収容出来るのは、やっぱり異世界だよね。


 宮廷内部に進むため、対応力のあるメンバーが外に出て戦車回りを固める。カルミアとアストは馭者席に移動した。咲夜と私は自分達の部屋に待機したままだ。外の様子は戦車に設置した映写器に切り替わっていたので、私達も宮廷を見る事が出来た。


「派手派手しい建物ばかりだね」


「派手なんだけど……なんか変ね」


 ロズワースの宮殿は色鮮やかな印象だった。全体的に漂うのは辛気臭い負の香り。咲夜と私は自分達の世界と違う初めての都市に戸惑う。


「私が最初に暮らしていたロブルタの王都よりも人口も多くて、華美な建物があるって聞いたんだよね」


 メネスが異世界の都市について補足してくれた。都市の大きさは間違いなくロズワースは大きいそうだ。ロブルタでは王宮が一つしかなく、こんなにいくつも大貴族や臣下の建物など独立していない。


「あまり思い出したくないけれど、あたし達の世界の都市もゴミゴミした所はこうだよね」


 ゴチャゴチャって言いたいんだよね。人が多く雑然とした街って、大都市によくある。初めは整然と建てられたはずの宮殿だって歴史を重ね、人が増えれば混沌としてくる見本みたい。


「それにしても静かね。私達が侵入して来たのわかっているでしょうに」


 私の感じる違和感の正体はそれかもしれない。宮殿だからだろうか、人の姿がまったくないのだ。【星竜の翼】は、帝都ロズワースに来るまで何度か交戦していた。戦争となれば避難するのもわかる。


「迎撃してくる兵隊すらいないのはおかしいよね。キモゴブだって向かって来たのに」


 咲夜の言う事はもっともだ。フレミールの砲撃や、帝都ロズワースの防衛用の巨大な邪竜が出た事で避難命令が出たのかもしれない。守るための巨大な邪竜が都市を壊しかねないからだ。


 戦車の外にはいつの間にかレガトとカルミア達が出ていて、何やら話し込んでいた。共闘はしているけれど、まだお互い信頼性はなくて、手探りの状態みたいだ。


「まあ、カルミアだけはいつも通りみたいだね」


 映像は戦車に設置されたものなので、咲夜と私は彼らの様子しかわからない。メネスはカルミアの声が受信出来るみたいで、宮殿の違和感について話している事や、カルミア達の事について話しているのだと教えてくれた。


 ◇ 


「ここで一旦休息を入れよう」


 いくつかある宮殿の区域の中で、頑丈そうな小さな建物を見つけてレガトが進行を止めた。全体の指揮はレガトが、ロブルタ王国のメンバーはアストが局所的に取ることに決まったらしい。合流した事で人数が増えて、分散した時に困るからだ。


 そのアストにより、カルミアがまた気を失った。敵地のど真ん中で何をやっているのか、相変わらずマイペースな人達だと思った。二人に代わり、バスティラ王国のヤムゥリ女王とエルフの眼鏡っ娘のエルミィがレガトの側に指示を受けに行った。


 映像がエルミィの視点に切り替わって、会話が聞こえるようになった。テレビのようにチャンネルで変えられればいいのに。


「それだと、覗き放題になるから却下したんだよ。カルミアが自分だけ私生活丸見えなのはズルいと言って設定さしたからね」


 どうやらあえて不自由な仕様になるように、全員で圧力をかけたらしい。


「うえ〜っ、やっぱカルミアって変人だよ」


 咲夜が呻いた。咲夜自身はおじじ達を憑けられたものね。私生活どころか思考まで丸裸なのに、咲夜は咲夜で神経が図太いよ。


「姦しくて申し訳ないわね」


 ヤムゥリがアストとカルミアの奇行を謝っていた。咲夜も私も短い期間だけど、彼女達の奇行やじゃれ合いには慣れてしまった。


「さっきも伝えたけれど、カルミアという娘の性分はわかっているさ」


 レガトという青年もほんの少しの時間で慣れたようで気にしないでほしいと微笑っていた。そして言葉を続ける。


咲夜(さや)という娘を預かっただろう。呼んで来てもらえないか」


 ……レガトがそう言い出した時にはドキッとした。映像の事は知っていたにしても、いま見られてるかどうかなんてわからないはずなのに。


 ヤムゥリとエルミィが、怪訝そうな表情で顔を見合わせた。二人に限らず、黒髪の少女の事は、カルミアから誰にも言わないように伝えられていたからだろう。


「彼女にとって、最後の試練が待ち受けている。僕にとって咲夜という少女は叔母にあたる人になる。戦闘の前に、先に会っておきたいんだよ」


 アストやカルミアはふざけ合っているようで慎重だった。【星竜の翼】の一員として今後仲間になる事と、咲夜と私達の事をしっかり分けて考え警戒していた。


「伝言でも良いんだが。試練を果たした後に望むなら、元の世界に帰してやれると彼女に伝えてほしい」


「少し待って下さるかしら。事情を知らない私達より、カルミアの判断を聞いておきます」


 慌てて二人が戦車型内に戻った。私達が見ているのをわかっているのに、レガトという人は本当に気にしないで丁寧に対応してるんだなって思った。

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