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序章 第十四話 聖女がいたところで勝てない相手────のはずが、鳴き叫ぶのは邪竜の方でした

 火竜の大咆哮────赤髪の女性フレミールは火竜と呼ばれるドラゴンが人化した存在だった。


 ローディス帝国の強固な城壁を高火力のブレスの一吹きで決壊させていた。映像はカルミアの発明した魔法道具で見る事が出来た。浮揚式鉢植君(コスモテラリウム)とか言うふわふわ浮かぶ魔法の道具に、魔力映写器が搭載されていて、フレミールの見ている光景を魔力を使って投影していた。


「どうせなら最大火力で宮殿の皇帝ごと焼き尽くしてしまえば良かったけれど、流石に宮殿の魔法障壁が強いわね」


 カルミアはフレミールを使って、帝都ロズワースの動向や防衛具合を探っていた。フレミールは囮も兼ねているのを本人は知らないみたい。アストが呆れていたけれど、カルミアはこれも学習の一貫だとのたまっていた。


「あの人あんな事言ってるけど……絶対嘘だよね」


「うぅ、あんなにでっかいのに哀れに見えるよ」


 カルミアという少女が、目的の為には何でも利用すると咲夜と私は身を持って知っている。そしてその私達の見方は正しかった。


 映像を見なくてもヤバい魔力が突然吹き出したのでわかる。


「あっ、不味いわ。フレミール、急いで撤退!」


 カルミアが慌ててフレミールに逃げるように指示を出す。嫌な魔力が溢れるのと同時に、フレミールが最後に見た帝都の宮殿の方から黒い煙のような靄が集まっていた。


「……なるほど。あれは収容型のダンジョンね。あんなデカいの見えなかったもの」


 咲夜や私が放り込まれたダンジョンと似たような装置があるみたいね。形は違うけれど、ノヴェルの魔本と原理は似ている。あちらはデカいままでも出入りが可能なように邪竜の身体と門に転移の魔法がかけられていた。


 逃げるフレミールが時折振り返る。その火竜の瞳に映されていたのは、四十Mを越える彼女の巨体より三回りは大きく、頭が七つあるヒドラと呼ばれる多頭魔竜の魔物だった。


「おのれカルミア、謀ったなぁ! あんな邪竜がいるなんて聞いておらぬぞ」


 便利な映像からはフレミールの心の叫びが聞こえる。謀るのって赤い人の方じゃなかったかなと、私はモブ男達とは別のヲタ達の話しを思いだした。


 フレミールは泣き言を叫んでいるけれど、飛翔速度は彼女の方が断然速い。


「デカいだけあって初動は鈍いわね。厄介そうなのは魔力かしら」


 何やら考えこみ、ブツブツと独り言を言い始めたカルミア。その横ではアストが邪竜の姿を見てがブルッと震えた。何か悪寒と言うのか、よくない気配を感じたようで、身に付けている王家の衣服のように顔色が真っ青になっていた。


「あのでっかいの、アストを見て嗤った気がする……」


 勘の良い咲夜がアストを見て呟く。咲夜はまだ魔力はよく見えないらしいけれど、感覚は鋭い。きっと咲夜は予感めいたものを感じ取ったのだと思う。


 逃げ帰って来たフレミールは、竜化を解いて人の姿に戻って戦車内に飛び込んで来た。涙を浮かべながら私達のいる錬金術部屋にズカズカとやって来ると、カルミアの襟首を掴んだ。


「オマエ、ワレをコロス気か!」


 怒りと震えでフレミールの言葉が片言みたいに聞こえる。わかるよ、私なんて素っ裸で放り出され、速攻ぶっ殺されたからね。カルミアは鬼畜だよ。


「はいはい、怖かったね〜。真竜なら任せても安心だと思ったのよね」


 子供をあやすような口調と、自尊心を巧みに突付いてカルミアはフレミールの怒りを鎮めた。私と違い、フレミールくらい魔力が高いと魂があっても失った魔力まで取り戻すのが面倒だそうだ。


「それよりあの邪竜、こっちに気付いてるわね」


 カルミアがフレミールを抱きかかえ涙と鼻水塗れになりなかまらアストの方を見た。アストはもう表情を元に戻している。


「おそらく邪竜の魔力が安定した瞬間に、すぐ襲撃に移るだろうね」


「戦って勝てるのかね」


「わたし達だけじゃ無理ね。狙いは先輩だろうから、逃げるのは簡単だけどね」


 その言葉の意味を察してアストがカルミアの首を狩る。主を囮に逃げる気満々なのがバレた。


「僕の生命を対価にするのなら、勝つ以外は許されないと思いたまえ」


 躊躇なく主の生命を囮にしようとする錬生術師と、無駄死には防ぐ女王。関係性が相変わらずよくわからない。


「星竜の面々に押し付けるしかないわね。わたし達を追わせなければいいだけなら簡単よ」


 カルミアはそういうとバズーカのようなものと気味の悪い砲弾をいくつか用意した。星竜の面々とは、彼女達の協力者のことだ。


「先輩は囮ね。ヘレナ、ルーネは撹乱をよろしく。エルミィとヤムゥリ様はこれを使って狙撃を」


 戦う気はないと言いながらフレミールの倍以上はある巨大な邪竜の迎撃準備を行う。


「あなた達はフレミールとノヴェルと一緒に、車内で待機してなさいな」


 咲夜と私に気づいてカルミアが指示を飛ばす。異世界の貴族は戦闘もこなすのは話しをして聞いていたけれど、勝てない相手に挑む勇気は、頭がおかしいなんてレベルでは済ませられない愚行だと思った。


「勝てないけど、戦えないとは言ってないわよ。愚行かどうかは今後の参考がてら、わたし達の戦いぶりを見ておくといいわ」


 カルミアはそういうと映写器を調整して、映像を戦闘に出るメンバーの視点へと切り替えた。


「ねぇ、この世界って……あんな巨大な生き物が普通にいるの?」


 咲夜がサイズ感のおかしい映像の邪竜を見て呟いた。彼女の中にいるおじじ達の話しでは、フレミールのようなドラゴンは普通にいるそうだ。


「普通に……の意味が、そのまんまの意味なのが怖いね」


 竜人の国や巨人の里など、当たり前に存在するようで、あの邪竜サイズの魔物が出没するダンジョンだって有り得る事だった。


「あなた達のいた世界にもあるのでしょう、そういう伝説」


 でっかいタコとかイカみたいなのとな、島のような亀の話しの事だろうけれど、実在するかどうかは怪しい所だ。創作の世界なら巨大なロボットとかいるんだけど、武装あったって、生身の人間が戦うものじゃないと思う。


「へぇ、街一つがロボットになるのほ面白いわね。魔法技術なしに建物とかどうなってるのか気になるわ」


「勝手に思考を読まないでよ」


 カルミアは自分の作った人形からならば、情報が得られるようね。私の思考がだだ漏れなのはなんか嫌だな。この錬生術師は自分の考えを伝達魔道具で呟いてしまう癖があるので、私と別の意味で思考がだだ漏れだ。


「聖奈はまだマシだよ。あたしなんておじじ達にずっと見られてるんだからさ」


 そうは言うけど咲夜の場合、私と違ってあまり気にしてなさそうなんだよね。 


「思考くらい読まれても、話しが早くていいじゃないの。それに言っておくけど、この世界では国ひとつ丸呑みするような怪物が存在するわ」



「咲夜と私が異世界の情報に疎いからって、また騙そうとしてるんじゃないの?」


「失礼な。咲夜と聖奈を騙して、わたしに何の得があるのよ。むしろそう言う生命体の上に自分達の住む世界があるかもしれないわよ?」


 御伽話や神話かと思いたい。でも現実に巨大な火竜や邪竜を見てしまった今、カルミアの言う事はわかる気がした。


「悔しいけど反論出来ないね、聖奈。いつか自分達の目で、あたし達のいた世界が本当はどうなっているのか見れるといいね」

 

 咲夜は前向きだよ。せせこましく誰かに踊らされて生きる私と違い、魂が自由なのが羨ましい。この世界に馴染んでるのも、咲夜のそうした心のありようの広さだと思う。


 ────ムカつくけど、カルミアも発想が柔らかだ。どうやって邪竜の襲撃を妨害するのか見ていたけれど、理屈は単純だった。どれだけ巨大でも、生き物ならば五感を狂わせれば良いのだと楽しそうに言った。


 空を覆うような邪竜が迫って来たと言うのに、笑っているカルミアはやはり頭がおかしいのだと、私は納得した。

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