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序章 第十一話 聖女として身につけていたものは────英雄女王様のものでした

 頭がどうかしている錬生術師は、カルミアと言う名前だった。ロブルタ王国という国の宮廷錬金術師だ。咲夜も私も名前すら教えられずに、異世界へ身体を慣らすための修練に放り込まれた。


 錬生術師とは錬金術と錬成術を使えるものの事で、わりと希少な存在だ。ぶっ殺されて彼女の部屋に戻される度に眠たげなのは、本当に忙しい人だからだとわかった。


 紹介するよりも早く、おんぶお化けのように、カルミアの背中に張り付く物体がロブルタ王国の女王アストリア様だ。私達と同じくらいの年齢で英雄王とも呼ばれているそうだけど……今はただの可愛らしいおんぶお化けになっていた。


「先輩、照れてないで自己紹介して下さいよ。いつまで経ってもお子様ですね」


 ずいぶんと仲が良い人達だと思った。この世界では王族と一般人はフレンドリーに振る舞っても許されるのかな。


 錬生術師に洗脳でもされてるんじゃないかと疑いたくなるけれど、口の悪いカルミアが女王を子供扱いして首に腕を巻かれロックされていた。


「僕はアストリアという。気軽にアストと呼んでくれたまえ」


 女王様は僕っ娘だった。異世界の女王様はサラッさらの細く艶のある金髪のショートヘアに、吸い込まれそうな青い瞳をしていた。


 服装は濃い青を基調とし、ロブルタ王国の紋章を金糸で刺繍した衣装を着ている。


「凄い美人なのに、咲夜みたいな残念感がある方だね」


「あんた、さり気なくあたしをディスったね。ただ気さくそうな人だから助かるわ。あの可愛らしい小さな人間は妖精なのかな」


「魔力が凄く高いからそうかも」


 なんだろう、私は魔力が見えるようになった。


「その身体は聖霊人形(ニューマ・ノイド)魔法型だから魔力を感知したり、聖女らしく治癒の光だって使いやすくなっているはずよ」


 おぉ、なんか私って本当に聖女っぽい。もっと早く使えれば何度も死なずに済んだと思ってしまう。


「聖奈だけなんかズルくない」


 咲夜が羨ましそうに見る。ズルっていうか、肝心な時には使えなかったから意味ないんだよね。


 魔力が見えるようになったからわかったんだけど、咲夜はめちゃくちゃ魔力高いから馬鹿みたいな力を出せる。それを本人が気付いていないみたい。


「ちょっと挨拶して来るから、後で魔法見せてね」


 おじじ達が煩いからと、咲夜はアストリア女王様の仲間達に挨拶をしに行ってしまった。


 そして私の側には錬生術師が首を気にしながら近づいて来た。


「余計な事を言わないように。あの子は割と……いえ、かなり脳筋っぽいからわかるわよね?」


 カルミアが咲夜に関しては慎重な理由がよくわかった。はっきり言って咲夜はバカだから、魔法が使えるとなると、手がつけられないくらい暴れる可能性があったようだ。


 勘が良くて運動神経も優れているので、あり余る魔力を既に身体強化に使っているのに、咲夜自身はわかっていないようだ。


 それに……彼女の中のおじじ達は、暴走を止める役割も兼ねているみたい。ただ召喚されたわけじゃないのに、どうしてそんなにも魔力があるのだろうか。


「言ったでしょう、彼女の家族を大切に思うものがこの世界にいるって」


 カルミアの話しでは魔王様や魔女さんと呼ぶもの達が、咲夜に力を与えているとの事だった。あくまで本人の成長と裁量が限界を超えないレベルまで。


「酷いでしょ? 丸投げよ、丸投げ。魔力大爆発を起こしかねないアホな子を、魔力制御が出来るようにしろって無茶苦茶よね」


 咲夜とアストリア女王達が打ち解け話し合ってる姿を見ながら、カルミアは私に愚痴をこぼした。


 咲夜には内緒で他にもサプライズも用意しているらしい。その前に暴走に巻き込まれそうで怖い。


「何のために貴女を呼んだと思ってるのよ。親友の面倒は任せたわよ」


 この女……自分へ投げつけた丸投げ案件を、私に押し付けやがった。魔法が使えるようになった事を感謝して損した気分だ。


 あくまでこの人達にとっては咲夜が一番大切なのだと思い知らされた。そうだよね、私はしょせんモブだから。モブ男達を馬鹿にするけれど、たまたま咲夜に近しいだけで、私は似たようなものだ。


「大切になるかどうか、それを貴女が決めるのは勝手だけど、役割は果たしてもらうわよ」


 容赦ない錬生術師の言葉。魂の対価はまだ未払いだ。元の世界にいた頃の私なら、魂のやり取りなんて口約束だから無視したと思う。


 でも……ここは異世界。私はあの死への恐怖や苦しみを既に何度も刻み込まれている。だから、永遠にこき使う腹づもりでも、この錬生術師に逆らえない。


 喧嘩ばかりするようになって、お互い嫌いになって、この世界では五回も殺されたけれど……七菜子ではなくて私が選ばれた。たぶん七菜子だと盲信するからだと思う。


 それに見透かされているから気にしないけれど、呼ばれた先が善であるなんて決まっていない。私の警戒心を、錬生術師のカルミアは面白そうに見ている。魂まで握られて、疑うもなにもないとわかっている。


 でも……咲夜には私が必要なのはわかった。私がじゃないよ、咲夜が、だよ。咲夜は素直過ぎて危ない。腹黒と思われようと、私が咲夜について守らないといけない。そう思い込むように仕向けられていたとしても。


「いいわね、貴女。報われないと知りながら尽くすつもりね」


 ……嫌な女。魂を握っているせいか、私の心に浮かぶ感情だけで深層心理まで読み取ってしまうみたい。わざわざ口にして教えてくるだけマシかもね。


「同族嫌悪って事だよね、カルミア」 


 話しを聞いた感じ、年はそんなに変わらないはず。だからあえて私は踏み込んだ。この異世界がどんなところなのかわかっていないけれど、怖がってばかりいられない。


「そうね。わたしは甘えるばかりの寄生女の貴女が嫌いだったけれど、いまの貴女は人としては好きよ聖奈」


 うっ……やっぱこの人は手強い。言葉で揺さぶる程度では動じないみたい。逆にからかわれ、私は顔を火照らせてしまった。


 咲夜のように教えてくるおじじ達のような存在のいない私は、カルミアから魔法の扱い方を習う。咲夜を守る道具として私が必要だと計算してくれたにしても面倒見は良い人なのかも。


「聖女なんだから、紡ぐ言葉にも魔力を込めなさい」


 訓練は厳しかった。細やかな制御を出来るまで、カルミアがつきっきりで指導してくれた。魔力を扱う訓練のおかげと咲夜に認められたおかげで、魂の傷はだいぶ回復したみたい。


「あと一回くらい耐えられそうね。でもなるべくなら死なない方がいいわよ」


 この狂った錬生術師(マッドアルケミスト)は、自分のやった事をもう忘れたというの? 素っ裸で魔物や獣の徘徊する荒野のダンジョンに放り込んでおいて。


 驚いたのはあのだった広い荒野のダンジョンがたった一冊の本の一ページに収まっている事だった。ノヴェルという可愛らしい子が作ったそうで、初級ダンジョンの本と銘打ってあった。


「ああそれは世界各地のダンジョンをレベリングしてある中の一つよ。冒険者(チンピラ)達か踏破して記録したものね」


 チンピラって頭が悪くて、すぐ暴力を振るうイメージしか沸かないんだけど。魔力訓練をしているからわかる。この本の一ページを作るだけでも、高度な魔法技術と膨大な魔力が必要だと思う。


 錬生術師のカルミアには、そんな膨大な魔力を感じられない。でもノヴェルという子やルーネというふよふよ浮かんでいた小人、潜んでいる黒い猫人、赤い髪の長身美人などは魔力量が凄かった。


「カルミアの言う魔王様という人は魔力どれくらいあるの?」


 聞いちゃいけない質問なのか、カルミアの目が見開く。


「会えばわかるわ。慌てなくても、そのうち会うことになるわ。前に言ったように、貴女達を保護するように指示したのは彼らだからね」


 カルミア達も魔王様と呼ぶ一団と合流をする為に移動中らしい。


「魔王様はともかく、旧友との再会までに出来るだけ鍛えておく事をおすすめするわ」


 目的とする所は咲夜や私が本来転生するはずの国になると、カルミアが教えてくれた。この人、頭がおかしいし忘れっぽいけれど全部理由があってやってるんだよね。


 ちなみに咲夜や私が身につけている高級素材の黒パンや黒ブラは、アストリア女王様のために作られたものだった。王族御用達なだけあって、柔らかで履き心地が良いだけではなく、生活するのに色々と必要な機能がついているようだった。


 アストリア女王様から蘊蓄を聞いた咲夜が興奮して私に話してくれたけれど、黒パンツの話しを熱く語る英雄女王様は王様としてはどうなのだろうかと、私は疑問しか浮かばなかった。


 ただ酷い扱いに思うのは間違いだった。衣食住に関しては王族並みの最高の物を使っていたのだから。


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