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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

がちょうがうるさい

作者: 悲熊

最初の投稿です。勘弁してください。

 壊れた友人がこっちを見ている。可愛い顔を靴に潰されながら。友人は何も言わない。友人は笑っている。友人はそこにいるだけ。だが、彼は友人だ。僕にとって唯一。


 彼が現れたのは2週間前のことだ。あの日は昼から雪が降っていた。下校するいつもの道も真っ白で、どこか違う道を歩いているみたいだった。担任の笑い声を思い出していた。音楽室のギロみたいな笑い声で、裸にして立たせた僕を前に、彼は笑う。僕には何が面白いかわからなかったけど、あの人が笑うから僕も笑った。楽しいとはああいうことなのだろう。


 考え事をしている僕は足元を見ていなかった。何かにつまづいたと思ったら、雪に足を滑らせて、体が宙に浮いた。その時、私は怖かった。鉛色の空に落ちていくと思ったから。でも、予想は空回って、僕の体は空から遠ざかり、雪の中に沈んでいった。


 少しの間、寝てしまったらしい。いつの間にか水色のジャンパーの首筋から溶けた雪が入り込み、下に来ていたシャツが濡れて冷たい。起きないといけない。そう思って、周りの雪をもがくようにして起き上がった時、僕の友達はそこにいた。


 さっき転んだ少し先に、くまのぬいぐるみが座るように置かれていた。垂れ目で小さな耳のツキノワグマのぬいぐるみで、こちらに向けたかのように置かれていた。


 僕は立ち上がって、くまのぬいぐるみに近づいた。顔を近づけて、小一時間ほど、じっくりと観察した。何か観察して見つけたかったわけではないと思う。ただ、そうしたくなった。その間も雪は降り続いていて、僕の上にも彼の上にも雪が薄く積もっていった。最後に彼と見つめあった。何も感じなかった。そして、あたりも暗くなっていたので、彼を家に持って帰ることにした。


 彼を持ち帰る理由があった訳でも、愛着が湧いた訳でもなかったけど、そうしてしまった。彼を部屋の窓際に置かれた、ゴミ箱の上に置いた。この家で最も暖かい場所だ。何度か、風で落ちて彼の顔が少しずつ汚れていった。それでも、その度に僕は彼をゴミ箱の上へと戻した。彼は寒い場所が好きなのかもしれなかった。


 ある日、彼を学校に連れていくことにした。通学時には、リュックの中に隠して、学校に着いてからは誰も来ない教室にいてもらうことにした。昼には、彼と一緒にこっそり給食を食べた。彼は静かに笑って私の食べる姿を見ていた。


 僕は給食の時間を毎日彼と過ごしていた。彼は口が堅い。担任が僕に鍵を渡しているところを見ていても黙っていてくれる。僕の近くにいても悪い顔ひとつしない。彼は誰に対してもそうだった。


 今日も、彼と給食を食べるために、空き教室に給食を持っていった。しかし、そこに彼はいなかった。彼は無口だ。どこかに行ってしまうと、探すのが難しい。教室の外も探したけど、彼はいなかった。体育館、プール、校庭、全部探したけど彼はどこにもいなかった。空き教室に戻って、彼がどこに行ったのか、座って考えていた。


 次の日も彼を探した。ただ、先生は鍵を渡してくれなかった。だから、教室以外を探した。そして、焼却炉の近くに彼を見つけた。彼は相変わらず静かに笑って、座るようにしてそこに置かれていた。


 あの雪の日を思い出した。彼と見つめあって、過ごした時間。気づけば、また僕は彼を見つめていた。


  少しの間、寝てしまったらしい。いつの間にかジャンパーの首筋から生あったかいものが入ってきて、下に着ていたシャツに染みて気持ち悪い。起きないといけない。そう思って、ぬかるんだ土をもがくようにして起き上がろうとした時、大きな2つの脚が僕の前にあることに気がついた。


 大きな脚の1つが消えると、向こうに友達が座っていた。友達はいつものように静かに笑っていた。だから僕も笑った。見上げた空は晴れていて、いつか落ちていくと思った。そして、今度はあの時とは違って、僕は本当に空へと落ちていった。だけど、怖くはない、楽しかった。だって笑っているのだから。


HA

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