第1章…紫の華が一輪咲く
「この国はね、神の為だけに作られた物だよ。」
そう教えられる。戦争だらけのこの世界、この国。全ては誰かの、何かの我儘。巻き込まれてしまう人は高確率で死ぬ。その生き残りの復讐劇を、ご覧あれ。
深夜12時。ゴミが散らかっている真ん中に真っ赤に染まる一筋の道が出来ている。その赤はかなり新鮮な物であり、未だに乾いてはない。その道の真ん中に一つの影がある。その影は満月の光により逆光になっていることで出来た物だ。
その影の持ち主には名前がない。誰にも見られない、ただ呼吸だけをする機械だ。「生」にしがみつかず、「死」に逃げようともしない。周りからは、物としか扱われない。右側だけが長いその機械は、右手だけに一本のナイフを持ち、ただただ歩いていた。
「…はあ。何でこいつらはここまで生きるのに必死だったんだろう。これから良い未来が待ってるって限らないってのに…」
期待をすればするほど、嫌な未来が来る。そのことを、影の持ち主は幼い頃から痛いほど学んでいた。だから、そんな期待を裏切られることのないよう、早めに苦しみを終わらせる。その影の持ち主は自分のことを救世主だと思っている。また、同時に奪った命の持ち主たちを哀れんでいる。
これが、この影の持ち主の裏の姿である。
「周りからは、物としか扱われない。」というこの影の持ち主は誰からそう扱われているのか。それは表の姿を知っていて、裏の姿を知らない、愚か者達だ。
「お前の髪の長さは何でそんなに気持ち悪いんだ!」
「普通両方の髪の長さは同じぐらいだろ。」
「何で他のみんなと同じになれないの?」
「赤い目なんて人の物じゃない。」
「やることが一々機械みたいで気持ち悪い。」
「お前って本当に生き物?」
「機械はいつか使い物にならない。お前は使えないから、早く地獄って言う名のゴミ箱に消えていけば?」
「早く壊れたら良いのに。」
毎日続く誹謗中傷。この影の持ち主が受けていたのはそれだけではない。暴力も勿論受けていた。近所に住む子供達に引っ張られ、蹴られ、殴られ、叩かれ、縛られ、押され、刺され、
もはやいつ死んでしまうのかが分からなくなっていた。
その影の持ち主が住んでいる国は四つの階級がある。その階級は国の名前から簡単に推測される。その国の名は神貴町貧国。四つの階級は神族、貴族、町民、そして貧民だ。神族はこの国の頂点に立つ者達の事であり、基本的に何をしても許される。神のような存在な為、そのように呼ばれる。貴族は神族に仕える者もいれば、町民のボスにあたる、現世でいう社長や理事長の家族の事を指し示す。町民は貴族に働からされている現世でいう社員であり、貧民のことを見下している。まあ、ごく一般的な家庭が多い、神貴町貧国の九割八部を占める階級だ。そして1番下には貧民がいる。貧街というスラム街に住む、罪人の一族のことを言う。全ての階級から見下されている階級だ。
その影の持ち主は貧民だ。だが、本人が何かをした訳ではない。本人は自分と同じ階級の人々を殺している為、法には触れていない。法に触れてしまったのはその影の持ち主の父親だ。二人は元々貴族だった。その当時、影の持ち主の名前は夜羅鶴彩(読み方はやらずさやか)。そしてその父の名前は夜羅鶴隼人。隼人は元々国の一企業である天尊株式会社の社長だったが、その国で違法であった神族殺しをしてしまった為、隼人は永久拷問の刑、そして夜羅鶴一族は貧民終身刑に処罰されてしまった。普通、神族の者を殺してしまうことは一族全員が水没の刑に処されてしまうが、殺した神族の者が神族の中でも階級がかなり上位なので、死ぬまで苦しまないといけない方法で処罰されていたのだった。
貧民終身刑を宣告された当時、夜羅鶴彩はまだ2歳だった。彩は物心を持っておらず、自分の名前も覚えていなかった。ただ、貴族から貧民に階級を落とされた時だけの記憶は鮮明に覚えていたのだ。齢2歳の子供にトラウマを植え付けてしまう酷い国にその影の持ち主は生まれていたのだ。
夜羅鶴彩という名の貴族は死んでいた。今あるのは、名前のない救世主だった。
病み風に始まっていますが、まあ楽しんで読んでください…^ ^
これから後書きに新登場したキャラについて書いておきます