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アマルティアの少女  作者: 根占 桐守 (かやま)
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第3話 灰被りの理

 レイモンドは自身の馬に跨ると、そのままミデンに近づき、当てつけのように大きくため息を吐き出しながらぼやいた。


「貴様にまんまと乗せられるのはいったい幾度目か……まったく理不尽なものだ。我々小国は貴様ら大国に振り回されるばかりでな」

「それが世の理、ってやつだろうよ。だが、お前は小国としての立ち回りが上手ぇ。お前がいたらロホはしばらく安泰だな——レイモンド。お前には、盟主の才がある。三国連合の盟主にでもなってみろ」

「馬鹿を言うな……それより、ミデン。我が軍の撤退についてだが、私の主力部隊全滅の報告を受けようが、此度はそう容易く撤退するような軍ではないぞ。無論、私も貴様の名を出して撤退を進言するが……それだけでは説得力に欠ける。聞き入れられるものかどうか」

「だろうな。それにも考えがある——おい、そこのじゃじゃ馬!」


 ふと、少し離れた場所で、油断なく短剣を構えていたカナリニに声が掛けられる。カナリニは更に強く、短剣を握る手を強めると、堂々とミデンへの前へと歩み出た。


「アウレア兵だな? 俺の馬に乗れ。アウレア側の戦場を教えてほしい」

「……」


 カナリニは何か言いたげな様子だったが、直ぐに短剣を収めると、覚悟を決めたように一つ頷いてミデンに応えた。しかし、番犬の如く警戒心を剝き出しにしながら、どこか重い足取りでミデンの馬に近づいてゆく。ミデンはそんなカナリニの様子に肩を竦めて見せるも、待ちきれないと言わんばかりに馬から降り、彼女を粗い手つきで担ぎ上げて手早く馬に乗せた。


「う、わ!? な、何を!」

「警戒するのもわかるが、先を急いでる」


 そうは言うが、特に悪びれた様子もなく。ミデンはカナリニの前の馬上に跨って、再びそばにいるレイモンドに顔を向ける。


「三国連合軍側の戦場は既に把握済みだ。そこをいつもの寸法で脅し……撹乱(かくらん)させる。そうすりゃ、撤退せずにはいられんはずだ」


 ミデンがおもむろに兜の中からぴゅう、と鋭く口笛を吹きならした。すると、その音を合図に、どこからともなく背後から怒涛の如く蹄の音が押し寄せてくる。カナリニが驚いて背後を振り返ると、ミデンの馬の後ろにはいつの間にか百人規模の兵軍が控えていた。

 その兵軍は一見、三国連合軍とまったく同じ三国それぞれの鎧を身に纏っているのだが、所々にミデンの月紋章が印された黒旗を携えた者がいるのに気が付く。

 それを見たカナリニは、この背後に控える兵軍こそが〝奴隷王〟の名の由縁となった、大陸史上初めてミデンが設立した私兵軍——奴隷兵遊撃軍に属する奴隷兵たちなのだと確信した。


「相変わらず手の早い……いつもの寸法とは、〝梟の(いなな)き〟か。それならば問題なかろう。ところでティティムはどうした? 姿が見えぬが……珍しく貴様と共にはおらんようだな」


 ティティム。その名の主は、ミデンと唯一肩を並べる帝国大将軍の片割れ。先代皇帝からアウレアの〝太陽紋章〟を授かり、大陸において〝太陽奴隷ティティム〟の名を知らぬ者はいないと云われている。

 ミデンはティティムの名を耳にした途端、ぴくりと一瞬だけ呼吸が固まった。だが、すぐにレイモンドに冗談めかしたような声で応える。


「いる。あいつは俺の手足だからな」


 なぜかその短い言葉と声は、カナリニの肌を微かにピリつかせた。


「では、あとは手はず通りにいくぞ、レイモンド。これからは必ず術師を連れて来いよ? ロホの酒は美味ぇ。飲めなくなるのは惜しい」

「ああ、承知した。……俺は二度とその()()()姿()()見たくないがな」

「相変わらず俺の鎧は嫌いか。——じゃあな」


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