第八話 牧舞の呼び名
『第七話 ゲスいあだ名決め』の牧舞視点になります。
部屋でのツーショット写真の翌日、道貞は新たに手に入れた情報に意気揚々と学校に向かっていましたが、対する牧舞は……?
どうぞお楽しみください。
学校へ向かう道で、千重里君の後ろ姿を見つけた。
声をかけようとして、突然不安に襲われる。
昨日の私、調子に乗り過ぎてなかった?
家に来てくれたからってはしゃぎ過ぎた?
智也君への対抗心があるから彼氏のフリを辞める事はないと思ってたけど、もしそれすらどうでも良くなるくらいに嫌われていたら……。
……いや、悩んだって答えは出ない。
いつもの感じで声かけてみよう。
「おっはよー」
「うぇ!? あ、お、おはよう」
「ドーテービビりすぎー」
「道貞だ。その呼び方やめろって」
良かった。いつもの千重里君だ。
呼び名への不満はあるみたいだけど、昨日の事は引きずってないみたい。
そしたら呼び名を変える良いチャンスかも。
「じゃーミッチーでいいー?」
「は?」
「だから呼び方ー。ミチサダだからミッチー」
「え、いや、その……」
「いや?」
「うーん……」
嫌じゃなさそうだから、他に微妙な候補を挙げたらこれにできそう。
「じゃーミチサダだからミッサー?」
「いや、それもどうかと……」
うん、私もこれはないと思う。
「俺の苗字、千重里だから……」
「じゃーチエで!」
「それじゃ女だろう。ちゃんと千重里か、もしくは道貞で呼べよ」
千重里君だと私は下種さんで呼ばれるだろうからやだな。
じゃあ道貞、君……?
……駄目! まともに顔見れない!
ドーテー呼びの方が全然楽!
「えー、まんまなんてカレシ感出ないじゃん。じゃーチエサトだから……、エサで!」
「駄目」
段々苦しくなってきた……。
変なあだ名なんてそんなに思いつかないよー!
「うーん、チサ……? チサト……? チエチエ……? やっぱドーテーが一番呼びやすいなー」
ほらほら、ドーテー呼びは嫌なんでしょ?
ミッチーで妥協しなって!
「それともー、チエサトとミチサダを合わせて……、チミー!」
「却下」
「じゃー、チエ……、ミチ……、チエミチ……、チエミッチ……、あ! チェミッチって可愛くなーい!?」
「可愛くないし、可愛くある必要もない」
「そしたらー……」
「……ミッチーで良い……」
「オッケー」
やった! これなら私もあだ名で呼んでもらえる!
「じゃーあたしはマッキーで」
「え? 俺もあだ名で呼ぶの?」
「その方がよくない?」
「いや、それは何かバカップルみたいで……」
「じゃー下の名前でもいいけどー。あたし『牧舞』だからー。牧場に舞うって書いて牧舞なんだー」
……無理だと思うけど、本当に牧舞で呼ばれたらどうしよう……。
ば、爆発するかも……!
「し、下種で……」
……ありがとうちえさとくん。
びょうでれいせいになれたわ。
「えー、昨日言ったけど、前に『下ネタ』って言われた事あるから、苗字あんま好きくないんだよねー」
「そ、そうか」
「だからマッキーか牧舞で呼んでー」
さ、この二択なら決まりでしょ?
……まだ悩んでる。
なら駄目押し。
「じゃなかったら、あたしもミッチーの事みんなの前でドーテーって呼ぶしー」
「わ、わかった」
……ごめんね。嫌がるとわかってる事を盾にして。
「……ま、マッキー」
「なーに? ミッチー」
……やばい。
やばいやばいやばい!
友達に呼ばれ続けてるから平気だと思ったのに!
「さ、じゃー学校行こーかー」
「あぁ……」
顔を見られないように、少し前を歩く。
一歩前進、だけど、こんな調子で私の心臓持つかなぁ……。
読了ありがとうございます。
頑張れ牧舞。
マッキー呼びから徐々に慣らしていくんだ。
次話もよろしくお願いいたします。