第六話 牧舞の胸騒ぎ
『第五話 ゲスい帰り道』の牧舞視点になります。
ツーショット写真を撮るために家に招いた牧舞の心中とは……?
どうぞお楽しみください。
「ここだよー」
「おぉ……」
千重里君がうちのマンションを見て声を漏らす。
友達もみんな初めてうちに来た時は、同じような反応をする。
やっぱりうちって珍しいんだな。
『お金持ちなんだね。羨ましい』って言われた事も何度かある。
でも私からしたら……。
「お帰りなさいませ」
いけないいけない。
折角千重里君を家に呼べたんだ。
前向きにならないと。
「たっだいまー」
「あの、お邪魔します」
「どうぞごゆっくり」
ふふっ、千重里君、漆寺さんに緊張してる。
キリッとしてるけど、優しくて時々お茶目な良い人なのにな。
「うち二階だから階段でいいよねー」
「あぁ」
……あ、これ角度によってはスカートの中見えちゃうかな……。
でも私の家に行くのに、先に行ってもらうってのも不自然だよね……。
あえて見せようとしてる感じ出したら、千重里君目を逸らしてくれるかも……。
「あ、パンツ見ないでねー?」
「見られたくなきゃ短いスカート履くな」
「えぇ……。パンツ覗いた上に相手に責任なすりつけるんだ……。えぐっ」
「お前の下着なんか見たくもないが、不可抗力で見えた時の責任まで取らされてたまるか」
「うー、ひどーい」
よし、これで見ようとはしないよね。
……しないだろうけど、『見たくもない』とまで言われると、ちょっと意地悪もしたくなる。
「よっ、ほっ、はっと」
ちょっと跳ねるように階段を登る。
踊り場でちらっと様子を見ると、目を伏せて階段だけを見て登ってる。
意地でも見ないって感じ。
……まぁいいけど。
「着いたよー」
若干不満を感じながら、家のドアを開く。
「さー、入ってー」
「お、お邪魔します」
緊張してる? 誰もいないのに。
あ、さっきのはからかうための冗談だと思われてたのか。
「さっき言ったじゃん。今日は両親帰ってこないって」
「は!?」
そんなに驚く?
やっぱり何か期待してるのかな?
「まー、大声出したらコンシェルジュさん飛んでくるからー、変な事考えないでねー」
「元からそんなつもりはないって言ってるだろ」
……何だろう、この腹立つ安心感。
ちょっとクセになりそう。
「ここがあたしの部屋ー。適当に座ってー」
きょろきょろする千重里君。
思ったより殺風景で驚いたかな?
とりあえず一人にして、様子を見よう。
二ヶ所から撮影してるから、死角はないはず。
録画はもちろん、ライブでも携帯で確認できるし、最近の技術はすごいな。
……特に動きはないか。とりあえず麦茶を持って……。
「お待たー。麦茶でいいー?」
「ありがとう」
このままだときっと写真立てに行きつかないよね。
ならば奥の手を。
「じゃああたし軽くシャワー浴びて着替えてくるわー」
「は!?」
これで確実に千重里君一人の時間を作れる。
そうすればきっと私の部屋をあちこち探るだろう。
そして何も見つからなければ
「仮にも客ほっといてシャワー浴びるってどういう神経だよ」
「部屋着の方がお家デート感あるじゃん? 演出演出」
「成程、そういう事か」
なんてね。
さ、家探し頑張って。
「のぞかないでよねー」
「そんな事警戒するなら、ここのドアを外から開かないようにでもすれば良い」
「んー、めんどいからいいや。見られて減るもんでもないしねー」
こういう風に言えば、私のシャワーシーン覗くより、私の弱みを探す事に力を入れるよね。
本当はシャワーを浴びてる姿を写メ撮られて脅迫されたら、私の負けなんだけど。
千重里君以外に見せたくないもんね。
読了ありがとうございます。
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