第十八話 牧舞の複雑なキモチ
『第十八話 ゲスいカフェトーク』の牧舞視点になります。
おちょくられていると感じていた道貞に、牧舞は何を思っていたのか……。
どうぞお楽しみください。
はぁ……。
まださっきの『頬にキス未遂』の衝撃が抜けない……。
寸前で止めた千重里君には、写メが撮れた満足感と、私の思惑を阻止した達成感とがあるようで、アイスコーヒーをゆったりと飲んでいる。
……何か腹立つな。
「でさー、ドーテーはどんな女のコがタイプなのー?」
私だけどぎまぎしてるなんて不公平だ。
理不尽なのは百も承知だけど、何とかしてその余裕の顔を崩してやりたくなる。
「特にタイプというのはないな」
「えー? そうなのー?」
「タイプというものを特定できる程、恋愛経験はないからな」
「うわ、寂し……」
聞いていた通り千重里君は、恋愛経験は元より恋愛に対する憧れさえも乏しいみたい。
それはやっぱり……。
「その割にはさー、デートしてても落ち着いてるよねー」
少しでも苦手意識とか「女子と過ごすなんて無理だ」って思い込みを減らさないと。
「フリだからな。お前だってそうだろう?」
……何で私、今イラッとしたんだろう……。
それでいてちょっと寂しくて、悔しくて、無性に千重里君に触れたくなる。
何だろう、この気持ち……。
「そうじゃなかったらどーする?」
「は?」
「実はフリじゃなくてー、本気でドーテーのコト好きになってたらどーする?」
……私は何を言ってるんだろう。
今の千重里君が拒絶するだろう事はわかっているはずなのに。
「そうなったらそうなった時に考える」
!
拒絶、しないの……?
「へー。いがーい。考えてはくれるんだー。『お前と付き合うなんてアリエナーイ!』とか言うと思ったのにー」
軽い口調で返しはするけど、胸の中はすごい事になってる。
「女の子は全般的に苦手」じゃなかったの!?
私だけ、特別……?
「そういうお前はどうなんだ? 好みの男のタイプとか」
「あ、気になるー? 気になっちゃうー?」
私の好みを知りたいって、それは……!
「あぁ、もしお前の好みの男がいたら、そいつにはフリである事を伝えた方が良いだろうからな」
……あぁ、そういう事。
私達は悪企みで繋がってるんだもんね。
だから女の子扱いしないでいられるし、他に好きな人がいる可能性も受け入れられる。
さっきの「そうなった時に考える」も、全否定すると今の関係が壊れかねないから、無難な答えをしただけなんだね。
「へー、やっさしーじゃん」
ありがとう、正気に戻してくれて。
……でも悔しいからちょっと仕返し。
「そーだなー……。あたしを守ってくれる人、かなー」
無難な言葉。曖昧なイメージ。
「それとねー、頭の回転の速い人ー」
普段の会話なら「そうか」で流されるような話題。
「それでいて優しい人ー」
でも私の好きな人を見つけようとしている千重里君には、この上なく興味がある話だろう。
「そりゃあ見つけるのが大変そうだな」
だからこの一言は、千重里君の平静を乱せる。
「それがねー、一人見つけてるんだよねー」
目を見開いた!
そしてすぐに表情を戻した。
ここまで予想通りの反応をしてくれると、さっきのもやもやが晴れていく気がする。
「へぇ、そいつうちの学校の生徒?」
「そーだよー」
「学年は?」
「タメー」
こんなに千重里君から話をしてくれるのは、初めてかもしれない。
いつも私から話しかけるばかりだから。
また気持ちが浮き立っていくのを感じる。
……待て待て。落ち着かないと。
「クラスは?」
「なになにー? めっちゃ気にするねー」
ここで一呼吸。
ふぅ、では攻撃再開。
「うちのクラスだよー」
ふふっ、千重里君の勝利を確信した顔。
そして動揺。
そして落胆。
「なーにー? どーしたのー?」
やっぱり千重里君は手強いな。
私の言ってるタイプが千重里君を示している事を理解した上で、浮かれる事なくからかわれたんだと判断したんだね。
「そうか。そんな奴もいるんだな」
「そんな事言ってー。気付いてるんでしょー?」
「あぁ。からかわれてる事に、な」
別に本気にしてくれても良かったんだけどなぁ。
ごめん、嘘。
気付いてくれて安心してる自分がいる。
「ちぇー、もうちょっとドギマギしてもいーのにー」
こんなやり取りが楽しくて仕方がない。
付き合うとか恋人とか、、なんて、どうしていいかわからないから、もう少し、もう少しだけこういう関係で。
読了ありがとうございます。
きれいな恋してるだろ
ウソみたいだろ
付き合ってないんだぜ。それで…
次話もよろしくお願いいたします。